神技
自分の身の丈ほどもある名剣フルンティングを突きつけ、ヴェオウルフはジークフリートに尋ねた。
「シグルドよ!今一度ミズガルズへ戻るつもりは無いか!?」
ジークフリートは、やはりと心の中で呟いた。
「お主が、ヴァルムンクの遺児であることは聞いた。しかし、これまで築いた信頼や、立場を棄ててまで拘る理由があるというのか?」
まるで諭すように語りかけるヴェオウルフであったが、ジークフリートはその言葉に揺らぐことは無かった。
「理由ならあるさ。ヴェオウルフのオッサン」
ゆっくりと炎の魔剣を構え、ジークフリートはヴェオウルフの問いかけに答えることにした。
「俺は、ヴァルムンクの剣王ジグムントの一子ジークフリートだ。父の命を奪ったのは、現ミズガルズ国王のフレイだ。俺は今まで仇に仕えていた訳だ。そして!!」
ジークフリートは、その戦争の引き金となった魔神族の血の力を発動させた。
すなわち魔神化を行ったのだ。
その髪が、白く染まり、蒼い瞳が真っ赤に染まって行く。
魔導装甲に刻まれた刻印の光が、真紅から金色に変じる。
「そ、その姿は!?」
「これが、ミズガルズに戻れない理由、俺には魔神族の血が流れている。ミズガルズの国教、光の聖教会は、魔神族の血を認めることは無い!それが元で戦争を引き起こしたくらいだからな!それに!!」
ジークフリートはガルガンチュアの隣で、観戦しているブリュンヒルデ達に視線を移した。
「こんな俺にも、信じてついて来てくれる奴らが出来た!その信頼に応えるために、あんたを倒させてもらう!!」
「ぬううぅ・・・」
ヴェオウルフは、無念の思いを滲ませる様に、唇を噛んだ。
「是非も無しか・・・止むを得ん!祖国の障害になるものは、この剣にて打ち果たすのみ!!往くぞジークフリート!!!」
ヴェオウルフがフルンティングを振り抜き、臨戦態勢に入った。
ガルガンチュアが立ち上がり、決勝の開始を宣言した。
「それではこれより!!大闘技祭の決勝戦を執り行う!!双方持てる力の全てをもって闘え!!それでは決勝戦開始!!!」
宣言と同時に、二人の闘気が爆発した。
しかし、ジークフリートの闘気がその拮抗を崩す。
人の域を越えた闘気が、ヴェオウルフの闘気を圧倒する。
「ウオッ!?」
ヴェオウルフがたじろいだ瞬間、ジークフリートが光の速さで踏み込む。
炎の魔力を宿した刃が振るわれる。
それを受け止めようと、ヴェオウルフがフルンティングを正眼に構える。
そのフルンティングに、ジークフリートの炎の魔剣が叩きこまれる。
フルンティングに当たった炎の魔剣は何の抵抗もなくその刀身を斬り飛ばした。
「何ッ!!!?」
そのありえない光景に、ヴェオウルフが驚愕した。
しかし、ジークフリートは止まらない。
「行くぞ!ヴィー!!」
『おうさ!ご主人!!』
その瞬間、二人の声が重なった。
「『鎧襲一燭!!!!』」
十字の閃光がヴェオウルフを切り裂く、ジークフリトはそのままヴェオウルフの脇を通過し、背後に抜けた。
そのまま二人は動かない。
成り行きを見守る観客達も、開始直後のジークフリートの攻撃に、誰一人として着いて行けていなかった。
観客達が見たのは、ジークフリートが物凄いスピードで、ヴェオウルフの横を通過した瞬間、閃光が走り、その後にフルンティングの刀身が、折れて武舞台に落ちた光景であった。
ピシリと何かが、罅割れる音が響いた。
それは、ヴェオウルフの竜麟の鎧の砕け散る予兆だった。
罅が全身に広がり、鎧は木端微塵身なった。
ヴェオウルフが倒れる。
既に、意識の無い彼を振り向き、ジークフリートが静かに告げた。
「これぞ神技、鎧襲一燭!」
そのあっという間の惨劇に、闘技場はひそとして静まり返っていた。
ヴェオウルフさん瞬殺の巻!!
いいとこなしでした。
そしてついに、ガルガンチュアとの決戦にジークフリートが挑みます。
以下次回!!
神技の名前を当て字に変えました。