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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter3 夜空からの来訪者
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†chapter3 夜空からの来訪者01

 その時上条圭介は、20階建てのビルの屋上にて激しく憤っていた。

 「だから何べんも言うたのに、何で右の花火上げてまうねん! 左から順番に上げていって、最後に大きい6号玉上げようって言うたやんかっ!」

 「だって圭介がお茶碗持つ方だっていうからわかんなくなったんじゃん。あたし左利きだし」

 だが怒られている佐藤みくるは、すでに開き直り自分の正当性を主張していた。


 「お茶碗持つ方って説明する時に、左利きの可能性まで考慮して言う奴がどこにおんねん! お茶碗持つ方いうたら、普段は右手でお茶碗持つ人も、ああ、左のことやなあって考えんとアカンわ。それがマイノリティの責務やで!」

 「なにそれ、差別的! 最低! 少数派を無視した民主主義モンスター! バカみたい!」


 口喧嘩ではみくるに勝ったことのない上条は、これ以上口論しても無駄だと気付き首を振ってその場から離れた。

 「あー最悪や、最悪。やっぱり自分でやっときゃよかった。最初に6号玉上げて、その後3号玉とか尻すぼみすぎ。最悪や」

 上条は何度も文句を言いながら塔屋の前までくると、下げていたブレーカーを元に戻した。

 暗闇と静寂が続いていた街に煌めきが戻ると、命を吹き返したようにいつもと変わらぬ喧騒が広がっていった。


 「たかが花火の順番で大げさなんですけど」

 そのみくるの言葉を聞いてムッとした上条だったが、振り向きざま意外なものが目に映り、思わず怒りの感情さえも忘れてしまった。


 「あれは、何や?」

 上条は夜空に浮かぶその意外な物を指差したが、みくるはそちらの方には目を向けなかった。

 「はぁ? そんな古典的な手に引っ掛かると思ってんの?」

 彼女は何か誤解している。目を反らした瞬間、何か物理的な仕返しをしてくると思っているのだろうか?


 「ちゃうねん。空に人が浮かんでんねん」

 本当に馬鹿らしい。そんな顔を浮かべたみくるだったが、その戯言に付き合うことにしたのか、溜息をつくと静かに首を上げ夜空を見上げた。

 「……ホントだ。空に人がいる。どういうこと?」


 上条は首を捻った。「わからん。宇宙人ちゃうか?」

 2人が視線を向けた夜空の先には、男性を抱きかかえた女学生の姿があった。

 「宇宙人? あたしには人間に見えるけど……」

 「そうやなぁ、亜種やろか? 飛行能力なんて初めて見たわ」


 上条とみくるが呆然と見守る中、ゆっくりと空から降臨してきた女学生は、男を抱えたままその屋上に静かに降り立った。


 「あっ!」

 近づいたその女を見て上条は声を上げた。「お、お前、賞金稼ぎの『黒髪』やないか! どういう状況やっ!」

 屋上に降臨してきたのは、黒髪と呼ばれる渋谷では有名な賞金稼ぎの女だった。


 「逃げてきたの。少しお邪魔するわ」

 黒髪はそう言うと、抱きかかえていた若い男を地面に下ろした。寝ているのか死んでいるのかわからないが、降ろされた男は床に上でピクリともしない。


 「うわっ。何やそいつ?」

 上条は視線を下に向ける。横たわる男は緑のTシャツに緑のハーフパンツという謎の出で立ちだ。ほうれん草を練り込んだフェットチーネでジェノベーゼパスタを作ったかの如く緑がくどい。


 「あなたたちね。ここから花火を上げていたのは」

 黒髪は質問を無視してそう聞いてきた。まあ、上げる順番にこそミスはあったものの、その自慢の花火を見てて貰えたことに気を良くした上条は、横たわる男のことなどすっかり忘れて花火のことを語りだした。

 「そうや、綺麗やったろ。B-SIDEのブルーのサーチライト消して、俺らのチームカラーの花火を上げたったんや」


 「チームカラー? 金色をチームカラーにしているグループなんて聞いたことがないけど」

 黒髪は先程の花火を思い出しているかのように空を見上げる。

 「いや、金色ちゃうわ。あれは黄色の花火や。黄色!」

 そう言ったのだが、黒髪は更に首を傾げた。確かに黄色がチームカラーのグループにしても、昨日までは渋谷に存在していなかったのだから仕方ない。


 「私たちのチーム名は『スターダスト』。この黄色の花火の打ち上げを以て、チームの結成を宣言したのよ」

 そこでみくるが口を挟む。納得がいった様子の黒髪は、そのままみくるの顔をじっと見つめた。

 「あなた、もしかして佐藤さん?」


 名を呼ばれたみくるは色違いの目を大きく見開くと、たじろぐように1歩身を引いた。

 「数ヶ月間しか一緒にいなかったのに、あたしのこと覚えているの?」

 「……まあ」黒髪は頷く。


 みくるは驚いているようだが、その横にいた上条はそれよりもっと驚いていた。

 「みくるちゃん、黒髪と顔見知りなんかっ!? 初耳やわぁ」

 そう言われると、みくるは表情を曇らせた。「昔、児童養護施設で一緒だったのよ……」


 「ああ、そうだったんや」

 上条はみくるが昔のことをあまり話したがらないことを知っているので、それ以上の話は掘り下げなかった。別の話でもしよう。


 「ところでこの男は誰なん。見たことあれへんけど賞金首か?」上条は地面に寝転がる緑の男を指差した。

 黒髪が質問に答えようと何か口を開きかけたのだが、その瞬間寝ていた緑の男が急に起き上がった。ボサボサのくせ毛がふわりと揺れる。


 「あ、あれ? あの髭ロン毛は?」

 緑の男の第一声はそれだった。だが彼の目の前にいる上条は髭も剃っているし、ロン毛でもない。むしろ坊主頭だ。

 「ロン毛じゃのうて、わるかったな」

 上条がそう言うと、緑の男は何度か瞬きをして辺りをキョロキョロと見回した。全く状況を理解していないようだ。


 「ここはキャピタル電力ビルの屋上よ」

 見かねたみくるがそう教えると、緑の男は「あー」と口を開けた。

 「ということは、あの髭ロン毛たちからうまく逃げられたんだな」

 その言葉に、黒髪は静かに頷いた。どうやらこの2人は、髭ロン毛と呼ばれているに追われてこんなことまで来たらしい。


 「髭ロン毛ねぇ……」

 上条は独りごちる。黒髪と言えば、渋谷でも指折りの賞金稼ぎ。その黒髪が逃げなければいけないような相手は、数多くのストリートギャングが存在するこの街でもそう多くはないだろう。


 髭ロン毛ってあいつのことやろか? 

 上条はその髭ロン毛と呼ばれている人物に心当たりがあった。

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