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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter9 泰国の若獅子
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†chapter9 泰国の若獅子03

 「ス、スターダストですって……」西野の表情が引きつる。

 「そう。私もチームに入ることにしたの」一方雫は淡々と話す。


 すると横から、品のない笑い声が聞こえてきた。

 「これで俺が黒髪と戦うことに何も文句はないわけだな」


 「そうね」

 雫がそう言うと、二人は再び炎を上げて戦いだした。


 取り残された西野は、一人奥歯を噛みしめた。

 「何なのよ、どいつもこいつも馬鹿にして……」


 犬塚が勢いよく中段回し蹴りを放つと、雫はそれを左腕で受け止める。犬塚の右足は炎で包まれているため雫はそれをすぐさま外に弾き返し、今度は特殊警棒を使い攻撃に転じた。

 雫は特殊警棒に炎を纏わせる。その一撃の強さを身をもって感じ始めている犬塚は素早く後ろに飛び、雫の攻撃を避けた。


 「へへっ、男も顔負けの攻撃力だな」

 犬塚は飛び退きながらも、焦りを見透かされないよう薄笑いを浮かべる。しかし当の雫は、相手の感情を鑑みて行動するタイプではないため、淡々と特殊警棒を振り回し犬塚を追いかけた。


 後方に道路が近づきこのままでは逃げ場を失ってしまう犬塚は、左の掌を広げるとその上に大きな炎を発生させた。

 「火遊びはガキのすることじゃねぇだろ?」

 そう言うと犬塚は後ろに飛び退きながら、作りだした炎に向かって思い切り息を吹いた。


 「キャッ!!」

 前へ前へと攻撃を仕掛けた雫に、犬塚は炎のカウンターを喰らわせたのだ。

 驚いた雫はその場に倒れた。一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに状況を理解した。目の前がチカチカして少々焦げくさいが身体に火は燃え移っていないようだ。


 「中々楽しいだろ? ファイヤーデスマッチ」

 目の前にいる犬塚にそう言われると、雫はゆっくり立ち上がりスカートについた砂を払った。

 「そうね。勉強になるわ」


 丁度その時、渋谷駅宮益口からピアスを付けた二人の男が姿を見せた。

 「お嬢、これはどういう状況で?」

 それは西野かれんの取り巻きで双子の武闘派、川久保兄弟の二人だった。


 「鷹志たかし隼斗はやと、遅いわよ、全く!」

 右耳にピアスを付けた川久保兄弟の兄、鷹志が西野に頭を下げた。

 「すみません。小僧の相手をしていたら時間を取りました」

 彼の言う小僧とは、先程ハチ公口改札内で雫と一緒にいた山田拓人のことだ。

 「そう」西野は不機嫌そうに後ろ髪をとかす。「勿論、叩きのめしたんでしょうね」


 その質問には左耳にピアスを付けた川久保兄弟の弟、隼斗が答えた。

 「恐らくまだ改札の中で伸びてますよ」


 それを聞こえた雫は、すぐに顔を川久保兄弟の方に向けた。

 「あなたたち、山田君に何をしたの?」

 怒るという感情を持たない雫だったが、この時ばかりはそれに似たもやもやとした感情が胸の中で燻っていた。


 「残念だったわね。あんたみたいな野蛮な女と付き合ったばっかりに、あの子は痛い目にあったのよ」

 先程まで苛立った態度をとっていた西野だが、今は高笑いを上げている。


 雫の目が光を放つ。まるで彼女の中にある感情を現すように、右手に持つ特殊警棒が炎に包まれた。

 「何だあれは?」それを見た川久保兄弟の二人は、本能的に身をすくめた。

 雫は西野に視線を合わせると、一気に駆けだし特殊警棒を横に振り抜いた。


 「お嬢、危ないっ!!」

 赤い炎が直線を描き西野を襲うが、横にいた鷹志が身をていしてそれを防いだ。

 背中を打たれた鷹志は一瞬顔を歪めたが、すぐに身を翻し左手で裏拳を放った。しかし雫の身のこなしは実に巧妙だ。素早く半歩下がると、鷹志の長い腕は虚しく空を掠めた。

 

 鷹志は姿勢を正すと、着ていたサイズの大きいスウェットに火が移っていることに気付いた。冷静にそれを手で叩き火消しした鷹志は、気だるそうに首の関節をバキバキと鳴らした。

 「そんな技まで習得したとは……、風使いの小僧よりは楽しめそうだな」


 実に武闘派らしい言葉だが、それに反応したのは雫ではなく犬塚の方だった。

 「……お前らが風使いを倒しただと?」


 「あ? 誰よお前。スターダストのメンバーか?」近くにいた隼斗が問いかける。

 「そんな三下チームと一緒にすんじゃねぇ!」

 炎を纏った犬塚の拳が、隼斗の鼻先を擦る。


 「熱っ!」

 きな臭い黒煙が僅かに上がる。肝を冷やした隼斗だったが、雫が使用している発火能力のからくりがそれだとわかると口元に笑みが浮かんだ。

 「黒髪がコピーしてるのはその能力のようだな。パイロキネシスの使い手、そうかお前は確かスコーピオンの犬塚とかいう奴だな?」


 犬塚は重たい前髪をかきわけた。焼けただれた額を露出させ、見る者の恐怖心を煽る。

 「そうだ。悪いがB-SIDEには引き取って貰う。黒髪は俺の獲物だ。引かねぇのなら全員丸焼きにしてやるよ」

 笑っていた川久保兄弟の二人だったが、その言葉で表情を無くした。


 「お嬢、どうします?」

 鷹志に言われ、西野は即答した。

 「もう、スコーピオンとの休戦協定なんてどうでもいいわ。尻拭いは私がするから、あんたたちは存分に暴れなさい!」

 「了解」川久保兄弟の二人は、雫と犬塚をそれぞれ睨む。


 「わかったわ。それなら全員、血祭りに上げるよ」

 無感情な顔で恐ろしいことを言い放つ雫を見て、西野は思わず武者震いがした。

 「何よ、彼氏がやられて怒ってるの?」


 「別に……。けど仲間の仇はしっかり取らせて貰うから」

 雫は無慈悲な眼差しで全員を睨みつけた。

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