風と炎の激突
試合が始まると同時に、フェルナンデスは何気ない仕草で、レイピアを横に振った。
ピュンという風切り音と、ジークフリートが地を這うように横に飛んだのは、ほぼ同時だった。
「ほう・・・。」
フェルナンデスが感嘆の呟きを洩らしたが、観客達はなぜジークフリートが突然、あのような回避行動をとったのか分からなかった。
しかし、それはすぐ理解されることとなる。
ジークフリートが立っていた場所と、フェルナンデスが立っていた場所、その射線上にある柱が、ズッという音と共に、斜めにずれ、ゆっくりと倒壊していったのだ。
「あっぶねー・・・。」
観客達の歓声が響く中、ジークフリートはほぼ無意識に反応することが出来た、自分の第六感ともいえる危機回避能力に感謝した。
「気流刃、よく躱せましたね。驚きました。」
「随分とえげつない攻撃じゃないか。不可視の真空衝撃波による奇襲とはな。」
「それを予備知識もなく避ける貴方も大概ですがね。参考までに、なぜ避けられたのか教えてくれませんか?」
「なぁに、見えない攻撃の得意な仲間がいるんでね。一緒に鍛錬するうちに、なんとなく避けられるようになっただけさ。」
ジークフリートは、チラリと観覧席に座るシュベルトライテを見た。
フェルナンデスは、やや呆れながら言った。
「それは、一種の境地とも言うべき技能ですよ。それをなんとなくとは、世の剣士達が聞けば、泣いてしまいますよ。」
世間話でもするように、二人は話し合う。
しかし、その会話の間に、フェルナンデスの次なる技が完成させていた。
なんと、フェルナンデスが五人に増えたのである。
『この姿でのみ使用可能な、幻影陣です。果たして破れますでしょうか?』
言うと同時に、五人のフェルナンデスが殺到してきた。
それに対し、ジークフリートは単身で挑んでゆく。
観客達は、ジークフリートが切り刻まれる未来を予想した。
しかし、その予想は外れることとなる。
五人のフェルナンデスが繰り出す刺突や、真空衝撃波による連続攻撃を、ジークフリートは全て凌いでみせたのである。
「なに!?」
その理由に、フェルナンデスは驚愕した。
なんと、ジークフリートは目を閉じて応戦していたのである。
「馬鹿な!その様な方法で!!」
「なまじ目で見るから惑わされる。ならば初めから見なければいいだけの事!」
「それは、心眼ではないか!その歳ですでに開眼しているというのか!」
「ガルガンチュアに挑もうって言うんだ。この程度は出来なきゃお話にならんだろ!!」
「クッ!!」
フェルナンデスが僅かに怯んだ隙を見逃すようなジークフリートではなかった。
「行くぞ!!炎刃波!!!」
振り抜いた剣の軌跡から炎の刃が形成され、フェルナンデスに襲いかかる。
フェルナンデスは、それを気流刃で迎撃する。
ドウン!と空間が破裂するような音が鳴り響き、爆発によって黒煙が湧き上がる。
しかし、二人は止まらない。
互いの技を駆使し、相手に一撃入れようとするが、決定打にならないのだ。
そこで、ジークフリートは更にギアを上げることにした。
「じゃあ、もう一段階上に行かせてもらうぞ!!ヴィー!!」
『了解だ!ご主人!!』
「『炎竜化!!!』」
ジークフリートの身体が、炎を纏いその背に、炎で造られた翼が顕現する。
ゴライアスとの闘いでも見せた、炎の魔剣の力と一体になる技である。
フェルナンデス戦も佳境です!




