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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter6 人間の瞳
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†chapter6 人間の瞳09

 「そうだ、お前らわたぬーの名刺はおもしれえから貰ったほうがいいぞ」

 鳴瀬がそう言うと、横にいたわたぬーと呼ばれる小男の刑事はぶんぶんと首を振った。


 「僕の名刺は君達みたいなのに渡すために作って貰ってるんじゃない!」

 「何だよ、勿体ぶんなよ。わたぬー」拓人がそう野次った。

 「わたぬーって言う奴には、ぜぇったいあげない!」

 小男は懐に名刺が入っているのか、それを取られないように膝を抱え込むと体育座りの体勢で身を守った。

 「じゃ、しょうがねぇ。前に俺が貰ったやつを見せてやるよ」

 鳴瀬はズボンの後ろのポケットから財布を取りだした。

 「ずるいぞそれっ!!」体育座りのまま、小男の叫びが虚しく響いた。


 拓人と上条は鳴瀬の持つ名刺に目を落とした。小さな白い紙には『警視庁捜査一課、四月一日肇』と書かれていた。

 「四月一日? 名刺の真ん中に誕生日載せるってどういう神経してんねん。言うとくけど、キャバ嬢でもそんな露骨な誕生日アピールせえへんで」

 小男は立ち上がりその名刺を奪うと、それを自分のポケットの中に仕舞いこんでしまった。

 「誕生日じゃない、名字だっ! 四月一日と書いてワタヌキって読むんだよ!」

 「はぁ?」拓人と上条が同時に声を上げた。

 「な、おもしれえだろ? それで四月一日わたぬきはじめって読むんだぜ」

 「何だそのキラキラネーム!? そんなふざけた名前でよく刑事になれたな」

 「キラキラ言うな! 名字なんだからしょうがないだろ!」

 ワタヌキは下から拓人を睨んだ。敵意を抱く相手を拓人に絞ったようだ。


 そこで鳴瀬が何か思い出すように、ワタヌキに話しかけた。

 「そういえばわたぬーは、ミミックのこと知ってるか?」

 歯ぎしりをしていたワタヌキだったが、そう言われ少し思案した。

 「ミミック? 渋谷で暗躍している裏ブローカー、らいのことですか?」

 「おお、名前までわかってるんか。けど中国人?」上条はそう思うと同時に、もう一つ思うことがあった。「もしかしてミミックって『魔窟大楼まくつだいろう』の住人か?」


 ワタヌキは静かに頷いた。

 「そう。彼は法律が通用しない魔窟大楼の、更にその住人でも寄り着かないと言われる20階より上の階に住んでいるらしいです。僕らもらいを追っているのですが、彼は更に厄介なことに『擬態ぎたい』と言われるカモフラージュ能力を持っているので、並みの人間では彼の姿を拝むことすら出来ないのですねぇ」

 「ふーん、魔窟大楼に擬態か……、それは困ったなぁ」

 上条が眉間に皺を寄せると、横にいた拓人が疑問を投げかけた。


 「その魔窟なんちゃらってのは一体何なんだ?」

 「魔窟大楼は渋谷駅の近くにある中国人居住区のことだ」鳴瀬はそう言って魔窟大楼があると思われる駅の方向に目を向けた。

 「中国人居住区? 横浜の中華街みたいなもんか?」

 「いや、そんな生易しいもんじゃねぇ。廃業した複合施設のビルを中国人が丸ごと不法占拠してスラム化した、渋谷で最も危険とされる場所だ。今やあそこで何が起きようと警察も行政も動かねえから、一度入ったら命の保証はできない」


 拓人はゴクリと唾を呑みこんだ。

 「それじゃ、ミミックの手に渡る前に、早いとこ不破を追いかけよう」

 「せやな。けど不破の強さも本物や。なるべく戦闘は避けて物だけ奪還するで」

 そう言って二人が渋谷駅の方に向かおうとすると、ワタヌキが「ちょっと待ちたまえっ!」と引きとめた。


 「おいわっぱ、この男を暴行したのはお前だろ!」

 ワタヌキは倒れている犬塚を指差している。

 事実そうだったゆえ拓人は何も言えずに黙っていると、更にワタヌキは周りに倒れている最初に倒したスコーピオンメンバを次々と指差した。 

 「それとこいつと、こいつと、こいつは関西弁の坊主頭の仕業だな」


 「……実際に見たかのようにわかるんやな。人外の能力か?」

 上条に言われ、ワタヌキは誇らしげに顎を上げた。

 「僕はクラウディ事件で忙しいから本来ならこんなチンピラの喧嘩など無視していくところなのだが、君たちは何か怪しい臭いがするから少し話を聞かせて貰おう……」そこまで言って、ワタヌキはワッと声を上げた。見ると鳴瀬がワタヌキの首根っこを掴んで宙に持ちあげていた。


 「おい、放せ! 公務執行妨害罪だぞっ!」ワタヌキは足を宙にばたつかせた。

 「お前ら行っていいぞ」

 上条と拓人は一瞬、顔を見合わせた。

 「別に感謝はせえへんで」

 「いらねえよ。とっとと不破を倒してこい」


 上条は苦笑いを浮かべた。

 「ほんまに戦争になっても知らんで。そん時は三大勢力も崩壊や。これからはスターダスト一強の時代が来るでっ!」

 薄く笑みを湛えていた鳴瀬だったが、堪え切れずにとうとう吹きだした。

 「ハハハハハハハッ!! ホントにおもしれぇ奴らだな」鳴瀬は口の下の髭を丁寧に撫でつけた。「お前名前は何つうんだ?」

 「上条圭介や! 良く覚えとけ!」

 鳴瀬はすぐに首を横に向けた。「疾風使い。お前は?」

 「山田拓人……」


 「上条と山田だな。覚えといてやる。そして次に会った時は全力で叩きのめす」

 鳴瀬は掴んでいる首根っこから手を放した。地面に落とされたワタヌキは「イッ!!」と叫ぶと、尻を押さえながら立ち上がった。

 「コラッ! 待て、わっぱ共!」

 ワタヌキに上着の裾を掴まれたが、上条はそれを軽く手で払いのけた。

 「行くで、渋谷駅や!」上条は拓人の手を掴んだ。

 「ああ、最速で行くからしっかり捕まっとけよ」


 二人の足が風に乗った。

 一つ地面を蹴ると、拓人と上条は信じられない速度で走り出し、そのまま渋谷駅の方向に消え去った。

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