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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
8/10

7*再会

「ママ~!早く行くよ~?」

玄関先で、もう30分以上も靴を履いたり脱いだりしている義人に、私は急かされる。


3日前、政幸に、1週間の外出許可が出た。


抗がん剤治療を乗り越え、手術出来る大きさにまで病巣が小さくなった。

だから、治療も少しだけお休みってこと。


子供たちは、『パパとやりたいこと』というリストまで作ってる。

また政幸本人も、「ラーメンが食べたい」だとか、

「唐揚げが食べたい」だとか、「焼き肉が食べたい」だとか…って、食べ物の事ばっかり(笑)


でも、みんなが喜んでるところ、大変申し訳ないのですが…

私は素直に喜べずにいた。


だって…


バレるじゃん…


ここのこと…



外出許可が出た3日前から、色々言い訳考えてるのよ!だけど、何にも思いつかない!!


マジでどうしよう…


結局、これといった素晴らしい言い訳は思い付かず、お迎えの時間が来てしまった。


「じゃあ、おばちゃん、お留守番しててよ!!パパ帰ってきたら、ちゃんと『こんにちはー』って言うんだよ。」

義人は千代子さんにそう指導している。

賢人は、『パパとやりたいこと』リストを見ながら、

「今日は、3番と4番をやって…」

と1人でブツブツ…


よしっ!!

今こそ、バレたときの最終手段、『テヘペロ作戦』始動~!!


いざ、政幸の元へ!!



コンコン!


病室のドアをノックし、そっとベッドに目を向ける。

「お~!みんな来たのか~!美鈴、これ見ろよ!!ズボンガバガバ~!」


私服に着替え、私たちのお迎えを待っていた政幸は、まるで、大幅減量に成功したモニターさんのようにズボンに手を入れ私たちの方を向く。


明るく振る舞う政幸が、愛しくて愛しくて…

治療、頑張ったもんね…

辛かったけど、乗り越えたんだもんね…


「よ~し、みんな帰ろっか!」

私は明るく言った。


今日から1週間、みんなで楽しく過ごすぞ!!




「えっ!?ココ?」

骨董品店で立ち尽くす政幸に私は、

「うん。そうでーっす!!」

今こそ作戦実行の時だ~!!とおちゃらけて見せた。


「美鈴…」

政幸は、シェアハウスから目をそらさずに私を呼ぶ。

その横顔は…お、お、怒られる~!!!




「すいません!!!」

「ありがとう!!!」


私と政幸の言葉が同時に発せられる。


えっ!?

絶対に怒られると思っていた私は、ぎゅっと目をつぶり政幸に謝ったもんだから一瞬、何と言われたかわからず、とりあえず片目だけ開けてみる。

政幸は、真っ直ぐ、私の方を向いていた。


怒って…ない…?


心のなかでそう政幸に聞く。


「頑張ってたのは、俺だけじゃなかった。美鈴、ごめん! そして、ありがとう!」

政幸は涙目でそう言ってくれた。


「政幸…」

私は安心した。

「あのね、実はココ、『シェアハウス』っていって、部屋以外は全部共同なのね、だから他の住人さんにも挨拶を……「お、男もいるのかっ!?」


いやいや、政幸さん、わ、た、し、に、ん、ぷ~!

男の心配より、自分の心配してよ~!(笑)


そう思いながらも、嬉しくて笑っちゃう!


「美鈴!どうなんだ!?男はいるのか!?」

まだその事ばかり気にしてる政幸を階段に案内する。

「はいはい、細かいことは気にしな~い!」

私はそう言いながら、階段を上がる。


「パパ~!ここだよ~!」

子供たちに誘導され、政幸、シェアハウスデビュー!


玄関を入ると、義人と千代子さんが2人並んでかしこまっている。


「こんにちはー!」

「こんにちはー!」


2人同士に挨拶…

ウケる…(笑)


今朝、義人に指導された通りに千代子さんも、一緒に、挨拶してくれる。がしかし、まだ、10時過ぎですよ…!!


にも関わらず、政幸も、

「こ、こんにちは…。」


おいっ!…

だから、まだ朝だって…!


