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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
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6*絆(親子*友情編)

やっと必要最低限のベビー用品を揃え、出産準備も一段落したある日。


いつものように、千代子さんと夕飯の買い物を終え、リビングルームの掃除をしていたところに、賢人と義人が学校から帰って来た。

「ただいま!」


賢人は私の顔を見ることなく、2号室ヘと足早に向かう。

不思議に思った私は、義人に探りを入れるべく、玄関立っていた彼の方を向いた。


その瞬間、頭にカーッと血がのぼる。


だって義人、来ていたトレーナーは首回りがびろ~んと伸びて、半ズボンから出たヒザには血が……

「ど、どうしたの~!?」

義人はあいかわらず玄関に立ち尽くしたまま、俯いて何も答えない。

その様子を見ていた千代子さんは駆け寄り、救急箱を持って、義人をリビングルームへ促す。


手当てを始めてくれたことを確認し、私は賢人の様子を見るため、2号室へ向かった。

「賢人、おかえり~!」

「………」


返事がない。

押し入れの方を向き、私に背を向けたまま、立ち尽くしている。


そっと、近づき賢人の顔を覗く。


こ、こいつもか…!

私の血圧は、さらに上昇~!こちらは左の顔にアザ…赤く腫れていて、左腕の肘あたりに強く擦れた跡がある。

そっと、腕をめくると……やっぱり怪我してるし…。


こんな事、初めてで何が起こったのか全く理解出来なかった。

「どうしたの?賢人!何かあった?」


賢人は口を一文字に結び、俯いたままだ。

「ねぇ、何があったか話してくれなきゃママ、解んないでしょ~?どうしたの??」


それでも、何も喋る様子はなく、賢人はじっと押し入れを睨むように俯いたまま…。

ひとまず、怪我の手当てをしやきゃ。

そう思い私は2号室からリビングルームへ向かおうとしたその時、

「僕たちのパパの病気、バイ菌なんでしょ…?

バイ菌が、僕たちにも移ってるから、近づくなって…それに、おばけの家に住んでる子とも、遊んであげないって。

それに…それに、ちゃんとママ、毎日お洗濯もしてくれてるのに、僕たちの服が…汚いって……うっ、うっ、うっ……」


賢人の赤く腫れた左の頬に、大粒の涙が流れる。


ケンカしてきたのか…。


転校して、学校にも少し慣れてきた頃だと安心していた矢先の出来事。

この地域は、都市開発の進んだ町だから、高層マンションとか、庭付き一戸建てとか、そういったお宅の子供が多い。


物件探しの時、苦労したもん。

この辺りの家賃相場は大体見当がつく。


そんな家庭の子供たちから見れば単純に、賢人と義人は異質だったのかもしれない。

だけど、そんなこと許される訳がない。


一通り怪我の手当てを終えた2人に、私は話をすることにした。

「賢人、義人。あのね、パパの病気は2人には移らないんだよ。だから安心して。

お友達は、勘違いしてるね。そして、このお家はボロだけど、お化け屋敷じゃないわよ。

だって、あなたたち、おばけに会ったことある?」


2人は首を横に振った。


「じゃあ、お化け屋敷じゃないじゃん!

それから、お洋服の事だけど、パパの病院のお金、払ってくれた人にあげちゃったから、随分減っちゃったよね…毎日お洗濯してても、交代にいつも着てるから、ちょっとボロになっちゃったね……

だけど、少しボロでもまだ着れるじゃん!!

ママのズボンなんて、見て~!穴あいてるんだよ~(笑)」


私はズボンの穴に指を突っ込んでみせた。


「学校のお友達とは、少しずつでも仲良くなれる努力は、2人とも続けてほしいな。

だけどママ、2人を助けてあげる!

今から学校に行ってくるから、宿題。真奈ちゃんに見てもらって終わらせといてね。」


すっかり落ち着いた賢人と義人は、1号室のドアをノックし、

「真奈姉ちゃ~ん!宿題一緒にやろうよ~!」

と誘っていた。


2人の怪我を見た真奈ちゃんは、少し驚いた顔をしたが、直ぐに、

「男の勲章ってやつですな…(笑)」

そう言いながらダイニングテーブルに座る。

子供たちの丸つけ専用に、わざわざ赤ペンを買ってきていた様で、それをフリフリと自慢げに私に見せた。


「美鈴さん、子供たち見といてあげるから、安心してケジメ、つけに行ってきな!!」


真奈ちゃん…

まるで、極妻の様な発言……。ケジメって…大袈裟な。


いや、大袈裟ではない。

子供たちは私が守らなくちゃ!!

