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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
5/10

5*田中家入りまーす

この数ヶ月、色々あった。

結婚、妊娠。そして政幸の病気。


今日でこの高層マンションでの夢の暮らしは終わる。

新居、シェアハウスへ持って行く荷物は、お布団と段ボール4箱。

それ以外の物は全て処分した。

引っ越しと言うほど大がかりなものでもないので、軽バンをレンタルし、いざ、出陣!!

心なしか、賢人と義人もキリッとし、車に乗り込む。


政幸には、『病院の近くに引っ越す』とだけ言ってはいるものの、この状況

多分…怒られるよね……


いや、政幸の為、明るい未来の為。

これはもう、やっちまえば怒られても後には引けない。

よし、もう何もかも売っちゃったし、バレた時はテヘペロ作戦だ!!笑ってごまかそう!!


慣れない軽バンのハンドルをぎゅっと握り締め、アクセルをゆっくり踏む。


サヨナラ、フカフカのソファ。


サヨナラ、勝手に氷が出来る冷蔵庫。


サヨナラ、シャワー付きのお風呂。


サヨナラ、モニター付きインターホン。


サヨナラ、12階からの夜景。


サヨナラ、高層マンション……。




「着いたよ。」


出発の時はキリッとしていた賢人と義人は、10分もしないうちに車内で眠っていて、ランドセルを抱き抱えそれを枕にヨダレを垂らしていた。


危機感が…ない…(笑)

「もう着いたの?」

「どこ、どこ~?」

2人は目を擦りながら、辺りをキョロキョロ。

「ここだよ。」

私は笑いながら左側を指す。


「え!?ここ、壺屋さんだよ!?ここに住むの~?」

賢人は少し驚きながら、シートベルトを外す。

そして、賢人の言葉を真に受けた義人は、

「よしっ!ボク、お手伝い頑張るよ。」

右手の拳を私に見せてくる。

大家さんの骨董品店で、働く気満々だし…(笑)…

「違う違う。このお店の2階だよ。2人も、荷物運ぶの手伝ってよ~。」


さすがに妊婦、長時間運転は疲れました。はい。


3人で一段一段、2階の部屋へ向かう。

階段を登りきった壁に、集合ポスト…


『2号室 田中』

大家さん…筆ペンで…。書いてくれたんだ。

筆ペンで…なぜ…?


いや、突っ込むのはよそう。

今日から私たち、ここで暮らすんだ。

よし、開けるぞ。

うん。


子供たちと顔を見合せ、小さく頷く。

そして、ゆっくりドアノブに手をかけ…


ガチャ…


今日はリビングルームには、誰もいない様子。

玄関を入ると、左端には小さな靴箱。

その隣にはトイレ。

右端には…多分、お風呂かな?

脱衣所に置かれた洗濯機が、ガタガタと音をたてて動いている。

2号室は右側…だったから…

ん!?

リビングルーム右側のL字型ソファに誰か寝ている!?

しかも、器用にL字型になって!

だ、誰?


玄関に立ち尽くしていた為、子供たちの視界を遮っていたもんだから、賢人が私の脇の辺りから中の様子を伺おうとしている。


「早く入りたーい。見えなーい。」

賢人の更に後ろにいた義人には、全く何も見えてなかった様で、私に文句を言う。

「あぁ、ごめん。靴、並べてね。」


私はL字型ソファで、L字型で寝ている人を起こさないように気を使いながら、2号室の鍵をゆっくり開けた。

カチャ…よし。

そしてドアをゆっくり開けようとしたが、か、固い…!!


L字型の人をチラリと見ると、まだL字型で眠っている。

少し力を入れてドアを押した。


ガチャン!!!……メキメキッ!……キキィーッ……。


古いドアは、私の気持ちとは裏腹に、大声で叫んだ。まるで…


『田中家、入りまーす。』


そう言っている様に…


「うぅ~ん…また、どっか壊れたか~?」

L字型の人が上半身をゆっくり上げ、目を細めてこちらを見る。…てか、睨む。


ヤ、ヤ、ヤンキー!?

L字型の人~、怖すぎる…

初めて見た政幸より怖すぎる。

髪は金髪で派手なシャツ。も、も、もしや、ヤンキーではなく…

ヤ、ヤ、ヤ、ヤクザ…!?


子供たち~!

私は慌てて子供の前に出る。

そっちがその気なら、こっちだって!!

ムフッと鼻息をし、私なりのへっぴり腰な戦闘体制!

