ヴァルムンクの宝剣
シグルドは、女神の封石に近寄った。
腰まではありそうな美しい金の髪が、風に揺られたような形で、その時を止めていた。その顔に、シグルドは自分の愛した女性の面影を見た。
(似ている・・・)
だが、またしても先程より感じていた違和感が、シグルドを襲った。
(違う!この女神が彼女に似ているのではない!彼女の方が、女神に似ていたんだ!でも何故だ!?何故、俺はそんなことを思うんだ!?)
その疑問を、ついシグルドは口に出した。
「俺は、貴方を知っているのか・・・」
そうシグルドが呟いた時、封石の中の女神が、ふとほほ笑んだように見えた。またしても幻かと、シグルドが困惑していると、司教ミーメが訊ねて来た。
『いかがなさいましたかな?』
その言葉に、シグルドは慌てて振り返り、取り繕うように質問を返した。
「いや・・・女神の封石のある都市や王国は栄える、と聞いたことがあるのに、この王国は滅んだ。それになぜここに置き去りにしたのかと思ってな」
司教ミーメは頷き、封石を見ながら答えた。
『当然、ミズガルズの兵達は持ち去ろうとしましたが、どのようにしても、この封石を動かすことは叶わなかったのです』
司教ミーメは、祭壇の前を指差した。
そこには、一振りの剣が自然石に縫いとめられていた。
『その剣は、我が国の宝剣、グラム、それを抜くことが出来る者が現れぬ限り、この封石はこの場所にあり続ける。そう言い伝えられています。何故なら、その者こそが、世界を滅びより救う存在とされているからです』
そこで、ふっとミーメはシグルドに顔を向けこう続けた。
『それに、未来永劫滅んだままかは分かりませんからな・・・』
その最後の言葉には、意味深い含みを持たせたような言い方だったが、話を聞いてシグルドは考え込んだ。
(グラムって確か英雄ジークフリートの剣だよな?そのうえ剣を抜けたら世界を救うって、アーサー王の伝説でもあるまいし、俺が抜ける訳ないよな・・・)
この辺りが、シグルドをして、自らを転生者と思わせる部分である。時としてふいに元の世界での記憶が蘇り、こうして知りえるはずのない知識をシグルドに与えてくれるのである。
(やはり、俺はこの世界の人間ではない・・・こうしてここにいることに何か意味があるのだろうか・・・)
そこまで思って懐の宝珠に触れた時、司教ミーメがこう問いかけて来た。
『どうです?一つ試しに抜いてみる気はございませんかな?』
なんとなく先が読めますか?ですよね?