私は少しだけ張ったお腹を抱え、学校へと向かった。



学校、職員室前……

賢人の担任の先生が立っている。

転入のの時にお話をしたから直ぐに解った。

その向かいには…保護者かな?


子供をつれて、担任の先生にすごい剣幕で噛みついていた。


お取り込み中……ですね……。


様子を伺う様に、そちらに向かっていた私に、先生が気付く。

「あ、賢人君のお母さん…」


私は話を遮るのは悪いと思い、軽く頭を下げる。

すると、先生に話をしていた保護者は私の方を向き、口を開いた。

…すごい剣幕は続行中…


「あなた、田中さんね。うちのはるや、お宅の賢人くんに怪我させられて帰ってきたのよっ!!」

はるや君と思われるその子も、左のの頬が赤く腫れていた。

そして、お母さんの後ろに隠れ、私と目を合わせないようにしている。


その様子を見て、ピントきた。

私だって親。

はるや君、その様子は…お母さんに自分もやったことは言ってないのね…

そう確信した。


そんな我が子の反応は気にも留めず、お母さんは私に続ける。

「何黙ってるの?はるやにいきなり殴りかかるなんて!こちらは何もしてないっていうのに。大怪我だったらどうするおつもりだったのかしらっ!?」


THE、過保護…

いかん、笑ってはいかん!!

私は心の中で葛藤。


先生は…何も言えずに黙っている。


「それに、お宅、母子家庭みたいだけど、ご妊娠されてる様ね!!まったく…近頃の親御さんは変わっている人がいるから、正直困ってしまうわ!」


おいおい…言い過ぎだろ…!!

言い返したいこともあったが、私は呆れて、やれやれ。そう思って少しため息をついた。

そして、母親の影に隠れ、こっちを向こうとしないはるや君に話をするため、一歩近づく。


母親はビクッとし、少し後退りしたが、それでも私ははるや君に近づき、しゃがんだ。

「よいしょっと……。

ねぇ、はるや君、怪我、大丈夫?」


やっぱりバツが悪いようで、私の目を見ない。


「賢人と義人も怪我して帰って来たんだ~。

3人で…ケンカ、したのかな?」

はるや君は自分の母親をチラリと見上げ、顔色を伺っている。

それでも何も言おうとしない彼に私は優しく話した。


「おばちゃんね、男の子はケンカしてもいいって思うんだ~。だから、両方怪我したなら、おあいこじゃないかなって。

明日ね、笑って『ごめんね』が言えるなら、ケンカはしていいと思うよ~。

だけどはるや君、賢人と義人おのお家のこと、まだよくしならいみたいだから、おばちゃんに説明させてくれない?」


はるや君はやはり母親を気にしているようで、未だ私と目を合わせることなく、俯いたままだ小さく頷く。

私は先生を見上げた。

先生は『どうぞ』と言うように、左手を前へ差し出す。


「賢人と義人のお父さんはね、身体の中にバイ菌がいるのは確かなんだけど、そのバイ菌は『ガン』といってね、人には移らないの。だから、賢人と義人も、とーっても元気だし、モチロンはるや君にも移らないから心配しないで。

だけどね、そのバイ菌、すっごく強いから、病院でやっつけてもらうために、たくさんお金がいるのね。だから、おばちゃんと、義人と賢人は、ボロのお家に引っ越して来たんだ~。

確かにボロだけど、お化けは一度も見たことがないから…もしかしたら、、まっくろくろすけは、どこかにこっそりいるんじゃないかって、みんなで何度か探したんだけど、まだ見つかってないんだ~。」


はるや君はやっと私の顔を見た。

「ホント?」

目を丸くして、私の話しにやっと興味を持ってくれた彼に私は続ける。


「うん!ホント。

それにね、賢人と義人は、お父さんの病気の為に、持ってた机もベッドも、おもちゃも、お洋服もね、ぜーんぶ病院のお金を払ってくれた人にあげちゃったの。だから、お洋服、ちょっとしか持ってないんだ。

