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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子04

 全員血祭りに上げる。そう宣言した雫だったが、本当の所はいち早く拓人の元に行ってやりたかった。しかしそうするには、やはり全員とまではいかなくても敵を叩きのめす必要がある。

 まずは川久保兄弟の兄、鷹志に照準を絞った。


 「お嬢、下がっていてください。鳥狩とがりの能力までコピーされるのは厄介なので」

 そう言うと、鷹志は両腕を前に構えた。ボクシングのような構えだが、それよりガードが高い。ハイキックにも備えたキックボクシングの構えだ。


 雫は構わず攻撃を仕掛けた。どんな格闘技をかじっていようが関係はない。雫の戦法はただ相手より先を取ることだけだ。

 勢いよく振り抜かれた特殊警棒ががら空きの腹部に襲いかかるが、鷹志は左膝を高く上げそれをカットした。そしてその足でそのまま前蹴りを放つ。

 雫は半身になり蹴りをかわそうとしたが、避けきれず踵が腰にぶつかった。体勢を崩し次の攻撃が一瞬遅れると、鷹志の更なる追撃が待っていた。


 「シュッ!」

 蹴り出した左足が地面に着くと同時に、すぐ繰り出した左のアッパーが雫の右脇腹に刺さった。

 雫の膝が崩れる。殴られたその場所は肝臓のある人体の急所だ。並の人間なら身動きもとれなくなる。


 鷹志は右手を腰の後ろに大きく振った。回し蹴りの体勢だ。左の軸足に力が入る。左踵、腰の順に回転すると、鷹志の右足が雫の頭部目掛けて飛んできた。

 これも避けられないか……。そう悟った雫は、カウンター狙いで持っていた特殊警棒を上に振り上げた。


 「でっ!!」

 ハイキックが雫のこめかみに命中したが、それと同じタイミングで雫の特殊警棒が鷹志の股間を打ち付けた。目には目を。急所には急所をということだ。


 「て、てめぇ……」前屈みになった鷹志がゆっくりと後ずさる。

 雫は蹴られた側頭部を押さえ立ち上がった。視線を横にやると犬塚と川久保兄弟の弟、隼斗が睨み合っている。

 「おい、黒髪! とりあえずこの双子ちゃんをぶちのめすぞ。決着はその後付けてやる!」犬塚が言った。

 

 勿論それに従う義理はないが、その方が雫にとっても都合が良いことに違いはなかった。

 「お好きにどうぞ」

 雫は鷹志を睨みつける。目の前で小さくジャンプする鷹志は、痛みを落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。

 「悪魔みたいな女だな」


 雫の持つ特殊警棒が炎を纏う。「天使になろうとは思ってないわ」

 左に身を捻り、居合抜きのように特殊警棒を跳ね上げた。しかし後ろにステップした鷹志にその攻撃は届かない。空中に火の粉が舞った。


 「好機!」

 隙が出来た雫に対し、今度は鷹志が突っ込んだ。ハイキックを出そうとするが、先程カウンターで喰らった痛みが脳裏に蘇りミドルキックを放つ。

 雫は慌ててそれを防ぐも、次々コンビネーションが強襲する。

 「シュッ! シュッ! シュッ!」

 鋭いキックやパンチを必死でガードする雫は、反撃の糸口も見つからないまま後方へと足を運んだ。


 何か良い方法はないだろうか? ふと横に目をやると隼斗が火ダルマになり倒れているのが見え、雫はあることを思い出した。そうだアレをやってみよう。

 雫はバックステップを踏みながら左の掌に炎を発生させると、前に向かって思い切り息を吹きかけた。


 「あっ!!」

 前進する鷹志が炎に包まれた。それは先程犬塚に喰らわされた炎のカウンターだ。

 着ていたスウェットに火が燃え移ると、鷹氏は咄嗟に地面に転がった。僅かに服を焦がしただけですぐに火は消し止めたが、その後の雫の攻撃は防ぎきれなかった。


 雫は地面に転がる鷹志の向こうずねを特殊警棒で叩きつけた。

 「……っ!!」鷹志は言葉にならない叫び声を上げる。

 いよいよ止めだ。高く飛び上がった雫は、両足で鷹志の腹部を踏みつけた。


 鼻の奥から空気が漏れるような音を立てると、鷹志はそのまま気を失った。


 「倒したようだな」

 横からそう言われ振り向くと、座っている犬塚がこちらを向いてほくそ笑んでいた。そして彼の尻の下には、白目をむいて倒れている隼斗の姿があった。こちらの決着が着くのを待っていたようだ。存外律儀な男らしい。


 「こっからが本番だぁ、黒髪……」

 「相手になるわ」

 二人の視線が激しくぶつかる。が、それと同時に甲高い声が辺りに響いた。


 「ふざけんじゃないわよっ!!」

 雫と犬塚がその方向に振り向く、その声の主は西野だった。

 「西野さんまだいたの? もうあなたの出る幕じゃないのよ」


 そう言われた西野は不気味に笑ってみせる。「それはどうかしら?」

 気付くと辺りは異様な雰囲気に包まれていた。何、この違和感……? 上空がざわざわと騒がしい。

 「上を御覧なさい!」


 西野に言われ、雫と犬塚は目線を上げた。

 黒い。電線や街路樹、建物の縁に至るまで辺り一面に200から300羽の鴉が留まっている。いつの間にか渋谷中の鴉がここに集められていたようだ。

 「いくらなんでも、こりゃあ追い払いきれねぇだろ……」

 犬塚がうんざりした様子で呟くと、雫のその意見に賛同した。

 「そうね」

 拓人のことを心配している場合ではないようだ。まずはこの状況から抜け出さなくては。雫は特殊警棒に火を灯す。

 

 「私を怒らせたことを後悔しなさいっ!」

 西野が叫ぶと、高い位置に留まっていた鴉達が次々に降下しだした。

 雫と犬塚の二人は空に向かって炎を巻き上げた。だが集団になり凶暴化した鴉はそれにも怯まずに突っ込んでくる。


 だが自体は一転する。突然どこからか大きな炸裂音が鳴り響くと、それに驚き鴉達が一斉にバタバタと空に舞い戻って行った。


 「な、何? 何が起きたの!?」

 うろたえる西野を尻目に、鴉達は散り散りになり飛んで行ってしまった。


 窮地から逃れられた雫だったが嫌な予感はなくならない。

 今の音……、山田君に何かあったのかも……。


 唖然としている犬塚と西野をよそに、雫は渋谷駅の中に向かって駆けだした。

 「あっ! 待ちなさいっ!!」

 西野は声を荒げたが、雫がそれに従うはずもなかった。

 「逃げるんじゃねぇ! まだ俺との勝負が着いてねぇだろうがっ!!」


 犬塚と西野の二人は走り去る雫の後を追い、渋谷駅宮益坂口の中に消えて行った。

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