そんな私には興味を示すことなく、ヤクザな人は黙って奥の壁時計に目を向ける。


「やべっ!」

慌てた様子で飛び起き、玄関へ向かう。

この寒空だというのに、おじさん仕様のサンダルを突っ掛け、玄関のドアに手を掛けたかと思うと、バッとこちらを向いて、子供たちの方を見た。



「おい、ガキんちょ、後で下に来いよ!確か…昨日のせんべい残ってるはずたからよぉ、一緒に食おうぜ!」

そう言い残して、やくざな人は颯爽と玄関を出て行った。

ガチャ…ドアがしまった瞬間。

カーン!カーン!カンカンカンカン…!と、鉄製の階段を降りる音を残して…。


だ、誰だ…?


立ち尽くしている私たち3人。

するとすぐに、「また、やまちゃん慌てて出ていったね~。あ~!もう10時かぁ。」


あ。この前の、倉西…真奈ちゃん。

確か教育大学に通ってるって言ってたっけ。


真奈ちゃんは、コメカミをポリポリとかきながら2号室の隣から出てきた。

一度しか会っていなかったが、彼女を見ると少しホッとした。


てか真奈ちゃん、素っぴんの方が可愛い様な気がするんですが…(笑)


真奈ちゃんは、すぐ私達に気付き、駆け寄る。

「ようこそ~いらっしゃい。この子達が美鈴さんの子供~?」

真奈ちゃんは、子供たちと視線をあわせるため、前屈みになる。

「こんにちは。お姉ちゃんは、真奈って言うの。お名前は~?」


「ぼ、ぼく賢人。こっちが弟の義人。そして、こっちがもうすぐ産まれる赤ちゃんのお母さんですっ!」


うん、賢人。

自己紹介よくできた。がしかし、私はお前たちの母でもあるのだぞ!?


真奈ちゃんは、声をだして笑った。

私もつられて苦笑い…ま、いっか。


みんなで笑っていると、真奈ちゃんが出てきた部屋から、もう一人女の子が登場。

横目で私たちを見ると、軽く会釈し奥の台所で顔を洗い始めた。


「あ~、あれ、妹の理奈。

理奈~。挨拶くらいしなよ~!今日、バイト休みでしょ?美鈴さん家の片付け、一緒に手伝おうよ。」

理奈ちゃんは、顔を丁寧に吹き無言でこちらに来る。無表情で。

子供たちに近づくと賢人と義人の頭をポンっと軽く触り、「宜しく。」と少し微笑んだ。

悪い子ではなさそうでホッとした。


あっ!

そうそう。さっきのヤクザな人は何者なんだ!?


真奈ちゃんいわく、大家さんの親戚の息子らしく、子供の頃からやんちゃで、両親の手におえずに、ここ、シェアハウスのL字型ソファに寝泊まりしているとのこと。

そして、1階の大家さんが経営する骨董品店で力仕事を担当しているらしい。


せんべい食べながら…ね(笑)

