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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter10 空中公園の隠者
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†chapter10 空中公園の隠者02

 「お邪魔するよ」

 開け放っている交番の扉から、不意に本庁の刑事、四月一日わたぬきはじめが顔を出した。


 「あっ、何でわっぱ共が交番にっ!? とうとうてい巡査に捕まったのか?」

 「何だよ四月馬鹿じゃねえか、びっくりさせんなよ!」

 突然の登場に驚いた拓人がそう言うと、ワタヌキは小さな身体を大きく動かして抗議してきた。

 「おい! 今、僕のことを四月馬鹿と呼んだな! 侮辱罪で逮捕してやるからな!」


 「鄭さん、侮辱罪って現行犯逮捕出来るの?」

 雫が聞くと、巡査は「難しいかな?」と首を捻る。


 ワタヌキは拓人を睨みつけたまま交番の中に入ってくるとそのまま上条の隣の席に座り、慣れた手つきで座面の高さを調節した。

 「とにかくだ。お前たちは頬っておくと何をしでかすかわからないから釘を刺すが、デーンシングには絶対に手を出してくれるなよ。奴らと争いになったら、それこそ国際問題になるからな!」

 ワタヌキはいつになく強い口調で言う。デーンシングの幹部であるパイソンを殺したのは、他でもない本庁の刑事である貞清なのだがそのことは棚上げのようだ。


 「じゃあ、警察がデーンシングを取り締まってくれるんか?」

 「それは……」ワタヌキは何か言いかけて口をつぐんだ。

 「まあ、警察に任せておけば大丈夫だ。お前たちは自分達の命と雫を守ることだけを考えていろ」

 ワタヌキの代わりにそう言ったのは巡査だった。


 賑やかな若者たちが交番の前を横切って行く。騒がしい渋谷の夜が、また始まろうとしているのだ。


 「そういえばスコーピオンの不破はどうなったんや?」思い出したように上条がそう口にした。

 「不破征四郎ですか? 彼はチャオ・ヴォラギアットの能力に感染してしまったみたいですけど……」

 ワタヌキの言うチャオ・ヴァラギアットとはデーンシングの首領、若獅子の本名だ。


 「感染? 何やそれ。若獅子はどんな能力を持ってるん?」

 「チャオ・ヴォラギアットの持つ人外の能力は『ブレインウォッシング』。つまり洗脳というやつです。彼の血を体内に取り込んでしまった人間は心が支配されてしまい、今までの主義や思想はかき消されて彼の命令しか従わなくなるんだそうです」

 それを聞いた上条は何かを悟ったかのように「成程な」と、手を叩いた。

 「デーンシングが世界最大の犯罪組織になれたんは、そういう理由があったからか。その洗脳能力を使って世界中の悪党共を自分の配下に置いたんやろうな。恐ろしい」


 「そうです。幹部のパイソンという男が使うスネークアイの能力で相手の動きを封じ、そこをチャオ・ヴォラギアットが首元に噛みつくとこで相手を洗脳し勢力を拡大していったようです。まあ、パイソンは貞清さんが殺してしまったので、もうその手段は使えませんけど……」

 やはり貞清は最も厄介な男をとりあえず始末したようだ。


 「じゃ、やっぱり不破は若獅子の手下になってしまったんか?」

 「あの後、彼は近くの病院に運ばれたんですが、翌日には見舞いに来ていた今までの仲間の目を盗んで、姿を眩ましてしまったそうですよ」

 「そうか。厄介な奴がデーンシングの仲間になったもんやな」

 上条が組んでいた足を組み換えると、外から若い男の怒声が聞こえてきた。喧嘩が始まったようだが巡査は立ち上がりもしない。宇田川交番勤務の巡査にとって、喧嘩など日常のことなのだろう。一々首を突っ込んでいたらきりがないのかもしれない。


 「そうだ。それと不破征四郎と一緒に病院に運ばれた女の子は、依然として氷漬けの状態で生きてるかどうかも定かではないとのことです」

 ワタヌキの言うその女の子とは、竹村琴音のことだ。スクランブル交差点での騒動から丸2日経っていたが、彼女は未だ氷塊の中に閉じこもっているのだという。


 「いや、琴音ちゃんは生きとるよ。俺にはわかんねん」

 「圭介君、その病院に行ったの?」

 拓人に言われ、上条は「ああ」と頷いた。

 「琴音ちゃんの能力は『クリオキネシス』いう冷気を操る能力なんやて。今もなお氷漬けなんは、琴音ちゃんがその能力を使い続けてるからこそ解けへんねん。だから間違いなく生きとるっちゅうわけや」


 「それは冬眠状態ってことかな?」

 「まあ、そういうことやろな。わからんけど時期が来れば氷も解ける時が来るやろう」

 上条はそう言った。暴露の能力でも良くわからなかったのだ。


 開け放たれた交番の扉から、頬を押さえた若者が捨て台詞を吐き走り去って行く姿が見えた。どうやら喧嘩の決着が着いたようだ。


 「そうや、拓人。これから行くとこがあんねんけど、付き合うてくれへん?」

 「今から?」

 拓人は壁に掛けられた時計をチラリと見やる。針は6時近くを指していた。


 「お前ら、今度は何処へ行く気だ? まさか、また雫を危険な目に合わせる気じゃないだろうな」

 巡査に凄まれ、上条は慌てて弁明する。 

 「それなら大丈夫や。今日は拓人と二人で行くから」


 「ちょっと待て。俺はまだ行くとは言ってねえぞ」

 「まあええやん。大事なことがわかったんや」

 上条がそっと耳打ちすると、拓人もそれに合わせて小さな声で聞き返した。

 「何?」


 上条は不敵な笑みを浮かべこう言った。

 「人間の瞳の在り処や」

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