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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
6/10

6*絆 (夫婦編)

シェアハウスに引っ越して、2週間。


出産まで後、6週間位か。

そろそろベビー用品、揃えなきゃね…


そんな事を考えながら、私は政幸の病院へ来ていた。

いつも通り、ナースステーションの看護師さん達に軽く会釈し、病室へ向かう。

抗がん剤治療の副作用で、常に吐き気と戦っていた政幸に、今日は千代子さんがリンゴを持たせてくれた。


…コンコン。

…政行、寝てる。


目の下は少し黒ずみ、眉をしかめて苦しそうに眠っていた。

私は起こさない様、静かに荷物を置き椅子に座る。


メキッ…!!!


ち、違いますよ!!

太ってるんじゃないですよ!!!

パイプ椅子が…

妊婦がパイプ椅子に座っただけですよ!!!


政幸がゆっくり目を開ける。

「起こしちゃったね…。」

私は申し訳なく思い、上目遣いで政幸を見た。


そうだ。リンゴ…


「お前さ、毎日毎日、俺の苦しい顔見て、なんか楽しい?……ニコニコしやがって……。」


政行…どうしたんだろう。

私を真っ直ぐに睨み付けている。


苦しいよね。 八つ当たり、したくなるよね…

私は聞き流してあげることしか…


「今日ね~、リンゴ持ってきたんだけど…」

カバンに入れてきた、タッパーを取り出し、政幸に差し出……バシッ!!


ベットの周りに、食べやすく小さく切られたリンゴが散った。


「水飲んでも吐くんだよ!!こんなもん、食えるわけないだろ?支えてますズラすんの、もうヤメロよ!!」


…なにも言えない。けど、なにか言わなきゃ。

そんなわけないでしょ~! とか、

私だって頑張ってんだから! とか、

弱音吐くな! とか……


だけど、私は何も言えず、落ちたタッパーを拾い、リンゴを1つずつ集めた。


泣くな!泣くな!

だけど自然と涙が溢れる。

全部拾い終え、タッパーのフタを閉めて、押さえきれなかった涙を拭き、窓の外を見ている政幸に言った。


「じゃあ、全部、終わりにしよっか。」


政幸、こっち向いてよ。

私の顔、見てよ!

あんた、私のこと大事にするんでしょ?子供たちとも楽しい事、たくさんやるんでしょ?

もうすぐ赤ちゃんも産まれるんだよ?

出産、立ち会うんでしょ?

政幸の苦しい顔見て、楽しい訳ないでしょ?

ニコニコしてるのはそうしなきゃ、

私はそうしてなきゃいけないからでしょ?


私の笑顔、好きなんでしょ?


…言いたいことは山ほどあった。

だけど私はそれ以上に、政幸の心が壊れていくのも見たくなかった。

私の言葉に黙ったままの政幸に再び言った。


「ねえ、政幸。そんなに苦しいならやめていいんだよ。」


だけど私は政幸に、『終わりにしたくない。やめない。戦う。』そんな前向きな言葉を期待した。

…どうか、どうか乗り越えてほしい。

…どうか、どうか負けないでほしい。


だけど、政幸は顔に手を当て、俯いたまま…


「もう……本当に……やめたい……。」


今にも消えちゃいそうな細い声で呟いた。



1本筋の通った、強く心の広い、優しい政幸を

こんなに苦しめる奴が憎い。

憎くて憎くてたまらない。

入院してからずっと、弱音ひとつ吐かなかった政幸。

私は言いたいことを全て心にしまうことにした。


もうこれ以上、頑張らせてはいけない。

そう自分に言い聞かせて、

「うん。じゃあ点滴、はずしてもらおう。看護婦さん呼んでくるね。」


点滴をはずすことは、抗がん剤治療を中止すること。


抗がん剤治療を中止することは、病巣が小さくならないということ。


病巣が小さくならないということは、手術が出来ないということ。


手術が出来ないということは…


暫く私は目を閉じて考えた。


私はね、1日でも、1時間でも長く生きていてほしい。

政幸が苦しいとか嫌だとか言ってもそうしてほしい。

だって、私には政幸という存在が必要だもの。


だけどそんな考えは私のエゴに過ぎない。


だから政幸の言った通りにしてあげなきゃ。

もう充分頑張ってくれたじゃない。


ゆっくり目を開け、小さく深呼吸しパイプ椅子から立ち上がる。そして背を向け、ナースステーションへ向け、一歩……。



ーー!!


私の左腕を力一杯、政幸が掴んだ。その、掴まれた手を私は見る。


「おい、美鈴……俺、ホントは生きたいんだよ。賢人と義人のパパでいたいんだよ。1日でも長く、家族でいたいんだよ。お腹の子にもさ、逢いたいんだよ。」

涙声で政幸は、私にそう言った。


私は政幸の顔を見ることが出来ず、その掴まれた手を見続け、小さく頷く。


「うぅ~…だから……お前さ……うっ……俺にさ……

ガンバレって言ってくれよぉ……。お前がいなきゃ俺、頑張る意味がわかんなくなるんだよぉ……」


私は再び小さく頷く。


「俺が、もう無理だって言っても、お前は……美鈴がガンバレって言い続けてくれなきゃ……オ、オレ…

……死んじまうだろうがっ!!!!!」


ゆっくり政幸の顔を見る。


痩せて、目もくぼんで、苦しそうに

ポロポロと涙をながし、私のことを真っ直ぐにみていた。



政幸。


「ガンバレ!」


「政幸ガンバレ!」


「政幸!!ガンバレ!!」


私は精一杯、心の底から叫んだ。

何度も、何度も叫んだ。


政幸の身体の中にいる奴に届けと願いながら叫んだ。

その度に政幸は、「うん。」「うん。」と返事をしてくれた。私はただただ、政幸に、

「ガンバレ!」

そう叫び続けた。


「田中さ~ん、どうしました?」

ナースステーションまで届いた私の叫び声を聞き、駆けつけた看護婦さんは、状況を飲み込んでくれた様で、私たちのやり取りを静かに見守ってくれていた。


私が政幸を必要としているように、また政幸も私を必要としてくれている。


一緒に、乗り越えよう!


どんな結果になるのか、今はまだ解らないけど、

一緒に乗り越えていこう。




あの日以来、政幸は再び弱音を吐くことはなかった。

お見舞いに、時々来る子供たちに、笑顔を見せてくれさえした。


ただ、少しずつ衰弱していく政幸に、私は笑顔で逢いに行き続けることしか出来ない事が悔しかった。





6*絆 (夫婦編)




6*絆(親子、友情編)



続く。

お読み頂き、ありがとうございます。


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