彼の名は、小林 大和(小林やまと)。通称『やまちゃん』見た目はヤクザな人だが、子供好きで、お店の看板ムスメ…失礼。看板ヤクザ…これまた失礼。

とにかく悪い人では無さそうでよかった。

しかし、このシェアハウス、L字型ソファにまで住んでる人がいるとは。


そして、子供たちの適応力が素晴らしいのか、せんべいに惹かれたのか、ランドセルを2号室の入り口に置くと2人は、

「下の壺屋さんのお兄ちゃんの所に行ってくる!!」

と言い、カンカン音をたてて階段を降りて行ってしまった。


くそッ!あいつら、荷物運ぶの手伝ってって、お願いしたのに…


「子供って、やっぱりいいよね~。」

そう言いながら、真奈ちゃんは私の抱えていた段ボールを取り上げ、2号室へと入っていく。

私も後に続いた。


6畳、何もないからなのか、意外と広いじゃん。

奥には押し入れもあった。


真奈ちゃんと妹の理奈ちゃんは、さすが、若いだけあって、軽バンに残った荷物まで、テキパキと部屋に運んでくれ、一応荷物の搬入作業は修了。

所要時間、たったの15分。

後はゆっくり片付けよ。


2人とも、私の言うことを聞かない身体を気遣ってくれてありがとう。


リビングルームに戻ると、台所には先日のおばちゃん、千代子さんが台所に立っていた。

私も昼食、子供たちに何か食べさせなきゃなぁ~と思い、真奈ちゃんに近くのスーパーの場所を聞いてみる。

すると、

「とりあえず、お昼までまだ時間あるし、ここのルール説明させてよ。私達姉妹とおばちゃん以外にも他の人も住んでるんだよね。」


そっか。真奈ちゃん姉妹は1号室。

私たちが2号室。

L字型ソファにはやまちゃん。


私たちの部屋の向かい側には扉が3つあった。


「一番玄関と、トイレに近い部屋が5号室。おばちゃんの部屋ね。それから真ん中の4号室…」


真奈ちゃんの話は長く、時々脱線するのでかなり説明に時間を要した。一通り、住人さんの紹介が終わると、満足したようで、

「以上で~ 1、2、3…」

指を折って数える。


「美鈴さん所も合わせて9人。あ、もうすぐ10人か~☆このみんなで、それなりに楽しんでこ~!」

完全に学生寮のノリだな、こりゃ…。


真奈ちゃんの話をまとめると、以下のとおりだ。

1号室

倉西 真奈。妹の理奈。2人とも大学生。


2号室

私たち、田中家。3人+もうすぐ1人増。


3号室

仲尾。無愛想で、他の住人ともあまり関わりがなく、何をしている人かも不明。


4号室

むっちー。昼も夜も働いている忙しい人。

別れた奥さんと子供に生活費を送っているらしく、忙しく働いている割には質素な生活。

また、ハードスケジュールにも関わらず、シェアハウスの雑用まで頼まれてくれるという、聞いただけでも気さくそうな人。

そして、密かに奥さんとの復縁を目指しているらしい…フ、ファイト!(笑)


5号室

山本 千代子。通称、おばちゃん。

この前も聞いたが、みんなの食事を用意している。

ちなみに、過去にカレーが3日も続いて、みんなから文句を言われた為、それ以来カレーは作ってくれないらしい…


そして、L字型ソファ

小林 大和。通称、やまちゃん。

大家さんの親戚の息子で、決してヤクザではない。

せんべい好きと思われる。


うぅ~ん。


何だかみんな、キャラの濃そうなメンバーだが、持ち前の愛嬌で何とか乗り越えるぞ!!


さらに、シェアハウスには、所々に貼り紙が。

先ず、目についたのは冷蔵庫。

『他人の酒、飲むべからず』

…やっぱり学生寮のノリだ…

ま、とりあえず了解。


そして、L字型ソファの壁には、家賃ポスト。

『毎月1日集金』

剥がれかけたガムテープで、かろうじてポストが設置。我が家は当分一万円ですね。

これも、了解。


あ、そうそう。

お昼ご飯、子供たちに食べさせなきゃね。


私は台所で食事の支度をしている千代子さんに近づいた。

「あの、近くのスーパーって、ここからどれくらいかかります?子供たちにお昼用意しないと。次にお台所、使わせてもらえたら…。」


そうそう。

みんなと仲良くね。

…政幸の所、今日は行く時間なさそうだな…


そんな事を考えながら、千代子さんの返事を待つ。

そのやりとりを見ていた真奈ちゃんは再びしゃしゃり出る。

「あ~、美鈴さん、ご飯はおばちゃんが作ってくれるんだって!!それで、毎月かかったら食費を割り勘してるの。理奈がそういうの得意でさ、ま、簡単に言えば、この家の会計係ね。」


そんなことまでシェアしちゃってるんだ。

真奈ちゃんは続ける。

「おばちゃんも、料理上手だし、私らも助かるし。1ヶ月、大体1人1万円ってとこ。そしてね、その他の生活用品は、むっちーが買い出し係。その分も大体2~3千円だね。全部計算は理奈がやってるよ。ああみえて理奈、大学も理数系でね~…」


話したがりの真奈ちゃんは、まるで『今から本格的に話すのよ!』と言わんばかりに、ダイニングテーブルの椅子に座り、肘をついた。


そういうことなら、私は…千代子さんのお手伝いをするか。

すっと横に立ち、

「てつだいます。」

そう告げると、

「じゃあ、白菜切ってくれる?」


千代子さんはまるで、ずっと前から私がそうしているかの様に、あっさり受け入れてくれた。

みんなが、『おばちゃん』と慕う訳だ。


うん。

私、やっていけそう!!

