-Epilogue-
「よく来たな勇者よ。大義であるぞ。
望むなら我が下僕となることを許そう」
魔王城、最奥の玉座にて魔王がそう問いかけてきた。
なかなか燃える格好いいことを言う。
少し乗ってやるか。
ここまで消耗もしてないし。
「悪いが断る。むしろ魔王よ、跪き、許しを請うといい。
そしたら愛人にしてやらんこともない、そうでなければ性奴隷だ」
そう言うと魔王は凄みのある笑みを浮かべた。
魔族に共通する青白い肌に、二本の角。
その肌は今まであった誰よりも薄く、角も決して大きくはない。
「なるほど死を望むか。ならば遠慮は要らん。
貴様らの尊厳を踏みにじってやろうぞ」
魔王は強く尊大だった。
可愛らしい顔に一切の隙はなく、殺意だけを感じた。
――しかし、スペックは劣化版の偽勇者だった。
多彩な魔法と、巧みな剣技、魔法剣士のお手本みたいな動きをしていた。
ただ、いかんせん遅すぎた。
決着までに三度しか剣を振るわなかった。
一振り目が服を掠めて魔弾を弾き、二振り目は肩を引き裂く。
最後の一振りは喉元へ。
魔王の肩口は血で赤く染まっていた。
これなら、一度撤退などしなくても良かった。
途中の四天王は既に各地で撃破してあり、魔王城はこいつしかいなかった。
哀れ魔王。
しかし、魔法使い並みの良い肉付きにツリ目の美人。
左右の禍々しい角も、この弱さなら可愛らしい。
もっとも、その顔は悔しさによって歪んでいたが。
「魔王ともあろうものが見苦しくあがくのか?」
「くっ」
「敗者は勝者の好きにできる、古来よりお前らが公言してきたことだ。
魔王軍が人間にしてきた仕打ちを忘れた訳ではあるまい」
「いっそ殺せ、殺してくれ」
「嫌だ、お前は今日から俺の奴隷だ」
こうして魔王は俺の奴隷になった。
ここに、今代の魔王と勇者の戦いは終結した。
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城まで仲間を引き連れ戻り魔王討伐をなしたと伝えると、謁見の間へ通された。
魔王にはフードを被せておいた、城の兵士はだれも気付かなかった。
通されたのは俺だけ。
仲間たちは外に待機させた。
「世界を救っていただきありがとうございます」
王様でなく、あの時と同じ姫様の登場。
なんでだろうか、やっぱり女の子のほうが話を聞き入れやすいと思われたのだろうか。
まぁ、実際そうだったが。
「いいえお姫様。そのような感謝の言葉は要りません」
いつかと同じように受け答える。
それを見てか俺の素行を知ってか、姫様は少し難しそうな顔をする。
「少し良くない噂も聞きましたが、お変わりのないようで安心しました。
父から望む褒美は与えると聞いています。お望みのものはありますか?」
凛とした声が気持ちよくて、やっぱり姫様は可愛いなぁ。
とりあえず、少し、勘違いを正しておこう。
「そうでなくて、俺、もう勇者じゃないです。 お迎えに上がりましたお姫様」
「あ……」
直後、外で盗聴をしていた魔法使いの放つ爆風と暴音。
土埃にまみれる謁見の間。
強引に抱き寄せた姫の身体をかかえて俺は、城下へ飛び降りた。
声にならない悲鳴を上げる姫を強く抱きしめ、どんどん降下していく。
着地直前にふわっとした風に受け止められる。
俺の魔法使いの仕事は、いつも完璧だった。
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城下に降り立つ。
後ろから兵士がわらわらと出てくる。
俺は姫様を抱えて、城下を駆け抜けていく。
ふと、隣を見る。
僧侶が苦い顔をして、ゴミ虫を見るような目で見てきた。
魔法使いは仕事を終えて満足そうにニチャッと笑っていた。
商人と魔王はドン引きしていた。
姫様は声を上げて……笑っていた。
あの日交わしたもう一つの約束。
『俺、姫様の事が好きです。だから魔王を倒して勇者の役目を終えたら、俺と一緒に来て欲しいです』
『……いいですよ。私も外の世界には興味があるんです』
悪戯っぽい笑みを浮かべる姫様。
世界を救ってと言った時とのギャップに驚いたけれど、更に惚れた。
城下を抜けて街道へ。
今日から俺は勇者でなくて生ごみ剣士だ……
少し前に勇者は廃業すると皆に言ったら、僧侶にジョブチェンジを告げられた。
『ゴミクズ勇者を辞めるなら、生ごみ剣士はどう? なんか強そうじゃない』
相変わらずのネーミングセンスだった。
自分勝手な人間だけど、付いてきてくれる人がいる。
両手に花畑の異世界生活、楽しまなきゃ損だ。
世界に広がるのは、迷宮・ドラゴン・未知の大陸。
仲間とともに旅をしよう。
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ゴミクズ勇者の生き方 -完-
ここまで読了いただきありがとうございました。
© 2015 筆茶