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赤薔薇の狩人  作者: 昴流
第00章 序曲
1/3

少女と運命の出会い

 少女は昔から身体が弱かった。

 生まれつき身体が弱い少女はいつものように病院の窓の外を眺め、同じ景色を見つめ続けていた。

 少女に、『生きる』と言う事も考えていなかったのだ。


(……どうせ私は、この病院で死ぬんだなぁ……)


 毎日、毎日とそのような事を考えていた。

 少女は後どのぐらい生き続けるのだろうかと、何度も考えていた。

 それほど、少女に『希望』と言うものがなかったからだ。

 少女に家族は居なかった。

 そしてこの病院は山奥の病院。

 少女が見るこの光景は、緑いっぱいの山や木のみ。

 既に飽きはじめていたそんな日だった。



「えっと……君が黒埼華(くろさきはな)さんかな?」



 その日だけは、違っていた。

 少女が声がする方に視線を向けてみると、笑みを浮かばせた一人の男性が立っていた。

 白衣を着用し、眼鏡をかけた黒い髪の青年。

 この病院では見かけない人だ。


「……誰?」


「はじめまして。今日からこの病院に勤めることになりました赤野章介(あかのしょうすけ)と言います。君の担当になったんだ」


「……赤野、章介先生?」


「そう。よろしくね」


「……」


 この病院の医師たちは年配の人たちが多い。

 しかし、この医師は二十代後半と言うべきなのだろうか?

 少女には、そう見えたのだ。

 首を傾げつつ、少女は答える。


「よくこんな山奥の病院に勤めようと思ったね?」


「あはは。僕は山育ちだから、こういう自然がある所で勤めようと思っていたから」


「ふーん……えっと、とりあえず、よろしく」


「はい。よろしくお願いします」


 手を伸ばされたので、少女、黒埼華はその手を握る。

 握ったその手が、冷たく感じたように思えた。

 どうしてそんな事を思ってしまったのか、その時華は知らなかった。


 これが、少女の運命を変えるという事を知らないまま、少女はそっと笑った。

 いつも他の人たちに見せる、作り笑顔で。




 * * *




「華ちゃん」


 いつものように華が窓の外を眺めていると、笑みを浮かばせた白衣の医師、赤野章介が姿を見せた。

 眼鏡をかけ、少しだけ白衣が乱れている様子が見られる。


「……どうしたの?白衣すごく乱れてるけど……」


「あははは……いやぁ、ここの看護婦さんたち、積極的で……」


「ああ……その意味わかったよ。ここの医師は年配の人が多いから……若い人が入るのは、珍しいんだよ。看護婦さん数名は若い人たちが多いしね」


 華はどこかヨレヨレ白衣を着ている赤野が面白くて仕方がなく、笑いを少々こらえながらも窓の外の景色を見るのをやめ、近くにおいてある本に手を伸ばした。

 華は推理小説が好み、病院に置いてある文庫本を片っ端から読んでいる。

 それしかやることがないからである。

 読み始めた本に気付いた赤野は華に近づき、答える。


「華ちゃんはそのシリーズの本が好きなのかな?」


「まぁ、面白いから好きかな……でもここの病院、途中までしかこのシリーズ置いてないから読みたくても読めないんだよね……」


 以外にこのシリーズは面白いのだが、この病院は途中までしか置いておらず、読めない状態。

 丁度いいところで終わってしまっているので、続きが読みたいとつぶやいてしまった。

 すると赤野は笑みを浮かばせながら華にむけて答えた。


「それなら大丈夫!この赤野先生のお任せください!」


「え?」


「実は僕、このシリーズ最後まで持ってるんだよね。良ければ貸してあげるけど?」


「……マジ?」


「マジだよ」


 ニコニコと笑う赤野の姿を見て、華は今日始めてこの赤野のことを『天使』だと思えるぐらい、感動してしまう。  

 華はそっと、笑みを浮かばせた。

 少しずつ、自分自身の心が解けていくかのように、少しずつ、笑い続ける。

 そして、感じてしまった。



(いつまでも、こういう時間が続けばいいのに)



 いつの間にか、赤野と一緒に笑い続けていたいと、そう思っていたのだ。





 二人の『終わり』が近づいてくるという事も、知らないまま。

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