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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
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2*はじめの一歩

2*はじめの一歩


そんなこんなで1から、衣食住をリセットすることになった私たちは、まずは住から。

病院の近くは都市開発が進んでいて、古くても安い物件などあるはずもなく、何件も不動産やを回った。

病院の近くだけは譲れなかった私は、未だに続くつわりと戦いながら毎日探す。

でもないのよ!全く。家賃二万円代なんて!!

しかも妊婦が2人の子連れ。不動産やは、いい顔しないわよね!

そりゃ、山奥とか郊外とかあるわよ~ってみんな簡単に思うかもしれないけど、私は政幸の病院の近くがいいの!!えっ!?ワガママ?あぁ~そうです。

ワガママです!だから途方にくれてるんですよっ!!


だけどね、災難続きの私にも一筋の光が見えましたよ。

ほらっ!そこの看板!!

アパート…?

何?


とにかく2階の壁のところに『空室アリ』。

よっしゃ!

…ってことで、私の特技、思い立ったら即行動。ケータイから看板の番号へ電話をかけてみる。

勿論、看板の目の前でよ!

そしたら、目の前の建物の1階。

何かのお店だって事に気付いて…花瓶とか、壺とか、怪しげな像を売ってる…何やさん?

ってとこの電話が鳴った。


えっ!?まさかって思いながら、建物の前で仁王立ちしてた姿勢から、私、やんわり姿勢を変え、横目で様子見作戦に変更。


そしたら、店内のおばあちゃんが重い腰を上げ、ゆっくり電話に近づいた。

「はいはい、もしもし?」


…やっぱり…私の掛けた電話だ…ここに繋がっちゃうんだ。

私、さらに建物に背を向け作戦に変更!!とか思ってたら…

「サギの電話なら切らせてもらうよ!!」

って、いきなり怒ってる…!!汗

とっさに私。

「あ、あの。空室の看板見て電話した者なんですが…」

それ以上何も言えず、お互いに沈黙すること数秒…

いや、ここは私が積極的に話さなければ!

「あの。どんな部屋でもいいんです。空室があるなら、そこを見せて………「あんた、訳ありだね?」

「えっ!?」

「いつでも来な。6畳の2号室空いてるよ。」切…


えっ!?

切られた…!

てか、家賃いくら?

つーか、切るなよっ!

色々聞くために電話掛けたのに…。


あ、目の前か!!

直接聞いてこよう。


私は、そのおばあさんの無愛想減がどうか。とか、不動産やはどこだ?とか、そんな事一切考える余裕がなかった。

そう。私達にあの夢のような高層マンションでの暮らしは、後5日しか残されてなかった。


よく見ると、小さく『骨董品』と書かれた置き看板が、店の出入口にあり、道路に面したガラス張りの向こう側には、古そうではあるけれど、キレイに磨かれた壺や皿、グラス等が均一に並べられていた。


店の奥には、絵画も数枚あった。

ステンドグラスってやつ?あれが太陽に反射して、私の視界を遮る…。少し目を細めて一歩。

店の中に入った。

「あの~。今、電話した者なんですが…」

おばあちゃんはまだ電話の近くに居て、何やら書き物をしている様子。

ちらりとこちらを見ると、まるで邪魔をされたことを物申すことさえ面倒だと言わんばかりの深いため息をついて店の奥の方を向いた。

「あんた~!あんた~!2階、貸して欲しいって人が来てるんだけど、上がってもらうよ!?」


…えっ!?私のこと?

てか、質問したいことあるんですけど~!?

そして、あんたって、誰呼んどるんじゃい~!?


ハテナだらけの私の前に、白髪で少し腰を丸めたあんたと思われるおじいちゃん登場。

あんだがあんた樣?とか思ってたら、そのあんた樣が、

「おぉ。あんた、妊婦さん?色々大変だねぇ。はい。コレ、鍵。2号室ね。」


あ、あんた樣にあんたって言われた~!!

てか、もう鍵貰った~!!!

