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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter3 夜空からの来訪者
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†chapter3 夜空からの来訪者02

 上条はその場から立ち上がると、下がったチェック地のクロップドパンツを腰まで持ち上げた。

 「なぁ。その髭ロン毛いう奴は、まさかB-SIDEビーサイドの鳴瀬光国みつくにのことじゃないやろな?」


 「ビーサイド? あー、そういえばあいつらそんなこと言ってたな。名前もナルセとか呼ばれてたような気がする」

 緑の男がそう答えると、上条は「おー、ほほほほほっ」とわざとらしい笑い声を上げた。

 「『帝王』の異名を持つ鳴瀬光国に喧嘩でも売ったんか? 恐ろしいやっちゃなぁ」

 それを聞いた緑の男は表情が険しくなった。それはそうだ。B-SIDEの鳴瀬と言えば渋谷のストリートギャングの中でもトップクラスの強さを誇っている。きっとこの男も、ほうほうの体でここまで逃げてきたのだろう。


 「そんなにヤバい奴なのか?」

 「そりゃ、そうや。B-SIDEの鳴瀬と言えばヤクザもよう手を出さへんことで有名やのにアホやなー。奴の『サイコキネシス』の能力は簡単に攻略でけへんぞ」

 上条は手を横に広げて、理解できないという様子を現した。


 「成程。あれはサイコキネシスだったのか。ふーん」緑の男は1人納得する。

 「いや、軽いわっ! お前サイコキネシスの恐ろしさ、絶対わかってないやろっ! 手も触れずに物体の移動や破壊ができんねんぞ!」

 サイコキネシスとはいわゆる念力の一種で、対象とする物質にエネルギーを発生させ、動かしたり破壊したりすることができる能力なのである。


 「そういえば、奴が一睨みしただけでハチ公の台座にひびが入ってたなぁ」

 「それやねん。もしその台座がお前の頭やったらどないなってると思う?」

 上条がそう脅かすと、緑の男は表情を曇らせ口をつぐんだ。恐らく自分の頭蓋骨が砕けたことを想像しているに違いない。


 「ここまで言えばわかったやろ? 鳴瀬に手ぇ出す人間なんて、それこそそこにいる黒髪くらいなもんやで」

 そう言うと、目の前にいる黒髪の眉がピクリと動いた。

 「B-SIDEならていさんだって追いかけてるよ」


 「テイさん? 誰や、そいつ?」

 上条は比較的大きい声で言ったのだが、黒髪は聞こえているのかいないのかその質問には答えなかった。


 「けど、しずくなら鳴瀬に勝てるんじゃない?」

 横にいるみくるはそう言うと黒髪に視線を向けた。どうやら雫というのは黒髪の名前のようで、そう問われた黒髪は静かに頷いた。

 「鳴瀬の能力は、皆が恐れている程のものじゃない。彼に掛かった懸賞金は私が頂くわ」


 多くの人が恐れをなす渋谷の帝王を淡々と倒すと語れる黒髪の姿に、上条は感動にも似た感情を覚えた。

 「さすが黒髪さんやな。けど、恐れるほどの能力じゃないというのは俺も賛同するで。見たところ鳴瀬の能力では、直接人体を破壊することはできひんようやし」

 上条は意見に同意したのだが、何故か黒髪の表情に陰が差した。

 「悪いけど、その呼ばれ方はあまり好きじゃない」


 この上条が黒髪と呼ぶ女は高校生でありながら賞金稼ぎを生業としており、主に渋谷を拠点に賞金首のストリートギャングを捕縛して生計を立てていた。一見すると大人しそうな女子高生のような装いだが、その実、凶悪な能力を持った亜種でも恐れるようなある特殊な能力を持っているらしく、夜の街ではその一度も染髪したことのないような美しいミディアムボブの髪型から『黒髪』という異名で恐れられるようになっていったのだ。


 「そうかゴメンやで。名前、何ていうんやっけ?」

 「天野雫……」

 「ふーん、天野雫いうんか? 可愛らしい名前やんか」

 そう言われて、黒髪の雪のように白い肌が僅かに紅潮した。「お母さんが付けてくれた名前だから」


 児童養護施設にいたり、高校生なのに賞金稼ぎをしていたり色々家庭環境が複雑なのかもしれへんけど、それでもこの子は母親を愛しているんやな。上条は心の中でそう思ったが口にはしなかった。


 自分とはあまり関係のない話が続いたためか、緑の男は業を煮やしたように勢いよくそこから立ち上がった。

 「ところでさっき言ってたことだけど、何であんたはあの髭ロン毛が直接人体を破壊できないと思うんだ?」

 そう問われると、上条は不気味に口の端を上げてみせた。


 「俺は相手の能力が何なのかわかってしまうねん。例えばお前が亜種で『疾風』の能力を持っているということを暴くのは簡単なことなんや」

 そう言って上条が指差すと、緑の男は動揺したように己の胸を押さえた。わかりやすい奴だ。


 上条は得意気に笑みを浮かべると、目の横にピースサインを作った。「俺の能力は『暴露』。半径5メートル以内にある、あらゆる物事を暴く力があるんやで」

 「ば、暴露!? それで相手の能力を理解できるのか?」

 その風変わりな能力に緑の男は驚きを隠せない。そして、それに気を良くした上条の顔から、ニヤニヤが止まらなくなる。


 「そういうことや。まぁ事のついでやし、あのB-SIDEの連中が脅威に感じている雫ちゃんの能力も暴いてあげようかなぁ~」

 そう言って上条が視線を向けると、黒髪は緑の男を後ろから抱きしめた。

 「へっ?」

 緑の男が間の抜けた声を吐くと同時に、突然屋上に強い風が吹き抜ける。2人はその風に乗って5メートル程後方に飛び上がると、屋上の手すりの上に静かに着地した。


 思わず肝を抜かれた上条だったが、すぐに飛行能力があることを思い出した。冷静さを取り戻し声を掛けようとしたのだが、一寸置いて断末魔のような声が屋上に響きわたった。

 「ぐああああっ!! 高いとこは苦手だって言っただろぉぉぉっ!!」

 それは緑の男の叫び声だった。彼の真下には高さ100メートルのビルの谷間が広がっているのだから仕方がない。


 「暴れると余計に危ないから」

 しかし同じ位置にいる黒髪は、あくまで冷静だった。


 この2人は屋上から立ち去るつもりだろうか? たった1つだけ言いたいことがある上条は、手を伸ばし2人を引き止めようとした。

 「ちょっと待ってくれへん! 雫ちゃんに聞いて欲しいことがあんねんけど」

 それに対し黒髪は返答こそしなかったが、その場に留まり次の言葉を待っていた。上条は小さく息を吸い、思いの丈をぶつける。


 「俺らが作った新しいチームに、雫ちゃんも入ってくれへんか?」

 その言葉の後、横にいたみくるは面を食らっていたが、手すりの上に立つ黒髪は表情を変えなかった。いや、少しだけ口角が上がったようにも見える。


 そして黒髪は短く言った。「やだ」

 黒髪は小さくジャンプしてそのまま手すりから飛び降りると、緑の男の悲鳴と共にビルの屋上から姿を消してしまった。


  ―――†chapter4に続く。

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