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めんたりんぐ!!  作者: 星田 憩
何かのたまご【高2】
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いのち


 いのち、ってなんだろう。


たったひとつ、とか。なにものにもかえがたい、とか。形容するものは社会にたくさんある。でもやっぱり、わからない。ひとのいのちは大事だと思うけれど自分のはひとより軽く思えるし、「しんでしまえ」って声はいまでも身体の内外をうろつくことがある。それでも、初めて自分の手で自分の皮膚を浅く切ったときに、罪悪感に似た何かがざわざわと込み上げてきたのが忘れられない。もうその傷は治ったし、それ以来血を見るようなことはしていないけれど、たまに自暴自棄にはなる。


 こんなもんだろう。そう思うこともあるし、誰かの目についてほしくてやらかすこともある。そんな不安定さの中で、私は生きてる。生きてる。この両手を二周しない歳でも、そこそこに悩みはあるし、アイデンティティみたいなものは幾度となく破壊されて、その度に泣きながら新しい輪郭をなぞった。それがあったから今の自分がある、なんて生意気なことも思えるし、出逢えてよかった人が、きっと、この歳より多い。


 父の職場の人が、最近様子が変だ、なんて話をちらと耳に挟んだ。うつ病、なんて、聞き慣れた単語も聞いた。きっと大人のうつは、子供のそれとはまた違うのだと思う。けれど私はどことなく、変な話だけど、親近感みたいなのを覚えた。きっと生真面目な人なのだろう。自分が許せないんだね。でも……。その先の答えはいまでも私が探しているものだったから続けられなかったけれど、私は心の中でその人に呼び掛けていた。名前も顔も知らない人。昨日の夜、母から告げられた内容は、その人の自殺だった。


 かわいそう、なんて言葉じゃない。どんな言葉にもできない気持ちがまた、ざわざわと這い上がってきて。「すごく優秀な人だったんだよ……だったって言うのもなんか変だけれど」父が口ごもって言う姿を見て、社会の陰を知った気がした。上のフォローだとか、子供もまだ小さくてね、だとか。他にも何か言っていた気がするけど、マンションから飛び降りたなんて言葉が、いまでも頭から離れない。


 どうして。どうしてなんだろう。この社会には「いのち」を語る言葉が溢れているのに、近しいひとを守れないんだろう。救えないんだろう。そしてまた、自分はこんなにも死にたがるのだろう。



 そのことがゆるせなくて、やるせなくて、それでやっと自分のコミュニティの小ささに気づくのです。自分のだめなところも、いいところも、ゆっくり知って。ときどき表裏一体なんだって気づいて。それでまたのんびり歩いて。寄り道して。ちがう世界へ飛んだっていい。どうか、どうか、最後に自分を責めて終わらないで。ゆっくり愛してきた自分を、自分で殺さないであげて。誰かが心の底から愛した自分を、殺さないで。世界は、社会は。ひとつだけじゃない。


 私が世間知らずなだけかもしれない。だから、知りたい。きっと知らなきゃいけないことがある。願いが通らない世界を。うやむやにされてしまう何かを。名も知らない「彼」が、どんなことを思って最期の決断をしたのかはわからないけれど、たしかに「彼」の瞬間はあったのだと思うから。あったと思いたいから。奥さんと出逢って、結ばれて、子供ができて。そういう瞬間が、たしかに……。


 ほんとうに言葉にできないことってあるんだなって思いました。「これを機に」その会社の体制が変わったとしても、ひとのいのちを機に変わるほどのことなんて、この世には数えるほどしかないと思うから。失われてからじゃ遅い。なんてありきたりだけれど。社会にはこわいことが多くて今から身が竦んでしまうけれど。でも、かならず、生きててよかったって心から思えることもあるはずなんです。だって、振り子はマイナスの振れ幅の分だけプラスに生きるから。どれほどの幸せが待ってるか、知れたもんじゃない。待ってなさい、ゆっくり会いに行くから。



 最後になりましたが、亡くなった父の職場の方のご冥福を、心より。お祈り申し上げます。

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