自然と口元が緩む。

「も少し、小さくねっ!」

「は、はい。」

お料理を教わる娘の気分だ…(笑)


台所に並ぶ私と千代子さん。

その後ろで、ダイニングテーブルの椅子をこちらに向け、座ってまだまだ話す真奈ちゃん。


なんか、いいな。

昼食の用意は続く。

その間、真奈ちゃんは、妹の理奈ちゃんとの生い立ちを話してくれた。


彼女達は、児童養護施設出身。

両親は2人が7歳と8歳の頃、車の事故で亡くなったそう。

頼る親戚もなく施設で育った2人。

大学へは奨学金で通う…


真奈ちゃんは、何でもないかの様に笑って話してくれたけど、彼女たちの人生には、私の想像を絶する、壮絶な過去があった。

…そして

両親を亡くしたのは…

賢人と義人の歳。


自然と涙が溢れる。


「やだぁ~!美鈴さん、泣いてんの~?」

真奈ちゃんには、そんなつもりはなかったようで、私に笑ってそう言った。


真奈ちゃんの明るさ、理奈ちゃんの優しさの陰には、こんな苦労があったなんて。


ふと、政幸の事を想う。


そして、今1階のお店でおせんべいを食べているであろう賢人と義人の事を想う。


胸が一杯だった。

何と表現すればいいのか、うまく言えないが

私は胸が苦しいほど一杯だった。


お味噌汁を溶き終えた鍋を、おたまを持ったまま見つめていた私に、千代子さんは言った。

「美鈴ちゃん、あんたに何があったかはよく知らないけど、こんなに若い子達が前向きに笑って生きてんだよ。

負けちゃあ、いかん。

それに、あんたは3人も子宝に恵まれてる。

私は子供を持つことができなかったからその苦労は知らないけどね、どんなことがあっても、お天道様に恥ずかしくない正直な生き方をしてりゃ、なるようになるってことだけは、よ~く知ってる。」


私、最近よく泣くな…。


涙を拭いて千代子さんに、

「はいっ!」

大きく返事をした。

そして、真奈ちゃんの方を向き、大きく頷いた。


心の中で2人に『ありがとう』の想いを込めて…。



「おばちゃん、メシ~!」

えっと、ヤクザ…もとい、やまちゃんが帰って来る。その後から義人。

「お腹すいた~!」

さらに、その後から賢人。

「ただいま~!」


な、な、馴染んでる…。

そして3人よ、せんべい食べたんじゃないのか?


「はい、出来てるよ。」

千代子さんはこれまた子供たちに対しても、前からそうしている様な手つきでご飯をよそい、渡す。


そして、子供たちもまた、もうずっとここで暮らしているかの様にダイニングテーブルに腰を降ろし、やまちゃんと3人で仲良く、

「いただきます。」


その姿は、私にやる気を与えてくれた。


お天道様に恥ずかしくない様に、笑って生きてやる。

その日の夕方、生活用品の買い出し係のむっちーが帰宅。

その容姿から、ムチムチしてるから『むっちー』なのかと思ったけど、私の予想を裏切り、『武藤』だからだった。

心の中で、『紛らわしいんだよっ!!!』とか思ったけど、それは口には出さずにいた。

だって、そうなると私もむっちーだからね。(笑)



千代子さんの作った夕飯を、

真奈ちゃん、

理奈ちゃん、

やまちゃん、

むっちー、

賢人と義人、そして私。

8人で囲む。


本当にずっと前からそうしている様な不思議な気持ちだった。


何だかすごーく温かい。


うん。

私、うまくやっていける。


そう思ったから、みんなに政幸の事を話した。

同情してほしかったんじゃない。

この人達に、今の私の覚悟とか決意とか、そういうのを伝えたかった。ただそれだけ。


それなのに、真奈ちゃんったら、

「も~、美鈴さん。政幸の病室の近くに引っ越して来たってだけでしょ~?

そんなに力説しなくてもいいって。もっと肩の力抜いて!!そんなに力んだら、赤ちゃん、産まれちゃうよ~!(笑)

うちらも協力するから!1人じゃないんだよ。

ねぇ~!賢ちゃん、義ちゃん。」


そんな嬉しい事言われたら、また私、泣いちゃうよ?

がしかしちの旦那、呼び捨て…(笑)


そして、静かに頷く理奈ちゃん。

笑ってこっちを向く千代子さん。


「お、おう!」

と、張り切って何故か拳を高くあげ私を見るやまちゃん。

箸を止めることなく食べ続けながら、何度も頷くむっちー。


みいんな、ホントにありがとう。


政幸が入院してから、確かに私、ずっと力が入りすぎてたのかもしれない。


肩の力を抜いて、ゆっくり構えよう!!

