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シェア ハウス  作者: 田中美鈴
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1*私の状況

初めての作品です。

皆様の心に届きますように…

1*私の状況


私、田中美鈴。

母親が詩人の『金子みすゞ』が好きで『みすず』。

父親が出生届を出す際、役場の人から漢字を聞かれ、とっさに『美鈴』。

未だに両親はその話になるとモメる。

現在、私32歳。


実は、半年前までバツイチで、2人の息子を育ててたんだけど、働いていた食品工場でいい人と巡りあってね、去年再婚したんだ~。

上司だった人なんだけどね、コソコソと2年くらい付き合って、めでたくゴールイン☆

都心の高層マンションに引越してさ、念願のシステムキッチンに、浴室乾燥、子供部屋ってのもある広い3LDKのなんと12階!

眺めもいいし、苦手な虫も上がってこないし、もうサイコー!

そして、人生初の専業主婦を満喫してたんですよ。


ここだけの話、1度目の結婚がね、もうサイアクで旦那帰ってこないわ働かないわ、子供だけ2人も作っちゃって…

あ、そんなこと言ったら今居る可愛い息子ちゃん達に悪いわね!(笑)

だけど、借金と女遊びにもう見切りつけて別れたって訳。

男見る目ないよね~私…(汗)


でも、今の旦那はサイコー!

顔は強面な感じなんだけど、子供たちもすご~くなついてて、直感でこの人だ!って思ったのね。

本人には言えないけど、お世辞にもカッコイイなんて言えないんですが…ですがですが、私にとっては王子様☆

あ、スミマセン…ノロケです…


と、いうことで、私の宝物である家族を紹介させて頂きま~す!!

☆旦那 田中 政幸(まさゆき)39歳(私の王子様☆…えっ!?しつこい??(笑)

☆長男 賢人(けんと)小学2年、8歳

☆次男 義人(よしと)小学1年、7歳


4人での生活がスタート~!

と思いきや、私、妊娠~!!

前回の検診で男の子だと判明…

そろそろ出産に向けての準備を始めようって時に、なんと事件発生!


でもこれは、今思えば始まりに過ぎなかったんだけど、そんときの私はもうパニック!!

何が起きたと思う?

何だと思う?

結婚して半年よ!?まだ半年。

何と政幸が会社の健康診断で肝臓が悪いの見つかって検査入院…。

それだけでも心配で心配で丸3日寝れなかったのに3日目、病院で何と肝臓ガン…

確かにそう言われた。


『おじいちゃんとおばあちゃんになっても、2人で寄り添って生きていこう』


なんて政幸の奴、言ってたのに、おばあちゃんになるの、私だけ!?

てか、息子産まれるんですけど~!!


妊娠6ヵ月だったけど、さすがにその時だけは飲みましたよ?

ごめんなさいね。でも、もう時効でしょ?