だけど、おばちゃん、毎日キレイにお洗濯してるから汚くないと思うんだけど…。」


私は少し間をあけ、ニッコリ笑った。

そして、はるや君の母親を見上げて言った。


「賢人と義人は、お父さんの病気の為に頑張ってくれてるんです。」


そしてはるや君に向き直り、

「わかってくれた?出来ればこれからも仲良くしてほしいな。」


「…どうかな…?」


すると、はるや君は目に涙を一杯溜めて話し出してくれた。

「ボ、ボク…義ちゃんに…悪いこと言って…

そしたら…賢ちゃん…怒って…うっ、うっ、うっ……。」


「そしたら、ケンカになっちゃったんだね。」

はるや君は、今度は私に向かって素直に頷いてくれた。


私の話を静かに聞いてくれていた先生が口を開く。

「そういうことみたいですので、はるや君のお母さん。明日、3人にもう一度私の方からお話をさせていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか?


私と先生は母親の顔を見た。

「そ、そういうことでしたら、今回の怪我は大したことありませんし、明日、先生からきちんとご指導頂けるんですよね?では、私からは申すことは御座いませんので、失礼させて頂きます!!」


逃げるようにとはまさにこの事。

はるや君に一言、「はるちゃん、行す!!」

そう言いながら、手を引っ張る。


「はるや君のお母さん!!」


そう叫んだ先生に、2人の足は止まった。


「賢人君と義人君のお母さんに、一言お詫びをなさるべきだと思いますよっ!!」


も~、先生~。

ありがとう。

でも、いいんですよっ!!(笑)


私は先生に頭を下げ、背を向けているお母さんの隣のはるや君に少し大きな声で言った。


「はるやく~ん!今度、よかったら、まっくろくろすけ探しに遊びにおいでね~!おばちゃん、いつでも待ってるから~!!」


母親の横顔は、少し驚いていたが、最後まで私の顔を見ることなく、去っていった。


私は心の中で思いっきり、『失礼しちゃうわっ!!』と、はるや君のお母さんのような口調で叫んだ。

あくまでも、心の中でね(笑)


ホッと一息、肩をストンと落とし、

私も帰るとするか~!

そう思って先生を見ると、


「田中さん……。」

やだ、先生、泣いてる?

「私の不行き届きでこんなことになってしまって…。賢人君と義人君の苦労を理解して接していたつもりだったのに…。申し訳ありません。本当に…情けない…。」


私は先生に言った。

「先生、うちの子は家族として自分達でも出来ることを精一杯、やってくれてるだけですよ!!

苦労もしてないし、何一つ、劣等感も持ってません。だから、どうか皆と同じように、これからもご指導、お願いします。」

深々と頭を下げた。それから、ニーッと笑い、付け足した。


「怪我は男の勲章ですからっ!!」



椿の花も散り始めた校庭を掃除していた用務員のおじさんに、

「ご苦労様です!!」

なぜか気分が清々しく、張り切って声をかけた。

用務員さんは私に、

「妊婦さんが、この寒空、スリッパじゃあ風邪引くよ~!」


あ……コレ……やまちゃんのオヤジスリッパ…(笑)


風はまだ冷たかったが、少しずつ春が来ていることを感じる、きれいな空の色だった。



翌日、賢人と義人ははるや君を連れて家に帰ってきた。

3人で懐中電灯を持ち歩き、シェアハウスの隅々をまっくろくろすけ捜索のため、這いつくばってあちこち動き回っている。


結局、男はケンカあってこそ絆は深まるんだ。

とか、多少、昭和な考えの私は、


「これでいいのだ。これでいいのだ。」


と、バカボンのパパになりきり、1人で満足していた。

その様子を見ていた真奈ちゃんは、私に一言。

「美鈴さん、 きもっ!!」


理奈ちゃんはクスクスと笑っていた。




6*絆(親子、友情編)



7*再会


続く…

読者のかた、お待たせしました。

6*絆(家族、友情編)完結しました~


次回は

7*再会


意外な展開が待ち受けており、もう人波乱ありそうな予感…

美鈴はどう乗り越えて行くのでしょうか。


お楽しみに。


では、夜分に失礼しました。

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