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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子07

 ギャングハットを被った男が「不破を連れてこい!」と何度も叫んでいる。

 だがスクランブル交差点があるここ宇田川町はB-SIDEの領域。いくら呼びかけたところで、スコーピオンの総長である不破征四郎が姿を現す確率は低かった。


 「あの帽子のおっさんはデーンシングの幹部か?」

 拓人の質問に雫は頷いた。

 「恐らくあれはデーンシング東京支部長の物部もののべ連山れんざんね。『魔躯まくろ』っていう変わった能力を持っているわ」

 「そうだ。それとその隣にいるのがデーンシングの首領チャオ・ヴォラギアット。通称『若獅子』と呼ばれている男。そしてその後ろのニシキヘビの刺青を入れているのが若獅子の右腕と言われているパイソンって男だ。奴の目は絶対に見るな」犬塚がそう付け加える。


 「彼も亜種なのね」

 「ああ、それともう一人やばい幹部を日本に連れてきてるんだが、そいつはいねえみてぇだな」

 犬塚がそう言うので雫は交差点に目を向ける。パイソンは辺りを威圧するように睨みをきかせている。


 「あの人の目を見たらどうなるの?」

 「それは……」

 犬塚がそう言いかけたところで動きがあった。若い男性が1人、デーンシングに占拠された交差点に入ってきたのだ。


 「あっ、あれは上条君……」雫は言った。

 遠くに見えるその人物は上条圭介であった。

 歩み寄るなり、上条はパイソンに殴りかかろうとした。したと言うのは、その途中で何故なのか身動きが止まってしまったからだ。

 「上条君、何をされたの?」

 「あれが奴の能力『スネークアイ』だ。至近距離であの目に睨まれるとその瞬間、恐怖で身動きが取れなくなるらしい」

 パイソンと対峙した上条は、腕を振りかぶったまま小刻みに震えている。


 「何やってんだよ圭介君っ!!」

 拓人は叫ぶと、疾風の能力と使い物凄いスピードで交差点に突っ込んで行った。

 「待ってっ!」雫も疾風の能力をコピーしてその後を追う。


 風の勢いに乗り前傾姿勢で走る拓人は、交差点に進入し地面を強く蹴るとパイソンの腹に肘打ちを喰らわせた。

 続けざまやってきた雫は拓人の背中に手をつき馬跳びのように飛び上がり、パイソンの顔面にひざ蹴りをお見舞いした。


 空中で後方に一回転し華麗に地面に着地した雫は、痛みに悶えるパイソンから捕らえられていた琴音を奪い取った。

 震えていた琴音が小さく「たすけて……」と呟く。雫は安心させるようににこやかに頷いた。


 「山田君! キャピタル電力ビルの屋上に行くよっ!!」

 「わ、わかった!」拓人は未だに身動きの取れない上条を抱きかかえると、空に向かって飛び上がった。

 拓人は風の勢いに乗り天へ昇って行ったが、高所恐怖症のため交差点全域に聞こえるほどの叫び声を上空から上げている。


 50メートル以上距離が離れると同調出来る範囲から外れてしまうため、雫も琴音を抱えると急いでその後を追い高く飛び上がった。

 このまま逃げ切れるか……?

 しかしその時だった。下から大きな銃声が鳴り響くと、それと同時に空中で赤い血が弾けた。

 左のふくらはぎに銃弾が掠めた雫は、集中力が途切れそのまま地面に落下してしまった。


 「つっ!!」

 身を捻じらせ自分が下になるように落ちたので琴音は無事だったが、雫は背中をアスファルトに強く叩きつけた。


 これはまずいと思ったが、背中を打ち付けたことで呼吸が乱れすぐに動くことは出来なかった。

 地面に倒れている雫の元に若獅子がゆっくりと歩いてくる。

 「女の亜種か、面白い」


 倒れる雫に対し若獅子は上から見下ろすと、持っていたアメリカ製のリボルバー、コルト・キングコブラをホルスターに納めた。下から雫を撃ったのはどうやら彼のようだ。

 「まさかお前が不破じゃねえよな?」

 獅子のたてがみを思わせる長い金髪を横に揺らしながら、若獅子は倒れる雫をじっと睨みつけた。


 「若、恐れながら不破征四郎は男の名前です」横にいた物部が、うやうやしく告げた。

 若獅子は、そんなことはわかっているのだとばかりに薄笑いを浮かべる。

 「女の格好をした男なんてバンコクじゃ珍しくもねえからな。こいつもわからねえだろが」

 「成程、確かに若の仰る通りで」

 物部は小さく頭を下げると、1歩後退した。


 痛みに耐えながら雫は聞いた。「……あなた、日本語がしゃべれるの?」

 そう聞かれると、若獅子はさらに顔をほころばせた。

 「そうさ。俺はこう見えて親日派なんだよ姉ちゃん。出来ることなら日本人とは仲良くしてえ。教えろ。お前と上に飛んでった2人の男、一体誰が不破なんだ?」

 勿論、3人とも不破征四郎ではない。雫は正直に答える。

 「悪いけど3人とも、不破征四郎ではないわ」

 徐々に痛みが引いてきた。もう動けそうだが、琴音を抱えているため逃げるタイミングが難しい。


 「不破じゃねえのならどうしたもんかな? 亜種は金になるから売り捌きたいところだが、俺らに喧嘩売ったとなれば話は別だ……」

 若獅子は口を不気味に開いた。吸血鬼のような八重歯から赤い体液が滴り落ちる。

 「死んで貰うか」

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