私の左腕を半強引に持ち上げ、手のひらに鍵をのせると、あんた樣は私の顔を見ながらにっこり頷いている。


「えっ…あ、あの~、お家賃って…あっ!契約書とかは…」

そこであんた樣…もとい、鍵を持ってたってことは、多分大家さんだろう。

まぁ、大家さんと思われるおじいちゃんでいいや。

その人は話し出した。


「毎月、月始め、1日ね。その日に一人五千円。2階のポストに入れといてくれ。

あんたはもうすぐ2人になるから1万円と言いたいところだけど、その様子じゃぁ…」


ゆっくりと私を見定めるように間をおく。

本日の私のファッションチェック?

政幸のスウェットズボンに、政幸のパーカー。スニーカーに素っぴんですが、何か?

マタニティウェアって、結構高くてね、お腹もおっきくなっちゃって、買ってないのよ!!おまけに、化粧品もケチっちゃって、最近は化粧すら殆どすることがなかった。

たっぷり間をおいて、私のファッションチェックを済ませた大家さんが口を開いた。

「暫くは五千円、1人分でいいにしようか。」


は!?1人五千円??どんな計算?

ポスト?

全く意味不明…

にも関わらず、『2人』という言葉にのみ、反応してしまった私。

「 いや、実は今、小学校に通ってる息子も2人いまして…6畳って聞いたんですが…もうすぐ、その…4人になるんです…けど……」


訳あり妊婦、2人の子連れなんです。はい…


大家さんは、電話台に置かれていた電卓を手に取り話し出す。

「だったら、子供は半額。2人で五千円ね。っということは…大人1人。子供2人、赤ん坊1人でっと…毎月、一万円だね。」

『10000』と表示された電卓を私に見せながらそう言った。


いや、マジ突っ込み所が多すぎる。

遊園地の入場料でも計算するように…。

てか、家賃そんな計算でいい訳??

しかもその計算、電卓要らないでしょ!?


…いや、そこじゃない。そこを突っ込む所じゃない。

しかし、大家さんの話は以上だったようで、私はそんな背を押されるように店を出され、外の階段へ案内される。

色々聞かなきゃいけないことあるのに…鍵…私持たされてるし…


いや、もっと考えないといけないことが、たくさんあるはず。

うん。

怪しい。

そうだ!!

ちょっとこれは怪しすぎるぞ。

私の脳よ。やっと動いたか!!

そうだ、怪しすぎる。

一旦ここは帰ろう。

うん、そうしよう。


一万円の家賃は魅力的だが…

6畳でも、何とかやっていけそうだが…


でも、これは何かの間違いだ。

一旦帰ろう。うん。そうしよう。


私は回れ右をし、大家さんと向き合う。

「あの! 一旦……「はいっ、ココ、玄関ね!あ。コレ、ポスト。ポストって言っても家賃入れちゃダメよ~。郵便屋さんが皆のお手紙入れる方のポストね~! はっはっはぁ~!」


話を遮られた…しかも1人で笑ってる…。

えっ!?

入り口って1つ?

ポストが複数……。

そんな事を思っていると、大家さんはお構いなしに玄関の扉を開けた。


ガチャ……


そこには、12~3畳ほどの空間があり、中央にはダイニングテーブル。

入口の右端には、毛布がくしゃくしゃに置かれたL字型のソファ。

奥にはキッチン…失礼。台所…そう言った方が正しい。

そんな光景が広がっていた。


ダイニングテーブルでは、絶賛お化粧中の若い女の子。

そして台所には、昭和の空気を漂わせ、割烹着を着た小柄な女性が私に背を向けた状態でお料理をしていた。


昭和と平成の共演!!

とか言ってる場合ではないな…。


ボーッとしている私を見ることなく、大家さんはL字型ソファに一番近い扉を指す。

「はい。ココ、2号室ね。そしてココ重要。家賃ポスト、ココね。」


壁に沿って置いてあるL字型ソファの上の側面に、白い箱。

ほら、学校の『ご意見ポスト』みたいな、どう見ても自家製のやつ。あれが設置されていて、ガムテープで落ちないように補強されていた。

「じゃあ、後はそこのお姉ちゃんに聞いとくれ。」


どこまでもマイペースな大家さん…

その言葉を聞いた若い女の子は、付けマツゲをつけながらこっちを見た。


「え~!?私~?おばちゃんに頼みなよ~。」

てか…その、付けマツゲつけてる途中の顔…超怖いんですケド……


ガチャ……


お、お、置いてかれた~!!