飲んで、泣いて泣いてね、子供部屋で寝てる、賢人と義人なんてお構い無しに叫びましたよ。ベランダで。

イヤ、お洒落なマンション慣れてないもんで、今はバルコニーって言うんでしょ?まぁ、そこで叫んだ訳ですよ。


「政幸のバカヤロー!!」って。


そしたらね、目の前で笑ってるんですよ。

お月様が。

ニコーって。


三日月の綺麗な夜でした。


それを見ながら、心の中で静かに考えましたよ。

これからどうなっちゃうんだろう。 とか

再婚するんじゃなかったのかな。 とか

子供部屋でスヤスヤ眠る賢人と義人のこと。 とか

病院のベッドで何も知らずに寝てるだろう政幸のこと。 とか


色々かんがえてたら、何か私の中でパンって弾けたのね。これはいい意味で。


やってやる。


考えても状況は変わらない。

泣いても叫んでもそう。

これは現実。


やってやるよ。


看病も、子育ても、出産も、全部やってみて、行き詰まったら又、そん時考えりゃいいって。


何か私、お月様見てたら自分がとってもちっぽけに感じてね、少しの間、寒~い夜空で笑ってる奴を眺めて、大きく深呼吸した。

それから暖かい部屋に戻り、飲みかけてたワインを捨てた。

悲劇のヒロインぶってた私を捨てるために…



政幸にはね、迷ったよ。

告知するかどうか。

だけど、すぐには言わずにおこうって思った。

余命1年とは…

だって結婚したばっかでさ、子供産まれるんだよ。言えなかったよ。

私の中で留めておける間は留めておこうって決めた。

そして、肝臓ガンについて慣れない本とか買ってさ、色々調べましたよ。


簡単に説明すると、肝臓ガンは見つかっても、手術可能なのは全体の3割程度。ガンのステージには1~4まであって、手術出来るのはギリギリ、ステージ3まで。

手術ができたとしても5年以内に再発する確率はなんと8割もあるらしい。

そして障害度はA.B.Cの3段階で、A.Bは外科手術。Cの状態は、生肝移植もしくは緩和療法のどちらかで、移植すら難しく、でも前向きな治療を望む患者には、手術や抗がん剤で治療することがある…

む、むずかしい…


政幸は、まだはっきりした障害度や治療方針は決まっていなかった。

そう、明日、主治医の先生から話がある。

又、今夜も眠れなかった。

余命宣告1年。

肝臓ガンといっても様々な治療がある様だが、明日全てわかる。

希望はあるかもしれない。

希望は捨てない。



翌日、病室で暇そうにTVを見てる政幸見て、

あぁ~、この人はおじいちゃんになれないかもしれない。なってくんないかもしれない。

そう思うと涙出そうになったけど、昨日お月様に誓ったんだ。

やってやる。って。

だからぐっと堪えて中に入ったら、幸政幸の奴、

「おぉ~!やっと来てくれたか、俺の待ち望んだ姫~!」

とかふざけちゃって、もう腹立つよ。こっちはどんな想いで来たのかも知らないくせに!!

でも…

私の腹立たしさなんて一瞬で覚める一言が私に降ってきた。


「俺さ、多分長くないわ…お前、いい女なんだからさ、腹の子供おろして前の生活に戻れよ。その方が、美鈴にとっても、賢人と義人にとってもいいと思う。」


いつもふざけて笑い合ってたのに、そんときの政幸は真剣だった…。


私ね、子供の頃からあまりいい子だった訳じゃない。両親にも迷惑かけた。そんな私を神様が助けてくれると思ったことはないけど、この時だけは思った。


神様。


どうしてこの人を苦しめるの?

私のしたことは私が償います。

だからこの人を。政幸を苦しめるのだけはやめて。

おじいちゃんになれない政幸をどうかこれ以上苦しめないで。って。

だけど、政幸の身体の事は、政幸自身が一番わかってたんだ…



気付いたら、私は病室の外に居た。

多分…飛び出しちゃったんだ。

あぁ~、これじゃダメ。

こんな私ではダメだ。

頬を伝った水分を手で拭き取り、すぐに病室へ。

勿論、笑顔で言ったよ。

「トイレ。妊婦って近くなるもんだね~。って何の話だっけ?着替え、ここに置いとくよ。」

学のない私には、これが精一杯だった。


それ以上、何も言わずにただずーっと、曇った窓の外を見ていた政幸に、私もまた何も言えずにいた。


子供たち、帰って来るからまた明日。そう告げて、私は呼ばれていた主治医の元へ向かった。

多少、勉強してきたつもりだったけど、やっぱり難しい事はよくわからなかった。

ただ、政幸の肝臓ガンはステージ3。

手術を行う前に、まず、抗がん剤を投与して病巣を小さくし、それから手術。その後、転移がないかをしっかり調べる。

そしてこれらの処置はあくまでも延命に過ぎない。

障害度はCで、本来なら少しでも楽に最後を迎えることが出来るよう、緩和療法を選択してもおかしくない状況。


……緩和療法ってそういう意味だったんだ……。

ぼんやり考える事しか私には出来なかった。

その後、ソーシャルワーカーというお金の事等について相談できる人と話をしたが、もう私、本当に頭の中が真っ白で、何も考える事が出来なかった。



帰り、駅のトイレで嘔吐した。

多分…つわりのせい。そう思いたい。



いつも自宅の玄関は、開けた勢いの反動で、バタンと大きく音をたてて閉まる。だけど今日は、ゆっくりとドアを開けて静かに、最後までドアノブに手を添えてゆっくりと閉めた。


