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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷21

 灰色の小獣しょうじゅうを蹴り飛ばした上条は、真っすぐに清家せいけの顔面を見定めた。

 「罪悪感は消えへん言うても、お前を倒したらこいつらも消えるんやろ?」


 「さあ、それはどうだろうなぁ?」

 もったいぶった口振りで斜に構える清家。しかし答えはわかっている。清家が力を失えば、この獣たちは消滅する。それが人外の能力のセオリー。暴露の能力を使わなくても、そんなことはわかる。


 当然、相楽の奴も清家を狙ってくるだろうと思い、横目でちらりと彼を見る。

 だが、彼の行動は予想と違っていた。力強くウレタン舗装の校庭を踏みしめると、体を反らし開いた両腕を一気に大きく前に振り抜いてみせた。

 「くたばれ! エアバーストッ!!」


 相楽を始点にして円形に広がる曲線状の衝撃波。想定していない攻撃だったため、上条はそれをまともに喰らってしまった。腹を押さえ、膝が崩れる。

 敵味方の入り乱れる状態で、こんなにも強力な全体攻撃を仕掛けてくるとは恐ろしい奴だ。それとも単にキレて、自分を見失っているのだろうか? 清家もそうだが、相楽を止める人間も必要になってきた。


 雫か西蓮寺のどちらかが、相楽の相手してくれれば助かるのだが……。

 周りに視線を巡らせる上条。すると、右手の方角から何者かが走ってくるのが見えた。自然と視線がそちらに動く。だがその人物は雫でも西蓮寺でもない。こちらに向かって勢いよく駆けてくるのは、トガビトの隅田だった。

 「やべー! 助けてくれ、ヨシアッ!!」


 懸命に走る隅田。そしてその後ろから、特殊警棒を掲げた雫が彼を追いかけてくる。

 「やべぇ?」

 何がやばいのかもよくわかっていない様子の清家が声の方に振り返ったその瞬間、雫の振り抜いた特殊警棒が清家の脇腹を強く叩きつけた。


 「あーっ!! いったっ!!」

 体を横に曲げ、痛みを表現する清家。その立ち姿は、何となく芸術的な佇まいに見えなくもない。


 「……あなた、賞金首の相楽さんだっけ?」頭をひねらせて質問する雫。

 「よりによって、誰と間違ってんだよ! 俺はトガビトの頭、清家ヨシアだ! 『カルマ』の能力、お前も喰らいやがれっ!」


 清家の真正面で、雫の動きが止まる。『カルマ』の能力は、罪悪感の具現化。対象者の罪悪感が獣のような形で現れるはずなのだが、どういうわけか雫の周りには、何の動物も現れなかった。


 「何?」

 「あれ?」

 もう一度、目を光らせる清家。だがやはり雫の前には、何も現れやしなかった。


 「お、お前まさか、今まで何の罪悪感も持たずに生きてきたのか?」

 驚愕する清家。つまり雫は生まれてこの方、罪の意識を抱いたことがないために、それを具現化することができなかったということのようだ。


 「私は自分の正義に正直に生きてきた。罪悪感なんて、誰に対しても感じたことはないわ!」

 「いや、人のこと鈍器で殴っといて、よくそんな台詞言えるな!」

 「うるさい!」

 特殊警棒を振る雫。何かの加減で特殊警棒から火花が散ると共に、「ギャンッ!」という清家の哀しげな声が校庭に響いた。


 「あっ……」

 思わず手が滑った。とでも言いたげな吐息が、雫から漏れる。

 そして白目をむいて、清家は地面に崩れ散った。何だろう、今のクリティカル攻撃は? それほど強く叩いたようには見えなかったが、清家は受け身を取ることもなく倒れてしまった。先程思った通り、灰色の小獣と赤黒い獣は同時に消え失せた。


 「雫ちゃん、助かったで。けど、あの束縛女は倒したんか?」

 上条は雫の元に歩み寄る。今言った束縛女とは、夢魔サッキュバスの笠原綾香のことだ。


 「いや、今は手が出せないから」

 そう言うと雫は左に目をやり、手から衝撃波を放った。その先にいる相楽の衝撃波とぶつかり合い、甲高い破裂音が校庭に鳴る。上条の右耳に、激しい耳鳴りが残った。


 「手が出せない?」

 上条は耳を押さえ、先程まで雫と笠崎が戦っていた辺りに目を向けた。そこには、2メートル程の白い寝袋のような物体がごろんと横たわっている。


 「何やあれ?」

 「束縛の能力の紐で作られたまゆ。あの中に、笠崎さんと山田君がいるの」

 雫はそう言い残し、相楽のところに走っていく。再び起こる耳障りな破裂音。


 ある程度の敵は倒したので、拓人とエリックを救出してとっとと逃げ出したかったのだが、肝心の拓人がまさかのサナギ状態。しかし夢魔サッキュバスの仲間たちが大量に押し寄せてしまうのは時間の問題だ。


 どうにかしなければと頭を働かせる上条。だがすぐに、若い女の甲高い叫び声に邪魔され集中力が途切れた。

 叫び声の元に目を向ける上条。するとそこには、黒い煙を体から放出している1人の男がいた。トガビトの隅田が人外の能力を使い始めたようだ。

 「クソッ、よくもヨシアを! こうなりゃ最後の手段だっ!」


 体から放たれた黒い煙が、校庭に拡散していく。これは奴の持つ『闇雲』の能力。代々木体育館の事件の時も見た能力だが、この黒煙の中に飲み込まれると一時的に視力を失ってしまうのだ。


 「あかんっ! 闇雲に呑み込まれるで!」

 混乱に乗じてエリックの救出に向かう上条。そこは校庭の端だったため黒煙は届いていないのだが、まだ雫たちは校庭の中央にいる。


 「逃がしやしねぇぞ、黒髪! お前は道連れだ!!」

 黒煙の中から、聞こえてくる隅田の笑い声。まるで悪夢のような光景が、小学校の校庭に広がっていた。

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