魔風の剣士
冬の寒さを感じさせない闘士達の競技会は、一段落し、ついにジークフリートとフェルナンデスの準決勝が始まろうとしていた。
退場してきたブリュンヒルデが、精神統一を行っていたジークフリートに声をかけた。
「その様子では、私の活躍は見ていなかったようだな。」
若干恨めしげに見上げながら、ブリュンヒルデが詰め寄って来た。
その途端、なんとも甘ったるい香りが漂ってきた。
ブリュンヒルデの汗の香りである。
ジークフリートは、ブリュンヒルデの両肩に手を置き、身体を押して離した。
「悪かったよ。でもその代わり、次の試合は必ず勝つさ!」
やや、顔を赤くしながらの返答に、なにやらしてやったりという顔をしたブリュンヒルデが、軽いステップを踏みながら振りかえり答えた。
「それでは足らん!目指すは優勝あるのみだ!!」
ブリュンヒルデのその言葉に、ジークフリートは震えた。
心の底から湧き上がるものがあったからだ。
(これだからな・・・。ヤル気にさせられてる自分がいることにも、喜びを感じてしまっているんじゃあ認めるしかない。俺は、ブリュンヒルデに惚れている。)
自分の心に素直になったジークフリートは、吠えるように答えた。
「当然だ!!!行ってくる!!見ていろよヒルデ!!!」
ブリュンヒルデは満足そうに頷くと、魔法の指輪を発動させ、ドレス姿になると、王の観覧席へと向かった。
武舞台の上へ昇ると、フェルナンデスの入場が始まった。
「「「「キャーーーー!!!フェルナンデス様ーーーー!!!!」」」」
まるで、アイドルのコンサートの様な黄色い声援が響き渡った。
その声に応えるように、颯爽とフェルナンデスが現れた。
マントを風に靡かせ、肩まである髪は流れるような美しさである。
纏った魔導装甲は、薄い緑色、得意とする風の魔法の領域を示す色である。
そして、やや風変りな刻印は、精霊魔法との合成に特化したものであろうということは予想できた。
金額にすれば、人が一生食べていけるだけの額になるだろう。
それはつまり、王の絶対的な信頼を得ているということ、その証明でもある。
バサッとマントを翻し、ジークフリートを指差し告げた。
「ゴライアスを倒すとは、流石と言っておきましょう。しかし、私を倒せぬような者に、姫の未来を委ねるなど出来ぬと言っておこうか!ヴァルムンクのジークフリート!!」
まるで決闘に挑む騎士のようであるその姿に比べ、その闘気は、波紋の一切立っていない水面のようである。
そして、試合開始前であるにも関わらず、フェルナンデスは、自身の隠された力を開放した。
髪は逆立ち、瞳が真緑に染まる。
風の精霊が集い、精霊光がフェルナンデスの周囲で踊る。
魔導装甲の刻印が光を放ち、全力で稼働していることを示す。
「アールヴ(この世界のエルフのこと)の血族か!?」
その変身に、ジークフリートはかつて交遊したことのある、アールヴを思い出した。
「残念!少し違います。私はアールヴと人との混血、つまり半妖精族です。使える力は、アールヴを越えていますがね。」
その力ゆえに、アールヴから忌み嫌われるその姿、それを晒し、闘いに挑むということ、それは不退転の決意の現れ、そして、ガルガンチュアやリンドブルムへの忠誠の証し。
フェルナンデスに応えるように、ガルガンチュアは立ち上がり、試合開始を宣言した。
「それでは!準決勝第一試合!!始めい!!!」
フェルナンデスさん最初から全開です!
風の魔剣士との闘いが始まりました!
以下次回!!