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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter10 空中公園の隠者
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†chapter10 空中公園の隠者03

 「本当にこんなところに人間の瞳があるのか?」

 トンネルになっているJR線の高架を潜り抜けた拓人は、上を見上げそう言った。

 目を向けた先には人工地盤上に整備された公園がある。下層部分は駐車場になっており、上層の公園部分は隣接する鉄道の築堤ちくていと同じ高さに造られている。


 「どういう訳か、昨日千里眼で調べていたら偶々たまたま発見出来たんやって。今までは調べても全然わかれへんかったんやけどな」

 上条がそう言いながら、路地の突き当たりにある石段を上る。丁度その辺りはヘヴンの従業員、南條浩史が殺されていた場所でもあった。


 日は沈み、街は華やかなネオンが咲き乱れる時間帯になったが、ビルの狭間にあるこの公園の中は辛うじて静寂を守っている。冷たい風が公園を囲む木々を吹き抜け、頭上の梢がざわざわと音を鳴らした。

 「けどこの公園って『ファンタジスタ』の拠点になってるんだろ?」

 そう言われた上条が入り口にある門柱に目をやる。そこには宮下公園と書かれていた。

 「せやな」


 そうここ宮下公園は渋谷三大勢力の1つ、ファンタジスタが本拠地にしている場所だ。彼らは『パルクール』と呼ばれる走る、跳ぶ、登るなどの移動動作で身体を鍛える新興スポーツの実践者である。少数でありながらもその全員が高い身体能力を持っているため三大勢力の1つとして数えられているが、本人たちはチーム同士の抗争には興味を持っておらず、自らも喧嘩を売ることはないということだ。


 「ファンタジスタのメンバーって、あんまり悪い評判聞かないよな」

 「そら、拓人が渋谷に来て日が浅いから知らんだけや」上条は声のトーンを抑えて言う。

 「えっ!? 実は悪い奴らなのか?」

 驚く拓人に対し、上条は首を横に振った。

 「いや基本的には人畜無害な爽やかスポーツ集団やで。せやけどその反面、自分たちのホームにしとるこの宮下公園を荒す輩を見つけた時は、全力で潰しにかかるから気をつけなあかん」


 以前、この公園の在り方について異議を唱える市民団体と称した左翼集団が大挙しておしかけた時、100人はいたその集団をたった6人で全員半殺しにしてしまったのは今でも語り草になっている。


 「駅から近い立地にある大きな公園だから他のチームも手中に収めたい場所やろが、B-SIDEですら手が出せないのが現状らしいで」

 それを聞いた拓人は思わず舌を出した。

 「人間の瞳はそんな恐ろしい奴らの手に渡ったのか。一体どうやって奪い取るつもりだ?」

 「奪い取るって何やねん。俺らは窃盗団じゃないんやから」

 「だってスターダストは渋谷を制するのが目標なんだろ? ということは俺らにとってファンタジスタは敵じゃないか。敵に奪われた物は奪い返すのが俺らの流儀だろうが」


 上条は人差し指を口元に立てると慌てて「しー」と声を出した。

 「ファンタジスタの本拠地で何ちゅうこと言うねん。はっきり言うとくけど、俺らはファンタジスタとはやりあえへんで」

 拓人は納得のいかない顔で鼻を鳴らす。「何でだよ?」


 「ファンタジスタは三大勢力に含まれとるけど、本来はただのスポーツ団体に過ぎないからや。それにファンタジスタの代表、ファンの思想は俺に似てるんや。だからこことはやりあわへん」

 「思想? 圭介君に思想とかないだろ?」

 「あるわっ! 俺だって考えなしに喧嘩売ってるわけちゃうねんぞっ!」


 それについて信じられないといった表情で眉間の皺を寄せた拓人だったが、急に驚いたように目を見開いた。

 「うわっ! 何だあれは?」

 上条も拓人が見ている方向に目を向ける。すると少し離れた場所で2人の男がステンレス製の手すりの上で逆立ち状態になっているのが見えた。2人はパントマイムのようにじっと静止したまま動かない。


 「あれがファンタジスタのメンバーやな。恐らく身体でも鍛えとるんやろ。向こうから手ぇ出してくることはないはずやから、絶対に喧嘩売ったらあかんで」

 上条が強い口調で念を押すと、拓人は半笑いを浮かべ顔を横に向けた。

 「絶対に?」

 「絶対や、絶対! 振りちゃうねんぞ。タイマンで戦ったら、今の拓人じゃ一方的にやられるだけやからな!」


 拓人がそれを聞きムッとしたところで、手すりの上で倒立していた2人の男が、しなやかに半円を描きくるりと足を地面に下ろた。

 上条はそれとなく2人の顔に目を向ける。1人は黒いスウェットの上下で、もう1人はグレーのジャージ姿だ。

 「あー。あれは確かファンの側近の2人やな。黒いのが六角ろっかくで、灰色のジャージ着てんのが飛澤とびさわとかいう奴や。とりあえずあいつらに話つけてみるか……」

 そう思い、一歩踏み出した上条の目に連続前転飛びをしながら近づいてくる六角の姿が映り込んだ。


 「おいおい、やばいんじゃないのか!」

 拓人がそう口にした時にはすでに、六角の上段蹴りが上条のこめかみを掠っていた。

 「うわっ! 何すんねんっ!?」

 よろけた上条が言うとその束の間、今度は飛澤が縁石を使って飛び上がり襲いかかってきた。


 「話が違うじゃねえか!!」

 横にいる拓人も指をくわえて見ているわけじゃない。風に乗って素早く1歩踏み出すと、宙を舞う飛澤に回し蹴りを放った。

 しかしその蹴りは何故か飛澤の身体を突き抜けてしまい、勢い余った拓人は地面に横転してしまった。


 攻撃を無効化させた飛澤は、空中から上条の顔面にひざ蹴りを喰らわせた。

 「ぐっ!!」額の真ん中に膝が当たった上条が、顔を手で押さえて後ずさる。

 「圭介君っ!」

 すぐに起き上がった拓人が、上条に止めを刺そうとしている六角に向かって突っ込んだ。


 「スターダスト舐めんなよっ!!」

 突風と共に繰り出した右の拳が、六角の脇腹に衝突した。六角が動きを止めると同時に、骨がきしむ音が鳴る。

 だがその直後、痛みを訴えたのは拓人の方だった。

 「いてえっ!! 何だその身体はっ!?」

 右の拳に伝わってきた感触は、とても人の身体とは思えない程硬いものだった。


 「駄目や、拓人! こいつらはそれぞれ『硬化こうか』と『透過とうか』の能力者で、物理攻撃はほとんど効かへんねん! この喧嘩は買ったらあかんでっ!!」

 額から血を流した上条が大きくそう叫んだ。

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