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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter12 悪徒の城
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†chapter12 悪徒の城01

 渋谷駅で山手線から降りた2人は南改札を通り、バスターミナルのある西口へと出た。朝は晴れていたのだが、今は西から流れてきた厚い雲に覆われ陽の光を塞いでいる。


 「行きたいところがあるんだけど……」

 駅から出るなり、天野雫がそう言ってきた。彼女の口からどこかに行きたいと言われたのはそれが初めてだったので、山田拓人は柄にもなく胸がキュンとときめいた。

 「えっ、どこに?」少しどもりながら返すと、雫は言いづらそうに「魔窟大楼まくつだいろう」と呟いた。


 拓人は膝の力が抜け、思わずその場にしゃがみ込んだ。

 「どうしたの?」

 「いや、色々思うことがあって……」


 魔窟大楼という言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が高まるのを感じた。これは断じて胸のときめきなどではない。

 「で、魔窟大楼なんかに何しに行くの?」

 「それは……」

 雫がそう言いかけた時、右の方から女の怒声が聞こえてきた。見ると駅を出て右側にあるモヤイ像の前で気の弱そうな男性が、金髪の若い女数人に取り囲まれていた。


 ちなみにモヤイ像とは伊豆諸島にある新島村で作られているイースター島のモアイをモデルにした石像で、1980年に新島の東京都移管100年を記念して渋谷区へ寄贈されたものだ。ハチ公ほどメジャーではないが、渋谷の住人にとっては定番待ち合わせスポットになっている。


 「今時カツアゲか? 随分時代錯誤なことしてんな。見て見ぬ振りするのも気持ち悪いし助けてやるか」

 「うん」

 雫が頷くのを見て、拓人はモヤイ像に向かって駆けて行った。


 「はいはいはい、そこまでー!」

 拓人が言うと、絡んでいた若い女たちが一斉にこちらを向いた。始めはさげすむような威嚇いかくするような目で睨みつけてきたが、その後ろに雫の姿を見つけると彼女たちの表情が一変した。


 「あっ! 天野!」

 中央にいる縦巻きドーリーヘアーの女が声を発した。

 「瀬戸口さん……だっけ?」雫は自信なさげに言う。

 「何であなたがここにいるの? ウチらの邪魔をする気?」瀬戸口と呼ばれた女は、雫に対して敵意を示している。


 2人の間にいた拓人は、眉を寄せ顔を交互に見た。

 「知り合い?」

 「うん。高校のクラスメイト」雫は言う。

 クラスメイトなら、ちゃんと名前を覚えておいたほうが良いんじゃないのかな? 拓人は余計な気を回した。


 「助かった。女性は苦手なもんで」

 そう言ったのは絡まれていた優男だった。彼は寝ぐせだらけの頭をぽりぽりと掻いたかと思うと、不意にそこから一目散に逃げ出した。

 「あっ、てめー待てっ!!」

 しかし瀬戸口たちが追いかける前に、男は駅構内に逃げ込み姿を眩ませた。


 「ちょっと、天野のせいで逃げられたでしょ! どうしてくれんの?」瀬戸口は自分の不注意は棚上げにして、男に逃げられた怒りを雫にぶつけた。

 「彼、何かしたの?」

 「何かって、挙動不審だったでしょ。だから尋問してたのよ!」

 「ふーん」雫は何の感情もなく答える。何を問いただしていたのかは特に興味がないらしい。


 「何だよ尋問て。警察みたいなことするんだな」変わりに聞いたのは拓人だった。

 「うっせーな。こっちは緊急事態なんだっつうの。仲間が突然姿を眩ませたから、怪しい奴を片っ端から捕まえてんのよ」

 「姿を眩ませた? 携帯も繋がらないのか?」


 「バッカじゃないの? 携帯が繋がったらこんな面倒なことしないわよ。そうだ天野、あんたツカサのことどっかで見なかった?」

 瀬戸口が早口でそう言うと、雫は何かを考えるように上を見上げた。

 「ツカサって、逆月さかつきさんのこと?」


 「そう。ツカサと一昨日から連絡が取れないのよ。家にも帰ってなくて、皆心配してるんだけど天野どっかで見なかった? あんた確かツカサと同じ中学でしょ?」

 雫が少し頷くと同時に、横にいた拓人が小さく呟いた。

 「逆月ツカサ?」


 その言葉に反応した瀬戸口が、拓人に近づき至近距離で睨みつける。

 「お前、何か知ってんの?」

 「いや、名前が回文になってるなぁって思っただけ」


 「はぁ!?」

 瀬戸口は眉根を寄せて首を曲げる。その曲げた首が直角になるまで曲がった時、彼女は突然大声を上げた。

 「ホントだっ! 名前が回文になってるぅ!!」

 逆月ツカサ。逆から読んでもサカツキツカサだ。

 

 周りの仲間たちもその事実に初めて気付いたようで、皆「すげー」とか「ツカサにも教えてあげよう」などと言っている。名付けた親は絶対に狙って回文にしてると思うから、当然娘であるツカサ本人もそれを承知しているはず。とんでもなく馬鹿な連中だが、思ったほど悪い人間ではないようだ。


 「お前らは何だ? どっかのグループに属してるのか?」

 拓人がそう言うと、笑顔を見せていた瀬戸口の表情が一気に曇りだした。

 「それマジで言ってんの? ウチらを知らないとか、一体どこの田舎もんだよ!」

 瀬戸口は半開きの口で凄む。ただ田舎者は否定出来ないため、拓人は押し黙った。


 瀬戸口は羽織っていた豹柄のストールを翻した。

 「ウチらはガールズモッブの『ALICEアリス』! どこの原住民だか知らないけど、渋谷に来るんだったらこの名前くらい覚えておきなさい!」

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