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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter10 空中公園の隠者
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†chapter10 空中公園の隠者08

 「やっぱり人間の瞳は琉王るおうさんが持ってたんか……」


 上条が失った人間の瞳を探す中で、宝石はすでに琉王の手にあるのではないかという疑念を感じていた。それは琉王が人間の瞳に対し執着していなかったからだ。当初はみくるの千里眼の能力を使ってでも奪還したいようだったのが、魔窟大楼まくつだいろうの事件の後は仕方がないと簡単に諦めてしまったのは明らかに不自然だった。


 琉王は、ばつの悪そうな笑顔を作ると「はい、申し訳ありません。実は魔窟大楼で事件があったあの日、私の部下が秘密裏に人間の瞳を回収していたのです」と言い、胸元から黒い小箱を取りだした。

 「見覚えがあるかもしれませんが、これが人間の瞳です」

 琉王は手の中の小箱を開いた。中にある球状にカットされた巨大なルビーが、忌まわしき赤い光を放っている。魔窟大楼で見た物で間違いないようだ。


 「うわっ! これは見たらあかんやつや! 命が奪われるでっ!」

 上条は以前、琉王から聞いた逸話を思い出し目を覆った。しかしそれを正面で見ていたキム子は、やれやれと深いため息をついた。

 「異国の迷信を一々間に受けるなんて、あんたって本当に馬鹿な男なのねぇ」

 「へっ? 迷信?」上条は少し高いトーンでそう聞くと、覆っていた手を顔から外した。


 「そうです。人間の瞳に魅入られてしまった主は命を奪われてしまうというのは、ただの迷信ですよ。言いませんでしたか?」

 琉王は言う。そういえばヘヴンの応接室で琉王からその逸話を聞いた時、最後にそれが迷信だということを言っていたような気もする。


 「いや、聞いとったけど……」

 どうやらこの逸話に関しても一杯盛られたらしい。あの時、人間の瞳を所有しているが見たことはないと言っていたのも、恐らく嘘なのだろう。


 「じゃ、ずっと琉王さんが人間の瞳を持ってたんかいな? 水臭いなぁ」

 「1度、裏ブローカーの手に渡り人間の瞳の所在が裏社会に伝わってしまっている恐れがあったので、今まで隠していました。申し訳ありません」

 人間の瞳とは裏社会に知られてはいけないもののようだ。道玄坂ヘヴンがデーンシングに襲撃されたのも、もしかすると人間の瞳を隠し持っていたのが原因なのかもしれない。


 「なあ琉王さん、教えてくれへんか? 人間の瞳って一体なんなん?」

 上条がそう聞くと、琉王は「そうですね。それについてお話しましょう」と言い、人間の瞳が入った小箱を丁寧に閉めた。


 「私が何故バンコクの秘宝と呼ばれるこの人間の瞳を手に入れたかというと、実はこの宝石は私とみくるの母、佐藤紘子ひろこに関わるものだからなのです」

 人間の瞳とは世界最大のルビーで、盗品であるものを闇オークションで入手したというのは以前琉王から聞いていたが、そんな世界的な宝石が一般人といかなる繋がりがあるというのだろうか?


 「みくるちゃんのおかん……?」

 そうだ。以前、みくるに人間の瞳の話をした時、彼女は大きく動揺していたではないか。あの時ははぐらかされてしまったが、やはりみくるも人間の瞳が母に縁のある宝石だということを知っていたに違いない。


 「おい、ちょっと待ってくれ。今の話だと琉王さんとみくるが兄妹みたいな言い方じゃないか?」

 拓人が声を上げると、上条は「あっ」と小さく声を出した。

 「そうか拓人は知らんよな。けど、そうやねん。琉王さんとみくるちゃんは兄妹だったんや」

 「マジかっ!? 何でそういうこと教えてくれねぇんだよ!」


 憤った拓人が上条を指差す。上条は両手を合わせると、可愛くもないウインクをして誤魔化した。

 「すまんな言うの忘れとった。俺も昨日キム子ママに教えて貰ったばっかりなんや」

 「圭介くんも昨日知ったのかよ。っていうか暴露の能力で家族構成暴けんだろっ!」

 そう言われると、上条はさも面倒だといった表情で口を開く。

 「せやから、プライバシーに関することは……」「暴かない主義なんだろ! はいはい、わかったよ!」


 不機嫌そうに眉を寄せる拓人の顔を、横にいるキム子がいやらしい目つきで見ている。

 「なーにー? みくるったら琉王のこと皆に内緒にしてるのねぇ」

 琉王はきまりが悪そうに後頭部を掻いた。

 「いやはや、みくるさんには嫌われてしまっているようで、お恥ずかしい」


 「あの子はちょっと情緒不安定なのよ。こんなイケメンがお兄ちゃんだったら普通大喜びするはずなのに、一体何が不服なのかしら?」

 みくるは琉王がやっているカジノの仕事を嫌っているようなことを言っていたが、2人が兄妹だというのならば嫌う理由はもっと根深いところにあるのかもしれない。


 「みくるちゃんのおかんは、確か亡くなったって聞いてたけど……」

 上条が言い淀むと、琉王は目を瞑り小さく頷いた。

 「おっしゃる通りです。私たちの母、佐藤紘子は6年程前に、デーンシングのバンハーンという男に殺されたのです」


 「デーンシングッ!?」

 狭い管理室内に、上条と拓人の大きな声が響いた。

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