なるようになる。

だって、みんなこんなにも温かい。


『俺もいるぞ!!』と言わんばかりに、お腹の中から元気に蹴ってアピールしてくる、この子を両手で優しく撫でながら、ダイニングテーブルを囲むみんなの顔を見回す。

「みんな、ホントにありが……「おかわり~!!」

……おい義人。

今、いいシーンだったぞ!

空気読めよっ!!


みんなで笑った。



6畳の間に、シングル布団を横に敷いて3人で寝る。


「ママ~、明日パパの所、何時に行くの~?」

賢人が私に聞く。

「そうだね~。月曜日から学校だから、明日は近くを探検しながらパパの所行こっか!通学路も覚えなきゃね。 」


政幸…無償に逢いたい。


抗がん剤治療で、痩せた政幸の顔を思い浮かべ、6上昇の部屋の天井の染みをぼんやり眺めていた。

よほど楽しかったのか、疲れたのか、いつの間にか子供たちは眠っていた。


ト、トイレ…

妊婦は本当にトイレが近い。せっかく暖まった布団から、しぶしぶ出る。

リビングルームの先のトイレへ向かおうと、部屋のドアを開けた。


暗いリビングルーム。台所の蛍光灯だけが薄暗く付いていて…誰か立ってる。

むっちーでも、やまちゃんでもないシルエット。

男の人…

もしやまだお会いしていなかった、最後の住人、仲尾さん?

挨拶…しなきゃだよね…。


そんな事を考えていると、相手はこちらに気づき、ちらりと私を見ると、そのままダイニングテーブルに座り、「はぁーっ」とため息をついてビールを飲む。


無愛想だとは聞いていたが、完全無視は嫌だな…

そう思い、私は仲尾さんに話し掛けた。


「あの~、はじめまして。私、田中と言います。今日からここに越してきて…お腹もこんなんで、さらに小学生も2人いますので、お騒がせすることもあると思いますが、宜しくお願いします。」


「仲尾です。宜しく。」

その間も、仲尾さんはわたしのほうを向くことなくビールを飲む。


うーん。これ以上の接触は、トイレの事も考えて…

私は軽く会釈し、寒々しいトイレへ向かう。


ん!?

電気、どこだ!?


もたもた玄関を付けたり消したりしながら、トイレの電気を探す。

すると私のもとへ仲尾さんは近付いてきて、あっさりトイレは明るくなった。


そして、意外にも私に向かって、

「妊婦さんはトイレ、近くなりますけど、我慢せずに行った方がいいですよ。膀胱炎になると、治療がやとかいだ。そして足…少しむくんでるみたいだから、妊婦中毒症にも気をつけて下さい。」


そう告げ、リビングルームへ戻っていく。

この人って、口下手なだけ?

「あ、ありがとうございます。」

トイレ、トイレ~!


だけど、トイレの中で考えた。

あの人、何者だ!?

真奈ちゃんもよく知らないって言ってたけど…

お医者さん?

いや、医者がこんな所に住んでるはずはないよね。だけど、どうしても気になって、急いでトイレから出ると、もう仲尾さんの姿はなく、台所の灯りも消えていた…


「おっちゃ~ん!またせんべい~?もういいよ~。」


び、ビックリした~!

L字型ソファで、気さと同じくL字型に寝ている、やまちゃんの寝言だった。


私はこれまた今朝と同じく彼を起こさないように、そっと2号室を開け、賢人と義人で暖まった布団の間に顔を埋めた。


子供たち同様、私も疲れていたのか、いつの間にか眠りについていた…。


途中、何時かは解らないが玄関から誰か入ってきた様な気配がした。私は夢うつつの中、夜のバイトから帰って来たむっちーだな。

と思いながら、寝返りをうち、再び目を閉じる。


長いような、短いような1日が終わった。



ガラガラ……シャーーー。


そうだ。私たちの部屋、お風呂の横だった……


むっちー。今お風呂かよっ!!

とか思い、少し腹が立ったがこれが『シェアハウス』…仕方ないか…


そう思い、頭まですっぽり布団を被って眠った。



5*田中家入りまーす




6*絆


続く…

お読み頂きありがとうございます。

感想など、お気軽にお寄せいただけると嬉しいです。

次作のテーマは絆。


私も泣きながら書きました。

楽しみにしていただけます様に…

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