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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子11

 デーンシングの幹部を中心にスクランブル交差点には大人数の野次馬が広がっている。だがその野次馬達はパイソンのスネークアイの能力により皆、足が震えてしまっており若獅子の放った銃声を聞いて成す術もなくガタガタと震えていた。


 「手間を取らせやがって……」

 若獅子は琴音のこめかみに銃口を突き付けた。「まずは恐怖に怯えた面でも拝ませて貰うか」


 動くことの出来ない琴音は、悔しげに下唇を噛み若獅子を見上げた。

 「私はあなたたちには絶対に屈しない!」

 すると琴音の身体から白い気体が湧きあがった。

 「何だこれは?」


 その霧状の気体は大量に発生すると、琴音の身体が見えなくなるくらいすっぽりと覆い隠してしまった。

 「動けもしない状態で何を足掻く?」

 若獅子が手でその霧を払うと、その中から現れたのは巨大な氷塊に包みこまれてしまった琴音の姿だった。


 「何だと!? この娘、氷漬けになっちまったじゃねえか。まさか死んじまったんじゃねぇだろうな。くそっ!!」

 若獅子は氷塊に蹴りを入れたが、地面にそびえ立つその大きな氷はびくともしなかった。


 雫は身動きが取れないながらも、目の片隅に氷塊に包まれた琴音の姿を捕らえていた。

 「琴音ちゃん……」

 恐らくは防衛手段として自ら氷の中に閉じこもったのだろうが、本当にあれで無事なのだろうか。今のところ雫にはその判断がつかなかった。


 「随分きな臭い現場ですね」

 その時、交差点の外からサングラスを掛けた白髪頭の男が、顎を上げて何か臭いでも嗅ぐような仕草で歩いて来た。


 あの人物は誰だろう? 雫は目の届く範囲にいるその白髪の男を、念のためにスネークアイの能力で睨みつけた。だがどういう訳か、その男は動きを止めることなくこちらに近づいてくる。


 「まだ動ける奴がいるみてえだな……」

 若獅子はそう言った。デーンシングの人間でもないらしい。では一体……?


 若獅子が指示を出すと、パイソンは白髪の男を睨みつけた。だがやはり男の足はまるで止まらない。

 「目を瞑ってるのか? そんなことをしても無駄だ。パイソンに視線を向けられたら強制的に瞼は開いちまうんだよ」

 若獅子は言ったが、そうはならなかった。


 白髪の男はそのまま真っすぐ歩いてくる。焦ったパイソンは白髪の男の顔面を殴りつけた。男の掛けていたサングラスのフレームが歪む。だがそんな拳も物ともせず、白髪の男は触診するようにパイソンの腹にそっと掌を当てた。


 パイソンの頭に疑問符が浮かぶと同時に、その掌から閃光が放たれた。

 「バチッ!!!」大きな衝撃音が鳴るとパイソンはその瞬間、口を大きく開けてその場に倒れてしまった。


 すると同時に先程まで交差点内で身動きが取れなくなっていた人達が、一斉にそこから逃げだした。スネークアイの能力が解除されたようだ。


 白髪の男は身を屈めるとパイソンの胸に手を当てた。

 「あー、うっかり殺してしまったか。また始末書を書かなくては……」

 白髪の男は後頭部を掻くと、壊れたサングラスを外し目を見開いた。すると瞳孔のない白色の眼球が現れた。その姿は恐ろしく、見る者に違和感と恐怖心を与えた。彼もまた異形と呼ばれる人種なのかもしれない。


 「貞清さだきよ、何故この街に……?」その顔を見た物部が、青褪めた顔で言う。

 「あー、その声は物部先生ですね。何でってことはないじゃないですか。先生のところの若い衆が殺人鬼に殺されたっていうから、捜査していたんですよ」

 貞清と呼ばれた男の言う殺人鬼とは、勿論クラウディのことだ。


 若獅子が歯ぎしりを鳴らす。

 「物部ぇ、何で日本イープンの連中はどいつもこいつもパイソンの能力が通用しねえ?」

 「若、奴は目が見えねえ盲目の刑事なんです」


 それを聞き、若獅子は貞清の目を確認した。黄ばんだ白い目には確かに瞳が存在しなかった。

 「てめえ、めくらか?」

 「ええ。私が盲目なことで何か不都合でもありましたか?」

 貞清の態度は飄々としていて掴みどころがない。


 「いや。不都合はねえ」

 若獅子はベレッタ93Rの銃口を貞清に向けた。「これから死ぬ奴に文句を言っても仕方がねえからな」

 瞬間、マシンピストル、ベレッタ93Rの銃口が火を噴いた。

 自動で数発の銃弾が連射されたのだが、貞清は身を翻すとまたスッと元の体勢に戻った。盲人とは思えない動きで、全ての銃弾をかわしたようだ。

 若獅子は苦虫を噛み潰すように顔をしかめた。「てめえ本当にめくらか?」


 「殺気が丸出しですよデーンシングの親分さん。そんな銃の腕前では、避けられるのも当然。まあ、デーンシングの幹部には目が合うことで相手の動きを止める能力の持ち主がいるという話ですから、敵が動けないところを拳銃で撃ち殺すような戦術を今までしていたんでしょう。そんな戦い方なら引き金を引く時に殺気を消す必要性がないですからね」


 説教じみたことを言われ、若獅子の額に太い血管が浮かんだ。

 「奴は亜種か?」

 そう聞かれた物部は、何か言いわけでもするように大袈裟な手振りをした。

 「は、はい。貞清は『ライトニング』とかいう能力の使い手で、触れるだけで人を殺すことが出来るんです……」


 「成程、電気人間ってわけか……」

 若獅子は倒れるパイソンを見降ろした。彼はそのライトニングの能力で殺されてしまったようだ。

 「物部ぇ、ここは一旦退くぞ」

 「よ、よろしいので?」

 鬼の形相をしている若獅子が、本当に良いと思っているわけはなかった。


 「日本の警察も、クラウディも、渋谷のガキ共も全員許さねぇ。デーンシングに逆らったことを必ず後悔させてやるからな」

 それだけ言い残すと、若獅子は部下を引き連れ道玄坂の方面に消えて行った。


  ―――†chapter10に続く。

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