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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷24

 千尋さんが怒っている。本日12時に、タワーシティ乃木坂の26階にある夢魔サッキュバスのオフィスに行ってくれ。

 それが溝畑からきたメッセージだった。


 小学校校庭での乱闘事件によって、Clubクラブ Sanctuaryサンクチュアリの出来事をすっかり忘れてしまっていた上条。あの後、溝畑たちと夢魔サッキュバスの幹部2人の対決はどうなったのだろうか? こんなメッセージを送ってきたので一瞬嫌な予感が脳裏を過ぎったが、すぐに、死んだ蛙のような格好で床に仰向けになっている須賀と間々田の写真が送られてきた。溝畑たちが勝利した? ということでいいのだろう。


 「松岡からの呼び出しや。タワーシティ乃木坂に来い言うとる。どこやねん、それ?」

 「タワーシティなら、このビルの隣だぞ」

 南側の窓を指差し、あっさりと言ってくる朝比奈。


 「ほう、隣か。探す手間が省けてラッキーやなって、隣? となりっ!?」

 頭の中でとなりという文字がゲシュタルト崩壊する上条。となり【隣】並びに接している場所。つまり横の建物だ。


 「敵はこんな近くにおったんか? びっくりやな」

 軽くうろたえる上条。そういえば、昔の映画で「友は近くに置け。敵はもっと近くに置け」という言葉があったの思い出したが、今は凄くどうでもいい。


 とりあえずみくるの手を煩わせる必要はなくなったので、その連絡を入れ時間を確認する。現在の時刻、10時30分。

 「まあ、招待されたんやったら、少し早いけど行ったろうやないか」

 上条が席を立つと、雫、西蓮寺さいれんじ、エリック、朝比奈4人も順に立ち上がった。夢魔サッキュバス相手にこの人数では少々心許こころもとない気もするが、向こうの幹部も残り少ないはず。財前ヒカリ子の『刹那』の能力さえ攻略すれば、何とかなるであろう。


 そして、朝比奈雄二郎の音楽事務所が入ったビルを出る一行。すぐ右隣りにくだんのビルがあるのだが、その手前に豹柄のストールを首に巻いた2人組の女が立っているのを確認した。それは『ALICEアリス』の瀬戸口倫子と逆月さかつきツカサだ。


 「あ、あんたら……」

 西蓮寺が言い淀む。流れる気まずい空気。瀬戸口は西蓮寺が過去、殺し屋だったことを知りa la modeアラモードを出ていった後、全く連絡をとっていなかったようだ。


 「夢魔サッキュバスの事務所に殴り込みに行くの?」

 「人聞きの悪いこと言うなや。奪われた仲間取り返しに行くだけや」

 瀬戸口の言葉に反論する上条。


 「奪われた仲間って、仲間奪われたのはウチらだし!」

 「ちゃうねん。その後、うちの拓人があいつらに攫われてもうたんや」


 「ははは、そういうこと? けどそれなら話が早いわ。その殴り込み、ウチらも参加するからね!」

 歩道の真ん中で高らかに宣言する瀬戸口。何度も言うようだが殴り込みではない。一応。


 「まあ、お前らもF.C奪われとるから辛いんやろうけど、相手の1人は殺し屋や。ここは俺らに任せてくれへんか?」

 瀬戸口たちの気持ちを汲みつつ、配慮を怠らない上条。しかし殺し屋という言葉を発した瞬間、西蓮寺の表情が少しだけ曇った。これは完全に言葉のチョイスミス。


 「はぁ、バッカじゃないの!? 相手が殺し屋だから助けるんでしょ! F.Cもミーナさんも、ウチらの大事な仲間なんだからねっ!」

 上条の失言から何も学ばない瀬戸口の熱いお言葉。だが暗かった西蓮寺表情が、その言葉を聞くと少しだけ明るくなった。

 「グッチのお節介も中々のもんや。なんやかんや、東京人の人情も捨てたもんやないってこと?」


 「当たり前でしょ! その代わり、ウチらの間で隠しごとはNGだからね。ALICEアリスの掟、第1条、誰かの悩みは皆で解決することっ!」

 瀬戸口の言葉を聞いて、西蓮寺は細い目を大きくした。


 「何やそれ? 初めて聞いたで」

 「たった今できた、新しい規則。これは絶対に絶対だから!」

 腕を組み、空威張りする瀬戸口。

 「あたしはALICEアリスのメンバーやないのに強引やなぁ。まあ、そこがグッチのええとこなのかもしれんなぁ」

 頬を緩ませると、再び西蓮寺の目が細くなる。見た者に幸福が訪れるような、優しい笑顔。


 「ふふふ。そういうわけだから、ウチらもカチコミに加わるからね!」

 「カチコミでもないんやけどな。けどお前の『瞬間移動』は逃げる時に役に立つから、居ってくれたら助かるかもしれんな」

 瀬戸口の言葉に対し上条がそう答えると、突然ビルの谷間にパーンッという音が鳴り響いた。瀬戸口の平手打ちが左の頬に飛んできたのだ。


 「闘う前に逃げること考える馬鹿いるかよっ!」

 どこかで聞いたことがあるような台詞を流暢に言う瀬戸口。妙なスイッチを入れてしまったようだ。


 「だいたい、何でそんな上から目線なのよ! 言っとくけど、ウチはデーンシングの連中に殺されそうになってたあんたら助けた、言わば恩人よ! ホントどの面下げて偉そうな口聞いてくれてんの?」

 迫力満点に凄んでくる瀬戸口。やはり口喧嘩で女性に敵わないことは知っているので、ただ素直に平謝りをする上条。我輩の辞書にプライドという言葉はない。


 「ふん。わかればいいのよ。それで松岡たちはどこにいるの? ウチの能力で連れてってあげるわ!」

 瀬戸口のその言葉に、全員が呆然と口を開ける。彼女は、夢魔サッキュバスの事務所があるとわかってここに来たわけではないようだ。


 「いや、夢魔サッキュバスのアジトは隣のビルやで」

 「成程、隣か。隣……。となり!?」

 皆と同じように口を大きく開ける瀬戸口。恐らく彼女の頭の中では、となりという文字がゲシュタルト崩壊を起こしているに違いない。

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