お金がいる。


入籍してまだ半年。保険とか貯金とか、これからって時…


リビングの入り口で大きく深呼吸し、私は急いで通帳の残高をかき集めた。

私の。政幸の。賢人と義人のも、全て。

治療にどれだけの費用がかかるのか、はっきりとはわからない。

だけど、充分とはいえる額ではなかった。

そん時、心底思った、。


あぁ~、あの時みんなで焼肉屋に行かなければ。

あぁ~、あの時家族が増えてもいいようにって車を買わなければ。

あぁ~、あの時記念日だからって、ワンピースを買わなければ。

あぁ~、あの時…

政幸に貰った、指輪、バッグ、アクセサリー……ハンカチ一枚も疎ましくてたまらない。


その時私は思った。

思い当たる物は全て処分しよう。

車も、指輪も、バッグも、家具も何もかも全て。

そうだ。引越しもしよう。


質屋に車屋、リサイクルショップ。色々回った。

少しずつ大きくなるお腹を抱えて。

外に出ることの出来ない、少しずつ痩せていくおじいちゃんになれない政幸に内緒で…



政幸の病気の事を話さなくちゃいけないのは、息子たち、賢人と義人。

2人は優しかった。

まだ8歳と7歳の子供。3人で肩を寄せあい暮らし、苦労も迷惑もかけた息子たち。

私には勿体ないくらい本当に心のまっすぐな子供たち。

やっと安定した暮らしに優しいパパ。そんな生活から一変、パパのいない生活。パパの身体の病気。

私は2人に話をした。


ーパパの身体にバイ菌がいてね、それをやっつけてもらう為に今、病院で頑張ってるの。だけどその為にはお金かたくさんかかるみたいでね、車とかテレビとか、ママのバッグとか欲しいっていってる人にあげてね、換わりに病院に払うお金を出して貰おうって思ってるんだけど。ー


そう話した。

そういう言い方をした。

私は精一杯、2人の目を見て、時々トクンと動くお腹を撫でながら、真剣に話した。


そしたらね、長男の賢人のやつ、

「大丈夫だよ。ママ。パパがいない間、僕達パパの変わりに頑張る。だってパパと約束したもん。男は女の子を守らなきゃいけないって。ママ、女の子でしょ?僕達男だから、ちゃんとママを守るよ。」

次男、義人も続いた。

「そうだよ。赤ちゃん出てきたら、兄弟が3人でママを守るんだよ。何でママ泣くの?」


せっかくパパになってくれた政幸が、いなくなるかもしれないって事がよく解らないほど幼い息子たち。

そして、私が涙を流していた事と、大人のステイタスに縛られて幸せが何かを見失いかけてた事に気付かされた。


高層マンションが何だ。

車が何だ。

ブランド品が何だ。


今いる子供たち。今から産まれる赤ちゃん。そして旦那。

長かろうと短かろうと、笑顔があればそれでいいんだ。

息子たちをぎゅ~っと抱きしめ、その日は政幸のいないダブルベッドに3人で入る。

お腹の子も入れて4人か……

そう遠くない将来、こんな日がくるんだ。

私はそんな事を考えていた。


何だか湿っぽくなっちゃったけど、本来の私の性格る明るい。

あっけらかんとしてよく笑う。まあ、何も考えてないと言った方が正しいのかも知れないけど…(笑)

だけどその夜は、不安に押し潰されない様、子供たちをしっかり両脇に抱えて眠った。



1*私の状況



2*はじめの一歩

続く…

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