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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter21 12月のホーリーウォー
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†chapter21 12月のホーリーウォー01

 冷たく張り詰めた風が、人気ひとけの無い大通りを空しく駆け抜けていく。

 ほんの数ヶ月前までは人でごった返していた渋谷の街が、今ではすっかり寂れた観光地のように静まり返っている。多くの店舗はシャッターが閉められ、車の通らない道路は砂と枯れ葉があちこちに散らばっていた。


 「血痕があるよ」

 公園通りにある休業中のシティホテルの前で腰を屈めた山田拓人は、タイル張りの地面を眺め痛々しく目を細めた。


 「昨日の夜、八神の奴が暴れてたみたいやからな」

 後ろに立つ上条圭介は、辺りを警戒しながらそう答える。


 八神というのは渋谷西口連合會れんごうかいVOLTボルト』の會長かいちょう、八神透のことである。ファン英哲ヨンチョル率いる『ファンタジスタ』に代わり、『B-SIDEビーサイド』、『スコーピオン』と並ぶ新三大勢力の一角を担うようになった、今最も勢いのあるグループだ。


 立ち上がった拓人は、深く溜息をついた。白い息が顔の前にゆらりと漂う。今日は幾分気温が低いようだ。

 「ここのところ、毎晩何かがあるな」


 「せやな。そろそろ決戦の時が近いのかもしれん」

 上条はそう言うと、隣の建物に視線を動かした。営業はしていないが、そこのビルの1階は飲食店になっている。以前、皆で集まる時によく利用していたドーナッツショップだ。閉められたシャッターには、サソリと思われるグラフィティーアートが描かれていた。こんな状況なので描かれることは想定内だろうが、描き方が乱雑なのはあまり感心できない。


 「八神にやられたのって、スコーピオンの連中?」

 「多分そうやろな。VOLTボルトはとりあえずスコーピオンから潰そうとしとるみたいやし。まあ、友達がおるから心配なんはわかるけど、程々にしいや」

 「まだそれ言ってくんのかよ。心配してねえっつうの!」


 スコーピオンの犬塚と蛭川ひるかわとは1度だけ行動を共にしたことがあったのだが、上条はそのことを今になっても蒸し返してくる。何か月前の話だよ。


 「まあ、スコーピオンの新総長、梶ヶ谷かじがやもこのまま黙ってはおらんやろうし、しばらくは高みの見物と洒落込もうや」

 「そうだな」

 2人が公園通りの坂を渋谷駅に向かって下りていくと、不意に横の細道からバンダナの上にキャップを被った男と、黒いタオルを巻いた男がぬらりと姿を現した。


 「あーっ! 兄貴たち、久しぶりですねぇ!」

 一瞬身構えてしまったが、その2人は良く知っている『マッドクルー』のメンバーだった。彼らは絶対に年上だと思うのだが、以前あったトラブル以来、何故か我々のことを兄貴と呼び慕ってくるようになったのだ。正直、うっとおしい。


 「お前ら大丈夫かよ? こんなとこうろうろしてると、B-SIDEビーサイドかスコーピオンに狩られるぞ」

 拓人は忠告する。この辺りは丁度前述の2つのチームの縄張りの境界線。つまり渋谷の中でも、特に危険な地域だと言える。


 「あー、酷いなぁ。俺らこう見えて結構強いから心配ないっす。それより兄貴たち、『魔術師』のこと知らないっすか?」

 「魔術師?」

 上条と顔を見合わせる拓人。それはくすのき裕太の通り名であった。裕太や藤崎梨々香が暮らしている児童養護施設かすみ園はこの戦争のため、一時的に区外に移転しているのだと、以前上条から聞いた気がする。


 「俺ら魔術師のガキにやられっぱなしじゃないですか? この戦争を機にそろそろ借りを返してやろう思ってるんすよねぇ」

 キャップの男はガムをクチャクチャ噛みながら、そう言い放った。隣のタオル巻き男は終始ドヤ顔で頷いている。


 「ああ、そうか……」

 言葉を濁す拓人。マッドクルーの連中は、裕太が『スターダスト』の準メンバーになったことを知らないみたいだ。


 「けど魔術師は、渋谷からいなくなったみたいやで」

 拓人に代わり、気を利かせた上条がそう言ってくる。今はそう言っておくのが正解かもしれない。


 「いなくなった? マジっすか?」

 キャップの男は顔を大袈裟にしかめるが、隣のタオル巻き男は変わらずドヤ顔だ。


 「まあ、相手は子供や。あん時は俺も説教してやったし、もう勘弁したったれや」

 上条はそう諭したのだが、キャップ男の顔は苦り切ったままだ。

 「いやあ、兄貴の言うことは最もなんすけど、実はBOOブーさんが魔術師のこと未だに根に持ってるんすよねぇ」


 キャップ男の言葉を聞き、拓人は眉をひそめる。ブーって誰だ?


 「ああ、MC.BOOエムシーブーか。あいつも、魔術師の被害者だったんかぁ」

 上条はそう言うと、キャップ男、拓人と同じように渋面を作った。タオル巻き男だけは何故か終始ドヤ顔を崩さなかった。彼が何に対してそんなに自信満々なのかは、あまりよくわからない。

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