†chapter21 12月のホーリーウォー24
道路に散乱するゴミの中に、1枚の真新しいチラシが落ちている。
近くを歩く拓人は、それを拾い上げちらりと目を通した。冒頭には、渋谷のストリートギャングたちに告ぐと書かれている。
「また、例のチラシ?」
みくるにそう聞かれると、拓人は「ああ」と短く答え、そのチラシを手から放した。白いA4サイズの紙が空気の抵抗を受け、ひらひらとと落ちていく。
内容については、すでに知っていた。スターダストのメンバー4人でカフェバー『スモーキー』からここまで歩いてきたのだが、それまでに何枚も同じチラシが落ちているのを目にしていたからだ。
渋谷のストリートギャングたちに告ぐ
この街は行政に見捨てられた。このまま戦争を続ければ街は更に衰退し、誰にとっても魅力のない街に成り下がってしまうだろう。
街に活気があればこそ、ストリートギャングもそこに集まってくる。火の消えた街には、人が集まる意味も価値もありはしない。このままくだらない小競り合いを続けるよりも、各チームの代表同士で勝負して、渋谷のてっぺんが誰なのか決めようじゃないか。
12月22日午後7時 渋谷駅西口バスターミナルにてお前らを待つ。渋谷西口連合會VOLT會長 八神透
チラシにはこのようなことが書かれていた。
「今日は単純にうちとVOLTの喧嘩だと思ってたけど、随分大事にしてきたもんだな。しかしこれに乗っかってくるチームなんて俺ら以外にいるのかな?」
拓人が聞くと、上条は手にしている六尺棒で己の肩をとんとんと叩いた。
「どうやろな? 渋谷の帝王を有するB-SIDEにしたら、こんな王者気どりの八神のことは面白くないやろし、わざわざこの提案には乗っかってくる義理もないんやないか」
「所属人数の多いB-SIDEが、このルールでやりあうメリットがないもの」
黒い特殊警棒を持つ雫は、真っすぐに歩きながらそう言う。
「確かにそうかもしれないだけど、人数が多いのはVOLTも同じことでしょ? 何か裏があるんじゃないの?」
みくるは眉をひそめ、上条の顔を覗きこんだ。
「いや。所詮VOLTは寄せ集めのチームやから、連帯感ってもんがないねん。NO.2の氏家も拓人が倒してもうたし、向こうとしても苦肉の策なんやないかな」
多分、上条の言う通りなのだろう。まあ、代表同士で決着を着けるというこの話は、メンバーの少ない我々にとっても有利なことなので特に異論はない。
「けど、うちは誰が代表になるの?」
雫にそう言われ、拓人は上条に目を向けた。やはり代表というなら上条が出るべきだろう。武器もしっかり装備して、やる気もかなり窺える。
「そこは当然、拓人が代表やろな」
「何で俺なんだよ! 圭介くんがリーダーだろ」上条につっこむ拓人。
「やりたないんか、拓人? 確かに八神は相当強いっちゅう話やからな。なあ、みくるちゃん」
そう言うと上条は、みくるに話を振った。
「あたしも琉王から聞いた話しか知らないけど、八神の強さは規格外だって言ってたわ。まともにやりあったら、とても勝てないって」
「拓人がやらんのなら、俺がやるしかないかぁ。あんまりやりたないけど……」
「山田くんも上条さんもやりたくないなら、私が出る!」急に立候補してくる雫。
「やめろよ、その流れっ!」
何やら古典的なのりで無理やり代表にさせられそうな気がしたので、強引にその流れを遮った。とはいうものの、何だかんだで、結局俺が戦わされることになる気がする。
どこか諦める気持ちで前を見据えると、道の先に多くの人だかりが見えた。そこはもう西口バスロータリー前。集まっている人間は喧嘩をしにきた奴らか、それともただの野次馬なのか?
「結構、集まっとるな。VOLTの連中がほとんどやけど、他のチームも幾らかいるみたいや」
「それって、どこのチーム?」
「何やいっぱいやからようわからんけど、とりあえずそっちに居るんは『フラッグス』の連中やな」
上条はそう言って、衆人の右奥を差した。そこにはチェックの大旗を掲げている一団がいる。あいつらがフラッグスか。成程、わかりやすい。
「B-SIDEは居ないのかな?」
「そうやな。偵察する奴くらいはどっかに居るんかもしれんけど、幹部クラスは来てへんみたいや」
100人くらいの人間が集まっているようだが、ここから見る限りブルーのカラーバンドを着けた奴は1人もいない。やはりB-SIDEは乗ってこなかったようだ。
「しかしまあ、この荒廃した渋谷に、まだこんだけの人間が居るっていうんだから驚きだよ」
B-SIDEを抜いても、これだけの人数が集まる渋谷のチンピラの多さに辟易する拓人。この人ごみの中を通っていくのも正直一苦労だなと思っていたら、そこから突然、VOLTの親衛隊長、水樹尚之が姿を現した。
「お待ちしておりました、スターダストの皆さん。それではご案内致しましょう」




