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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter11 墓場の住人
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†chapter11 墓場の住人07

 渋谷の駅から程近い繁華街の片隅に、その場所はある。唐突に現れる高さ3メートルの壁が、敷地面積6000平方メートルはある建物を囲い中を窺い知ることは出来ない。


 「魔窟大楼まくつだいろうは今日も厚い雲に覆われとるなぁ……」見上げた上条がそう漏らした。

 以前来た時もそうだったが、今日もまた建物の上空には暗灰色の雲が垂れこんでいる。魔窟大楼の上空は、常に暗雲に閉ざされているかのようだ。


 「前に来た時と同じ空模様やな。嫌な予感がするわ」

 そうぼやきながら壁の続く道を歩いて行くと、以前来た時と違う状況を1つだけ発見した。


 「あれ? 門が閉まっとるやん」

 侵入者を拒むような高い壁に囲まれている魔窟大楼だが、入り口に関しては入れるものなら入ってみろとでも言わんばかりに常に開け放たれている。本来なら。それが何故か今日に限っては、鋼鉄製の赤い扉が巨大な門を隙間なく塞いでしまっていた。


 「頑丈に閉められてるみたいだけど、開けられる?」みくるは観音開きの門扉もんぴを塞ぐかんぬきに手を触れた。そこには大きな南京錠が付けられている。

 「こんな古臭い錠前やったら付けてる意味ないで。別に俺やなくとも、ねじ回し1本で簡単に開けられるわ」


 上条は腰に付けたヒップバックからマイナスドライバーを取り出すと、その先端を南京錠の鍵穴に差し込んだ。マイナスドライバーを持つ右手を小刻みに動かしながら、左手で掛け金を持ち上げていく。すると小気味いい金属音と共に掛け金が上に開いた。

 「な?」

 「おー、凄い凄い」

 みくるが素っ気なく返すと、上条のドヤ顔が瞬時に崩れた。


 「まー、ほんまに大したことないことやからね」

 上条は南京錠を取ると、閂の棒を横に滑らせた。


 「みくるちゃんどうする? まだ気分が落ちつかへんのやったら、俺1人で行ってくるけど」

 とは言うものの、魔窟大楼はその敷地の周りというだけで治安が悪いし、だいいち今の渋谷はデーンシングと遭遇してしまうリスクがある。


 「いいよ。あたしも一緒に行く」

 「せやな」

 例え魔窟大楼の中だとしても、みくるを1人にしてしまうよりはよほど良いだろう。


 上条は門扉の前で手を合わせた。「今日は無事に帰れますように……」

 合わせた掌を離すと、その手で門扉を押し開き中に入って行った。みくるもその後に続く。


 敷地の中は、砂埃と腐敗した玉ねぎのような生々しい臭いが入り混じっている。上条は鼻呼吸を止め口で息を吸い込み、建物の中に入った。

 魔窟大楼の1階から4階は、かつて商業施設だった頃のテナント跡地を利用して幾つかの商店が存在したらしい。だが現在では看板や提灯などの名残を残して全て無くなってしまい、明かりもなければ人の気配もない。


 「けど地下ってどこから降りるんやろ? 下に降りる階段なんてなかったような気ぃするけど」

 中央の通路を真っすぐ歩いて行くと、すぐに建物の外に通じる戸口に辿り着いた。その先は中庭のような形状になっている。


 「なんやここ? 色気のない広場やなぁ」

 上条の言う通り、庭と呼ぶには少し殺風景な場所だった。四方建物に囲まれた野球のグラウンド程のその場所は、何の舗装されておらず土がむき出しなのだが陽が当たらないせいか雑草1つ生えていない。


 「ねぇ見て。真ん中に石碑みたいのがあるよ」

 みくるに言われ、上条は中央に目を向ける。確かにそこには重なった大きな石が置かれている。2人はその石碑に歩み寄った。


 「何やろこれ? お墓みたいに見えるけど」

 「お墓?」

 みくるが石碑に書かれた碑文に顔を近づける。ただ見る限り書いてあるのは中国語なので、意味は絶対にわからないはずだ。


 「そういえば、店の名前がカタコンベ東京って言ってたけど、カタコンベって地下の墓場って意味じゃなかったっけ?」

 「えっ、そうなん?」カタコンベの意味などわからない上条は、半信半疑で聞き返した。


 「この石碑がお墓だっていうなら、この辺りの地下にあるんじゃないのかな?」

 「成程、ここの地下かぁ」

 上条は辺りを見渡す。すると荒地の奥に小さなほこらのようなものがあるのを発見した。「あれちゃうか?」


 足場の良くない地面を踏みつけ、上条とみくるがそこに歩み寄る。

 「やっぱりそうや。ここが階段や」

 祠のように見えていたのは、実は階段室だった。中を覗きこむと下に続く階段が続いている。


 「この階段を下りるわけ?」後ろから覗き込んだみくるが言う。

 「そらそうや。地下にあるって言いだしたんは、みくるちゃんやで」

 人1人が入れるほどの狭く薄暗いその階段は、侵入者を拒むかのように不気味な静けさを保っている。確かに入るのを躊躇ためらう気持ちも理解できる。だが石化した腕を治す術が他にない以上、上条は例えこの下が毒蛇の巣になっているとしてもここを降りざるを得ないのだ。


 「ほんなら行くで。みくるちゃん、ついてきぃや」

 「えっ、まだ心の準備が出来てないのに! 虫とかいたらすぐに逃げるからねっ!」

 上条とみくるは、意を決してその階段を下りて行った。

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