不殺の剣
ジークフリートは転生者である。
このアズガルド世界に生まれ変わり、十五歳で初陣に立った彼は、その戦いで初めて人を斬った。
殺らねば殺られる、その様な場所では、道徳心や常識など意味を持たない。
その夜は、眠ることが出来ず、何度も吐いた。
だが、その地獄に身を置いても、手に入れたいものがあった。
あの、華の様な少女のためなら、そう心に決めて、国家の為、全てを捧げた。
しかし、それが幻想と消えた今、ジークフリートは決意したことがあった。
それは、不殺の剣、それを開眼することである。
神技を手に入れた今なら、それが可能かもしれない。
なにより、自分にはこの上ない手本が目の前にいたからである。
ジークフリートは、チラとガルガンチュアの観覧席の隣で、自分の闘いを見ているであろうブリュンヒルデに視線を送った。
ブリュンヒルデは、いち早くその視線の意味を理解した。
「どうやら、仕掛けるようだぞ。主殿は。」
「あの相手にですか?姉上それは少し難しいのではありませんか?」
ブリュンヒルデと共に、ガルガンチュアに招かれていたシュベルトライテが疑問を口にした。
ここには、彼女の他に、ジークルーネとリンドブルムも着席している。
ディートリヒや、エルルーン、カーシャも同席を許されていたが、三人とも恐縮して辞退していた。
「ほほう。ゴライアス相手に、何をしようというのだ?ジークフリートは。」
ガルガンチュアも、興味を惹かれたらしく、話題に割り込んできた。
「私も予選で使った不殺の剣だ!相手を生かしたまま闘う力のみを奪う上級秘技だな!!心技体いずれが欠けても、成功はしない!」
「なるほど、私が喰らったアレか・・・。」
リンドブルムが予選を思い出し、顔をしかめた。
「甘いな・・・。」
「確かに戦場ならそうだろう。だが殺すよりも、生かすことの方が難しい。その意味、貴方ならご存知だろう?」
「ふん・・・。」
ブリュンヒルデの言に、ガルガンチュアは押し黙った。
ジークフリートは、飛翔を止め、ゴライアスの前に降り立った。
「牽制の火球では、勝負が着かんな。特にお前相手ではな!ゴライアス!!」
ジークフリートは吠えると、構えを取る。
ゴライアスも、ガードの中でニヤリと笑うと、ハンドアックスを振り、ガードの構えを解いた。
『決着が望みか!ジークフリートよ!!だがそれはこちらとて同じよ!!』
二人の闘気が、見る見る膨れ上がって行く。
ジークフリートは、その闘気を研ぎ澄まし、ゴライアスは、闘気を燃え上がらせた。
『行くぞ!!旋風乱撃刃!!』
ゴライアスのハンドアックスが、手の中で回転し、更に身体ごと回転させながら突撃してくる。
その技の余波で、武舞台の石畳が削り取られていく。
巻き込まれれば、ただでは済まないだろう。
しかし、目の前に迫るその攻撃を見ても、ジークフリートの心は乱れなかった。
(シュベルトライテの技の方が、もっととんでもなかったぞ!)
そう心の中で叫び、ジークフリートは刃の嵐の中に飛び込んだ。
ズドドン!!!
大気を揺らす衝撃が、闘技場に響いた。
次回決着です。