おーやさーん…………………!!!


心の中で叫ぶも、届かず…。

私、まるでコントの様に右手を前に突き出した状態で停止。


どうしよう。

恐る恐る、部屋へ向き直る。


さっきまで、ダイニングテーブルに座っていた若い女の子が目の前に立っていた。

「あなた、新しい住人さん?宜しく~。あ! 妊婦さん?まぁ、立ち話も何だからさ、上がってよ。」


「いやっ、そのっ、何て言ったらいいか…まだ…。」

私はそう言いつつも椅子に座らされ、辺りをキョロキョロ。

その様子を見て、若い女の子はこう言った。

「やっぱり~。何も聞いてないみたいね。大家のじいちゃんもばあちゃんも、毎月そこのポスト見に来るだけで、後は勝手にどーぞって感じなのよ~。」


大家さんと勝手に名付けていたおじいちゃん、やっぱり大家さんで正解だったんだ。

それにしても、「えぇ~?私~?」とか言いながらも、これからまだまだ話しますオーラ全開の若い女の子の話を私は遮った。

だって、どう見てもこれは…


「ここって、寮か何かですか?」

その質問に対し、若い女の子は少し目を見開いた。

「それも知らないで来たの?勇気あるわね。ここは『シェアハウス』。部屋は各自鍵つきで~って、閉めてる人いないけどね、部屋以外は全部共同なの。…トイレでしょ、お風呂でしょ、キッチンも。あっ、ココでは台所って言うんだけどね。」


…私と同じこと思ってた。やっぱりここの場合、台所だったか。

いや、そんな事はどうでもいい。


そんな事を考えながら台所の方を見ている私に、若い女の子は続けた。

「あのおばちゃんも、ここの住人。みんなのご飯、作ってくれるんだよ。美味しいから、あなたも食べなよ!もうすぐ出来そうだし☆」

そう言いながら、背を向けた女性の様子を伺う。


こな空間には、私のペースは一切通用しな

いのかって位、振り回されている気がした私は、頭の中さえ整理できずにこの若い女の子と会話していた。


「いえ、私はまだココに住むって決めた訳じゃないし…その…息子も2人…学校…小学生で…ここではー、そのー、何と言ったらいいか…」

言葉に詰まる。

だって、何をどこまでどう話せばいいか、この異空間で、私の思考は正常に働いてくれていなかった。

そんな私なんてお構いなしに若い女の子は言う。


「えっ!?小学生な子供いるの?私、こんなんだけど、小学校の先生になりたくて、一応大学通ってるんだ~。だから、子供。小学生なら、尚更来なよ~。私、勉強教えたげる!!うん。」


……見た目は少しハデだけど、何だか張り切ってくれちゃって、ちょっとカワイイな……

そんな事を考えて、若い女の子に微笑んだ。


「はい。お昼出来たよ~!妊婦さんは大盛りね。」

割烹着を着た女の人が、私と若い女の子の前に、出来立ての親子丼を出してくれた。

すると若い女の子はケータイを確認し、

「あっ!もうこんな時間!私、講義あるんだった~!いっただきま~す。」


左手にケータイを持ったまま、右手で器用に箸を持つ。

その姿を見て、割烹着を着た女の人は、

「ケータイは?」

と、母親の様に諭す。

「は~い。」

素直に、若い女の子はカバンにケータイを入れ、私の方を向いてちょっと舌を出して笑って見せた。


その間も、正直な私のお腹はグーっと鳴る…。

目の前の親子丼を食べてもいいものか、少しだけ遠慮気味に割烹着を着た女の人に目をやると…にっこり微笑んで、小さく頷いている。


ここは、頂くとするか。

「い、頂きます。」


割烹着を着た女の人は、箸を取った私を見て、安心したようで、

「しっかりたべな。」

そう言うと、再び私達に背を向け、台所へ向かった。

少し濃い味の親子丼は、妊娠中の私にはちょうどよく、とても美味しかった。



若い女の子の名前は倉西 真奈(くらにし まな)。妹の理奈(りな)と暮らす、大学生。

割烹着の女性は、山本 千代子(やまもと ちよこ)。

私が見るに、70代のおばあさんだった。


2*はじめの一歩



3*決断


続く。


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