8*誕生
政幸がシェアハウスに来て4日目。
『パパとやりたいことリスト』の実行も順調に進み、一緒にお風呂に入ったり、おやつを食べたり、トランプゲームをしたり…
子供たちは学校へ行くのももったいないみたいで、この3日間、まっすぐに学校から帰ってくる。
それから、政幸の食べ物欲も若干満たされた。
昨日はラーメン食べに行ったからね!(笑)
…手術に向けて、少し太ってほしいな。
そう思い、今日は千代子さんと相談して今夜はステーキを用意することにした。
「じゃあ、私買い物行ってきます!」
そう言って靴を履き、立ち上がった…
……!!
ん!?
は、は、破水~!?
男の人も読んでくれてるかもしれないから、詳しくは話さないけど、破水したってことは、産まれるってことよ!
でもまだ、予定日まで2週間以上もある…
しかも、久々の出産。
私、落ち着け~!!
「お、おばちゃん…ステーキ、明日にしない…?」
とっさに私はそんなことを口に出した。
玄関にがに股で立ち尽くしていた私に千代子さんが、ゆっくり歩み寄る。そして、私に向かって、
「妊婦さんはお漏らしするのかね?」
いやいや、破水っす…!
子供、産んだことなくてもそれくらいは知ってるだろうと思ってたけど、千代子さん。その様子じゃあ知らないみたいですね……
「いや、お漏らしじゃなくて…破水…うっ…」
千代子さんに事情を説明しようとしたが、急に痛みが……!
「お腹、痛むのかい?」
千代子さん、やっと気づいてくれた~。
何も言えない私は、大きく頷く。
「じゃあ、やまちゃんのソファでひと休みしときな。買い物には私が行ってくるとするかね。みんなステーキを楽しみにしてるだろうからね~。」
千代子さん……気付いてない……!!
突っ込みたい。
だが、突っ込めない…
呼吸を整えて、私は痛みが少し和らいだのを見計らい口を開いた。
「おばちゃん、違う…産まれるの。だから政幸呼んで……うっ……」
またきた~!
この痛み、そして痛みの間隔。
間違いなく陣痛…
私の言葉をやっと理解した千代子さんは、急に慌てて、2号室へ駆け出す。
「美鈴ちゃんが…!美鈴ちゃんが…!政幸さん!ステーキは、あ、明日にしないと~!」
千代子さ~ん!!!
そこじゃないぃ~!
政幸を呼ぶ理由はそこじゃないぃ~!!
部屋で寝ていた政幸は、状況がわからず、寝ぼけながらこちらに来る。
ゆっくり……
い、痛い…
ゆっくり来るなよ!
急げよ!!
そんな私の気持ちは届かず、
「美鈴、腹痛いのか~?なら、ステーキは明日でもいいぞ。」
あぁ~。
……読者の皆様。
……特に出産のご経験者様。
私のムカつき、お分かりいただけますか?
陣痛中って、何故か痛い中、無性に腹立ちません?
それとも、私だけかしら…?
もちろん、政幸も出産のこととか知らないし、まだ予定日まで2週間以上もあるし、キチンと説明してあげだいんだけどね、痛いんです。
そして、腹立つんです!!!
「ちが~う!2人とも!赤ちゃん産まれるから、た、た、タクシー呼んでっ!」
そう叫ぶのが精一杯。
しかも、三人目だから早くしないと産まれちゃうぅ~!!
慌てまくる千代子さんと政幸。
そして、キレる私。
何とか政幸とタクシーに乗り込み、産婦人科へ到着。
即行、分娩室へ。
……
……
……
オギャア~!!!!
う、産まれた~!
超~安産。
そして、母子ともに健康。
…ん!?
政幸は?
いない…
結局、ビビって出産、立ち会えなかったみたい。(笑)
ま、いっか~。うん。
産まれたてホヤホヤの赤ちゃんを、落とさないよう慎重に抱き、ゆっくり政幸が私の元へ近づく。
「美鈴ぅ~。頑張ったなぁ~。こんなにでっかいの、よく出せたなぁ~。」
しみじみと赤ちゃんを見つめ、微笑む。
…おいっ!
と思ったけど、何も言わなかった。
だって、その幸せそうな顔を見れて幸せだったから。
私はさっきまでお腹の中にいた、政幸に抱かれているホヤホヤ人間に、
「これから、よろしくね。」
そう言った。
政幸は、
「お前のために、家族のために、パパは頑張るぞ~!」
そう言って、凄く可愛く笑った。
「あ、美鈴。ステーキは明日にしよう!」
政幸……
私。明日ステーキ焼かなくちゃいけないんですか~!?
しばらく赤ちゃんと、入院なんですけどぉ~!?怒!!!
その言葉には、さすがに突っ込ませて頂きましたよ!
「ステーキは、なしっ!」
ステーキネタで大切な事を忘れてた!
産まれた赤ちゃんの名前は『幸人』。
政幸の『幸』。
賢人と義人の『人』。
『賢』く、正『義』感を持つものは、必ず『幸』せになれる。
いい名前。
ありがとう。
政幸。
8*誕生
完
9*政幸と敏幸
続く…
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