決勝戦開始
魔神族達の暗躍がヴィーグリーズを脅かしているとも知らず、大闘技祭の決勝を行う朝がやって来た。
早朝より開放された闘技場では、既に観客達が所狭しと集まってきていた。
昨日と同様に、決勝の前座として出場選手達による競技会が始まっていた。
バランス感覚を養う綱渡りや、魔力量を競う競技などが種目である。
今日もブッチギリで、ブリュンヒルデとリンドブルムの一騎打ちの様相を呈していた。
特に、己の力に目覚めたリンドブルムの成長ぶりは凄まじく、何度もブリュンヒルデを追い詰めていた。
「くそっ!また負けた!」
「まだ、力に振り回されているぞ。闘気はより繊細に操らねばな!」
「くうううう・・・」
そんなやり取りをゴライアスやカーシャは、呆れて見ていた。
「またやってるよ。姫様も随分とブリュンヒルデに突っかかって行くもんだね」
「だが、姫様が気にするのも無理は無い。カーシャ殿は気付かれたか?あのブリュンヒルデは、母君、ヒルデガルド様にその物腰が似ているのだ」
「ヒルデガルド様が亡くなった時、姫様はまだ赤子だったじゃないか」
「そのあたりも含めて、ガルガンチュア様は、後妻にあのブリュンヒルデを迎える気なのかもしれん」
「ああ・・・なるほどねぇ」
確かに、ブリュンヒルデが、リンドブルムを導く様子は、まるで姉妹か親子のそれであった。
結果、競技会の総合第一位はブリュンヒルデであった。
続くニ位には、リンドブルム、次点はゴライアスであった。
陽は中天に昇り、遂に決勝の開始時間となった。
余興として、ブリュンヒルデと、リンドブルムの二人が鎧を纏い、それぞれの光の翼で、客席の上空を飛ぶというパフォーマンスが行われた。
リンドブルムが纏っているのは、神鎧甲ではない。
女性部門の決勝で、ブリュンヒルデに傷を入れられたがゆえに、かつて纏っていた深紅の魔導装甲に戻していたのだった。
二人の戦乙女の舞いに魅了された観客達は大いに盛り上がった。
そして、選手入場を告げるアナウンスが響いた。
『西門より、流浪の黒騎士、ジークフリート殿入場です!!』
跳ね橋が下ろされ門が開き、その中からジークフリートが姿を現すと、観客達は熱狂した。
既に、このヴィーグリーズの誇る重戦士ゴライアス、魔法剣士フェルナンデスを倒したその武名は響き渡っていた。
なにより、ヴィーグリーズの民は戦士を敬う、そこに他種族の血が混じっていようが、武装による強化だろうが、はたまた他国の戦士だろうがは関係ないのだ。
それが、ジークフリートには心地よく、そして同時に不快であった。
生まれ変わる前の自分であればどうであったろうか、弱者はこの国にとって不必要な存在であるのか、それがかつてヴィーグリーズと戦った訳であったからだ。
『東門より、ミズガルズの英雄にして将軍、ヴェオウルフ殿入場です!!』
そして、これから闘う相手は、かつて上司と仰いだものである。
あの策謀渦巻くミズガルズにおいて、数少ない信頼のおける者の一人であったヴェオウルフ。
その英雄譚に憧れた一人の騎士として、ジークフリートは複雑な感情を有していた。
しかし、後戻りは出来ない。
自分の居場所はすでにミズガルズには無いのだ。
老将の視線を正面から受け止めつつ、ジークフリートは覚悟を決めた。
この英雄の伝説に、今日この場で終止符を打つことを。
かつては仲間であり、そして目標でもあった上司、将軍ヴェオウルフに挑むジークフリート。
その胸に去来するのは、戦いへの喜びではなく、悲しさだった。
以下次回!!