暗躍する者達
次の試合は、またしてもヴェオウルフの圧勝であった。
そもそも、身の丈ほどもある刃を持つ名剣フルンティングに加え、その身を包むのは、かつて彼が倒した邪竜ニドヘグの鱗で造られた竜麟の鎧、あらゆる状態異常から身を守り、竜の強大な力を得ることのできる上級魔導装甲であり、いかにヴィーグリーズの闘士達が歴戦の勇者であろうとも、実力もさることながら、装備までも上回る彼に、勝つことは不可能といっても過言ではなかったからだ。
これで残すは、決勝のみとなった。
大闘技祭も、最終日を前に、古豪ヴェオウルフが勝つか、それとも、若き勇者ジークフリートが勝つかで大いに盛り上がっていた。
さて、その華々しいヴィーグリーズの祭りとは裏腹に、国境に位置する砦では、警護の任に付いた兵士たちが愚痴をこぼしていた。
「あーあ!大闘技祭も明日で終りだって言うのに、俺達は今日もつまらねえ任務で一日が過ぎちまう!見たかったなー!決勝戦!!」
「そう言うなよ。王も差し入れに酒を送ってくれてるじゃないか。」
「でも、飲めるのは交代時間だけだぜ!それにやっぱりヴィーグリーズの男なら、闘技祭の決勝が見られなきゃ悔しくて当然だろ!?」
「そりゃそうだ。」
ハハハと笑い合う兵士達だが、中の一人が異変に気付いた。
「おい!森が静かだと思わないか!?」
「・・・本当だな。警戒体勢を取るよう隊長に進言しよう!」
「それは困りますねぇ。その前にあの世に行って貰いましょうか。」
その声のした方に振り向くと、目も覚めるような美人がそこにいた。
ただし、その下半身は蛇である。
「くそっ!!」
「警鐘を鳴らせ!!」
「遅いわ!!」
滑るように間合いを詰めた女が、両の手を振るった。
応戦しようとした兵士達の首が、宙に舞った。
その手には、円月刀が握られていたのである。
「さて、明日にはヴィーグリーズの都を急襲しなければならないんだから、余計な手間を掛ける訳にはいかないわよ。」
そう言う彼女の背後から、次々に蜥蜴の顔を持つ亜人達が、砦内に入って来た。
「エキドナ様。全員配置に就きました。」
「ならば結構。始めなさい。」
命令と共に、亜人達は、砦の攻略を開始した。
剣撃の音と、兵士達の悲鳴が聞こえてくる。
その声を背に、蛇王ヨルムンガルドの将、エキドナは明日行われる大攻勢を前に、戦いの余韻に浸っていた。
その彼女の上から声がかかった。
「相変らずいい趣味してるわね。エキドナ。」
見上げると、そこにはフードを被った女がいた。
しかし、その背にはドラゴンの翼を想わせる飛翼が存在していた。
その飛翼を羽ばたかせながら、ゆっくり降下してきた女性は、着地すると、懐から水晶を取り出し、エキドナに渡した。
「フェニヤじゃない。お久しぶりね。ヴィーグリーズへの潜入工作、ご苦労様。
これは?」
「進軍の合図の為の、念話水晶。希少なアイテムなんだから、丁寧に扱ってよね!それと、なんでいつも上から目線なのよ!」
「私の方が年上だからでしょう。少しは年長者に敬意を払いなさいな。」
「ううう・・・。」
恨めしそうに睨むと、フェニヤは空に舞い上がった。
「とにかく渡したからね!くれぐれもファーブニル様の足を引っ張らないでよね!」
そう言い残すと、風の如く去って行った。
「あれで本当に古代竜なのかねぇ。」
「エキドナ様、完了いたしました。」
音もなく報告に来た配下に、エキドナは次なる指示を下した。
「よし!このまま本隊は、ヴィーグリーズへ進軍!後は黒龍太子ファーブニル様の下知に従う!!」
こうして、戦いは更に苛烈を極めようとしていた。
魔神族側の動きも活発になってきました。
ジークフリートの大闘技祭も、ついに決勝!
ヴェオウルフ、そして、ガルガンチュアとの闘いは!?以下次回!!