女神の封石
シグルドは、ふと感じた疑問に、司教ミーメに質問をぶつけた。
「ちょっと待ってくれよ!オーディン神が認めたと言うのならのなら、異端に認定されてこの国が滅んだのは説明が付かないだろう!」
『さよう・・・王の結婚は原因ではありません。』
司教ミーメは、肩を落として重々しく口を開いた。
『その当時、光の聖教会の教皇様は、体調が思わしくなく、次代の教皇を選ばれるべく、その候補を選んでおいでになりました。私は、その候補に選出されていました。対立候補の者にとっては、私を陥れるには、ちょうどよい口実だったのです。』
シグルドは愕然とした。
現教皇は、教皇の地位を得るために、一国の民草や騎士たちの命を犠牲にしたというのである。
しかし、思い当たる節が多すぎた。シグルドは、かの教皇の事をよく知っていたのである。なにせ、自分の愛する女性との仲を引き裂いたものの一人でもあったのだから、その怒りは思わず口を突いて出た。
「腐ってやがる!どいつもこいつも!」
シグルドは、俯きながら叫んだ。
自分が命を賭けて守って来た者の中には光の聖教会の教えもあった。それに関わる最上位の存在がその程度の者だったのかと嘆きたくなった。
だが、その悲しみに暮れるシグルドの視線の端を通り過ぎる者があった。それは、ヴァルムンクの紋章の入った青い衣を着た少年である。年のころは四、五歳といったところであろうか、元気そうに駆け抜けて行くと、廊下の向こうに消えて行った。またしても、亡霊の類かと思ったシグルドであったが、司教ミーメはその存在に気付いていないようであった。自分の思いすごしかと思ったシグルドであったが、その幻影は再び現れた。笑顔で走り回る、少年の幻影、しかし、テラスに差し掛かった時、少年の幻影の前に、その両親らしき人物が立ち、女性の方がその少年を抱き止め、そのまま抱き上げた。しかし、シグルドにはその女性の顔が靄にかかったように、はっきりと見ることが出来なかった。父親らしき人物についても同じである。
『どうかなされましたかな?』
ふと、我に返ったシグルドは、不思議そうに尋ねて来た司教ミーメに、どう答えたらよいものかと考えていたが、どうやら目的地に着いたようで、ミーメが振り返り、入室を促して来た。
『着きましたぞ。』
しかし、シグルドにはその先に在るものが、漠然と理解出来ていた。
(そんな馬鹿な、ここには一度として訪れる事も無かったっていうのに、そんな記憶があるはずがない)
しかし、扉を開けた先にはシグルドが想像していた通りの光景があった。
大聖堂の中は、吹き抜け構造になっており、破壊された今も荘厳な雰囲気に包まれていた。
その最前列、粉々に砕かれた、ステンドグラスの前に築かれた祭壇に、それは存在していた。
「何故・・・ここに女神の封石が!?」
それは、透明な結晶に、女神と呼ばれている存在が封じ込まれてものであった。
ミズガルズの王都、その光の聖教会の大聖堂に祀られたものと、全く同じ存在であるとシグルドは確信した。封じられた女神の趣はかなり違うものではあるが、シグルドの記憶に在る大聖堂の女神の封石と、イメージがぴったり重なった。
王都に祀られていた女神は、八本の足のある騎馬に乗り、軽量化したと思われるようなフルプレートの鎧に、馬上槍と盾を持ったものであったのに対し、この女神は、羽飾りのついた兜を被り、その見事な胸の形が解るほど製形したブレストプレートを身に付け、肘までの手甲と、そして腰から下は腿の半ばまでスリットの入ったスカート、膝までの騎士鎧を纏い、片手剣と丸い形のシールドを持っていた。
導きの宝珠は、その封石を指し示していた。
はい!ヒロイン出ました!姿だけですが・・・。