リビングルームの中を、少し心配そうに政幸はキョロキョロ。


珍しく休日だった、むっちーがダイニングテーブルの椅子から立ち上がり、

「どうも。同居人の武藤です。」

と、政幸に会釈する。

政幸も軽く頭を下げる。

そして小声で、

「男、いるじゃん…」


私は聞こえない振りをした。

だって、そんなこと、どうでもいいも~ん!

政幸としばらく一緒に過ごす事が出来る。

しみじみと感じていたから…



政幸がむっちーを厳戒体制の中、奇妙なお茶会がダイニングテーブルで始まった。

今日は真奈ちゃんと理奈ちゃんは大学に行っている。

千代子さん、むっちー、子供たちと政幸。それから私。

き、気まずい……


誰かなんとかしてくれ~!!!


私の心の声は、思いもよらない人に届いた。


3号室から仲尾さん登場。


もぉ~!仲尾さん、男だし、歳も近そうな感じだし、おまけにちょっとイケメンだから、また政幸が不機嫌になるじゃ~ん…。

たまにしか登場しないのに、今かよ~!

とか思って、私は深いため息をついた。


空気が読めない仲尾さんは、こちらをちらっと見て、挨拶することなく冷蔵庫へ向かう。


「と、としゆき……?」

政幸が言った。


としゆき?

いや、仲尾さんですよ、あの方は…。

と思い、私は政幸と仲尾さんを交互に見る。


仲尾さん…無視……。


政幸は立ち上がり、仲尾さんにかけよる。

「としゆき、敏幸だろ?お前、こんなとこにいたのか!?ん!?俺、探したんだぞ!!お前、母さん…」


「…死んだんだろ?」

仲尾さんは呟いた。







たしか…


政幸のお母さんは、病気で5年ほど前に亡くなったんだよね。


私はあまりよく知らない。

だって、知り合う前の事だったから。

それにしても、仲尾さんは…何者?


「お前、知ってたのか!?知ってて葬式にも来なかったのかよ!!」

政幸は、痩せた細い身体を震わせて仲尾さんに言う。


いきなり…修羅場…!?


仲尾さんは相変わらず、その場を離れず、顔を背けたまま、黙ってカップに入ったコーヒーを口にする。


「な、何?…仲尾さんと知り合い…?」

私は少しでも興奮がおさまる様、政幸の腕にそっと手を当て、聞いた。




「俺の弟だ。そして、こいつが母さんを殺した。」


今まで聞いたことのない低い声で政幸はそう言った。


私は言葉に詰まる。


病気…じゃなかったの?



「あの~、部外者が割って入り申し訳ないんですが…」

むっちーが重い空気の中、口を開く。

「ご兄弟…なんですね。」

その言葉に仲尾さんは、頷く。

「仲尾さん、あなたは美鈴さんの旦那さんがおっしゃるような事をするような人とは思えません。ご兄弟なのでしたら、誤解を解かないと。この奇跡の再会はその為のものではないんでしょうか…」


そう言い、政幸と仲尾さんの双方を伺う。


…沈黙が、続く…


どのくらいの時が流れたかわからないが、私には長く長く感じた。

沈黙は続く…


その時、

「ただいま~☆政幸…あっ!美鈴さんの旦那さん、はじめまして~!」

真奈ちゃんが帰ってきた。


タイミング…いいのか、悪いのか……


ただならぬ空気を察したのか、それとも、まぎゃくなのか、真奈ちゃんはいつも通りの口調で言った。

「えっ!?何か空気重くな~い?どしたの??ていうかさ、せっかく政幸さんも揃ったんだから、みんなで今日はパーティだぁ~!」


一同……

「そ、そうだね…」

私は苦笑いになりつつも真奈ちゃんの意見に賛成した。


そんなやり取りをしている中で、仲尾さんは1人、何も言わずどこかへでかけてしまった。


なんか、わだかまりが残る中での、一週間限定、政幸のシェアハウス生活は始まった。




7*再会




8*誕生


続く…

お読みいただきありがとうございます。


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