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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter21 12月のホーリーウォー
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†chapter21 12月のホーリーウォー19

 丈のあるランチコートを脱ぐと、氏家の体から淡い湯気が仄かに立ち昇る。


 「ああ、熱くなってきたぜ」

 氏家は指の関節をバキバキ鳴らすと、黒光りする剛腕を左右に振るった。

 その激しい攻撃を、拓人は素早い動作で華麗にかわしてみせたが、残念ながら反撃するまでには至らない。


 「くそっ! 速いパンチだな」

 「当然だ。『鬼人』の能力は単純な戦闘力強化。俺の戦闘に妙な小細工は必要ねぇ!」


 斧でも振ったかのような大振りのパンチが、目の前に迫りくる。避けるのは難しいと判断した拓人は、左腕を構え何とかそれをガードした。痛みと共に痺れが走る二の腕の筋肉。


 恐るべき氏家のパワー。やはり力では勝てそうにもないが、速度ではまだこちらに分があるはずだ。

 拓人は自分の周りに巨大な旋風を巻き起こすと、それに沿って旋回するように駆けだした。高速の周回で残像が現れ、相手の目を惑わせる。


 暫しの間、目を光らせている氏家。だが痺れを切らしたように、その残像目掛けてストレートパンチを放ってきた。しかし黒い拳はただ虚しく空を切る。


 焦りやがったな。

 そこから背後に回り込もうと、更に加速を強める。

 しかし氏家は腕を突き出したまま、風に逆らうように走り出した。円を描きながらの、ランニング式のラリアット。


 旋回する風に沿って走る拓人の目の前に、黒く太い氏家の腕が出現する。

 咄嗟に避けようと体を反らしたが、そのまま足を滑らせ見事にアスファルトに背中を強打してしまった。


 頭がくらくらするが、追撃を警戒し素早く立ち上がる。

 旋回する風はすでに治まり、腕を伸ばし立ち尽くしている氏家の姿が視界の先にあった。

 「お前らはうちの會長かいちょうの恐ろしさを知らない」


 「どういうことだよ? お前に勝てない限りは、その上にいる八神には一生勝てないって言いたいのか?」

 拓人が聞くと、氏家はいきなり強烈な左フックを振り抜いた。正面で受け止めるも、その拳の重さで大きく一歩分後退させられる。


 「八神を倒すのはお前じゃねぇ、この俺様ってことだっ!!」

 そして口にする謎の宣言。こいつは一体何を言っているんだ?


 「何だよ! 結局お前も裏切るつもりなんじゃねぇかっ!」

 受けとめた氏家の拳を弾き、バック転をしつつ右の足を高く蹴り上げる。つま先から放たれる拓人の『鎌鼬かまいたち』が氏家の胸元に命中した。黒い肌の上に着た白いTシャツがじんわりと赤く染まっていく。しっかりと命中したようだが、氏家は表情をあまり変化させない。


 「俺はここ数年、渋谷駅西口の覇権を取るために尽力してきた。それこそボーテックスやTrueトゥルーなんかとは、ヘドが出るほどやりあってきたんだ」

 何を思ったのか、氏家は突如として語り始める。血の気の多い奴かと思っていたのだが、殊の外お喋りな男なのかもしれない。


 「……何の話だよ?」

 「つまらない昔話だ。俺らには一筋縄ではいかなかったことを、あの男はあっさりとやってのけた。渋谷駅西口にある3つのチームは、八神透ただ1人に手中に落ちたんだよ!」

 その言葉を皮切りに、再び氏家が攻撃を開始する。拓人は体の周りに旋風を巻き起こし、全力でそれに応戦した。


 「無理やり合併されたチームだから、その全員が反乱を企ててるってことか」

 拓人は背後から風を吹かせ、優位な位置から攻撃を仕掛ける。


 「俺はVOLTボルトに対して反乱を起こすつもりはない。八神を倒すと言っているだけだ」

 風下の氏家も、向かい風という悪条件を感じさせない動きで拳を交えていた。


 「……それは反乱することと何が違うんだ?」

 「チーム内での権力を掌握しようってだけだ。おかしな話ではない」

 「成程な。瑠撞腑唖々ルシュファーとしてではなく、あくまで今のチームとして八神を倒し、VOLTボルトを乗っ取ろうってわけか。食えない男だな!」


 拓人は風を使って斬撃を飛ばす技、『鎌鼬かまいたち』を放つ。

 しかし氏家は体を反らせてそれを避けつつ、小さく言葉を発した。

 「……『因果の一閃いっせん』!」


 その瞬間、拓人の視界が白一色に染まった。氏家のカウンターパンチが左の脇腹に突き刺さったのだ。

 堪らず膝を崩す拓人を、背の高い氏家は真上から見下ろした。


 「乗っ取るってのは人聞きが悪い。飽くまで世代交代だ。初代八神透には退いて貰い、そこからは俺がVOLTボルトを引っ張っていく。このチームならB-SIDEビーサイドにも、スコーピオンにも負けねぇ! これからは俺らが渋谷の頂点になるんだよっ!!」


 その巨躯を震わせ、多くの聴衆にでも聞かせるかのように声を荒げる氏家。彼の背中からは、オーラのように漂う湯気がもうもうと上がっていた。

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