二つの流星
神鎧甲を装着していたとはいえ、リンドブルムは受けたダメージの大きさに立っているのがやっとの状態であった。
そのリンドブルムを前に、ブリュンヒルデは宙に浮いたまま語りかけた。
「よく聞け、リンドブルム!そなたの母、ヒルデガルドはトール神の戦乙女であった!」
その言葉が、朦朧としていたリンドブルムの意識を現実に引き戻した。
「な、なにを言っている?母上が戦乙女だと?」
「そうだ!そもそも、ヒルデガルドの意味は、ヒルデに次ぐ、という意味だ!私もかつて共に、轡を並べたことがある!彼女の娘なら、その体の内に、戦乙女の力を宿しているはずだ!呼びさませ!その力を!!」
止めを刺しに行かないブリュンヒルデを怪訝に思いつつ、観客達は、リンドブルムの復活を願っていた。
リンドブルムもまた、ブリュンヒルデが自分に止めを刺さないのを不思議に思いつつ、語られた言葉が真実であると直感で感じていた。
そして気付いた。
自分の内に、未だ力が残されていることに。
それは、闇の中に灯った光明のようであった。
その光明の中に、リンドブルムは、母の姿を見たような気がした。
『勝者の力!!!』
それは、自然と口から出た言葉だった。
赤い燐光が、身体を包み、その背から光の翼が出現した。
ブリュンヒルデが、微笑んだ。
「そうだ!それでこそだ!リンドブルムよ!着いてくるがよい!!」
そう言うと、ブリュンヒルデは空に向け飛び上がった。
それを追い、リンドブルムが羽ばたいた。
「「「「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
観客達は、突然のリンドブルムの復活と、空飛ぶ二人の戦乙女に歓声を上げた。
あわてたのは、ブラギである。
闘技場の上には、客席を守るための結界があるのだ。
このままでは、二人共、結界に激突する。
瞬時に、ブラギは自分の弟子達に、念話の魔法で命じた。
『結界を切り替えよ!上部を覆うのではなく、客席を包むのだ!!』
正に二人が激突する寸前に、結界が切り替えられた。
ブラギは、安堵のため息をついた。
「これは、心臓に悪いわい・・・。」
そのブラギに、ガルガンチュアが声をかけた。
「御苦労さん、先生。それにしても、コレは驚きだな。」
見上げた先の空には、二つの流星が舞っていた。
流星は、ぶつかっては離れ、再びぶつかるということを繰り返していた。
ブラギはかつての呼び名が、ガルガンチュアの口から出たことで、彼が本当に驚いていると、実感した。
空の上で、リンドブルムは雷鳴の斧槍を振り続けていた。
しかし、やはり空中戦においても、ブリュンヒルデに一日の長があった。
だが、リンドブルムに恐怖は無かった。
なぜなら、ブリュンヒルデは自分に空中戦の仕方を教えているのではないかという確信があったからだ。
致命的な隙は何度もあった筈だ。
なのに見逃している。
リンドブルムは、ブリュンヒルデのその背中に、母、ヒルデガルドの姿を重ねていた。
戦乙女はやっぱり飛ばないとね!
ちなみに、ヒルデガルドの名前の意味は、カラスが勝手に決めました。
本当は違います。(笑)