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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter6 人間の瞳
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†chapter6 人間の瞳06

 「こっちは別に二人まとめて相手にしてもいいんだぜ」

 アドレナリンの大量分泌で興奮している犬塚は、こっちへこいと手で挑発した。


 「調子に乗るなよ、もじゃ毛っ!」

 安い誘いに乗った拓人は、自らが発生させた風に乗って突っ込んで行くとそのままの勢いで回し蹴りを放った。

 速いっ! 鞭のようにしなる拓人の右足が脇腹にヒットすると、犬塚は勢いよく横転した。しかし手ごたえが感じられない。敢えて横に転がることによってダメージを殺したようだ。

 それに加えてやはり室内では、疾風の能力は一割程度の威力しか発揮出来ないようだ。全開の力ならダメージを軽減させることなど出来やしないはずだった。

 せめて窓でもあれば風の通り道が出来るのだが、生憎ここは地下。外に繋がる窓など存在しない。


 「くそがっ!」

 拓人が一歩前に踏み出す。倒れている犬塚は起き上がるタイミングがないと見るや、近づいてくる拓人の足を両手で掴んだ。

 犬塚はいやらしい笑みを浮かべた。

 「おいっ! そいつに掴まれると厄介やぞっ!」

 上条に言われたがもう遅かった。犬塚の手から発せられた炎が拓人のスニーカーに燃え移った。


 「わっ!!」

 拓人が軽く取り乱し足をバタバタと泳がせていると、その隙に立ちあがった犬塚は滑稽な姿で飛び跳ねる拓人の頬に拳で殴り着けた。

 衝撃で首がよじれそのまま地面に膝をつくと、今度は犬塚の放った炎が着ていたフランネルシャツに燃え移った。

 頬の痛みもそのままに、拓人は火消しのためゴロゴロと地面を転がった。


 「ハハハッ、必死だな」

 シャツの火は消えたが未だ地面に這いつくばる拓人を見て、犬塚は冷笑を浮かべた。

 「笑うんじゃねぇ」拓人はそう言って地面に爪を立てた。

 「あっ? お前じゃ俺に勝てねぇ。役不足なんだよ!」


 建物の外では、濁流のような風が轟々と唸り声をあげている。

 「負けてたまるか」俯いた拓人は小声で呟く

 「何だって? 声がちっちゃくて聞こえねぇよっ!!」

 耳の穴をほじっていた犬塚にそう煽られると、目を光らせた拓人が顔を上げた。

 「負けたくねえんだよっっ!!!」


 拓人が大声をあげると共に、外で尋常じゃない突風が吹き荒れた。

 バキバキと何か木でも折れるような大きな音が聞こえてくると同時に、突然地下の電気が全て消えてしまった。突風の影響で電線が切断されたのかもしれない。


 「暗っ!! なんやこれっ!!」

 突如として地下を包み込んだ漆黒の闇の中、上条はあわあわと手を振り周りを確かめた。近くに壁があることを確認すると、少し安心して壁を背中に押しあてた。


 戦闘中の拓人と犬塚は息を殺して相手を探り合っている。しかしまだ闇に目が慣れていないため、平衡感覚すら覚束ない。

 拓人は音が出ないように空気を吐き出した。今は気配を悟られた方が負けるだろう。

 怒りを爆発させた拓人だったが、停電に驚いたおかげで冷静になることができたようだ。


 静かに息を呑む。目の前3メートル程の距離に何かが見える。

 火花? 初夏だというのに静電気のようなものがバチバチと散っているようだ。

 犬塚の発火能力か? そう思った拓人は、敢えて気付かれるように足音を大きく立てて近づいた。床を鳴らす靴音に反応した犬塚がその方向に炎の柱を作る。白い閃光が闇を裂いた。炎の奥に犬塚の姿を確認すると拓人は今できる全力のパワーで疾風を吹かせた。

 「風よ、強く吹けっ!!」


 犬塚が放った火柱が、風に煽られ一気に燃え上がった。「うわあああぁぁぁっ!!」

 向かい風によって炎が移ったのは犬塚の頭部だった。

 重苦しいドレッドヘアーが真っ赤に燃え、強烈な刺激臭が辺りに広がった。

 火に馴れている犬塚も流石にこれには参ったのか、奇声を上げながら駆け足でガレージに向かっていくとそこから外に飛び出して行った。燃える頭部の明かりを頼りに、拓人と上条の二人もその後を追った。


 ガレージの緩やかなスロープを走り抜け、建物の前の道路に飛びだした。辺りは先程の突風の影響で塀は倒壊し、倒木が道を塞いでいる。

 「やってくれたな。小僧……」

 犬塚の頭は既に鎮火したようだが、自慢のドレッドヘアーは燃えてしまったのか少しボリュームに減っていた。

 「良し、ここで決着をつけよう」

 西から東に風が吹いている。絶好のコンディションだ。


 「てめえは許さねぇ。じわじわいたぶりながら焼き殺してやる」

 額が焼き焦げ恐ろしい形相で睨む犬塚を見て、上条は肩を震わせた。

 「大丈夫か拓人! いけるんか!?」


 「ここが外である以上、勝負は一瞬で決まる」

 風上に立つ拓人が、早手はやての如く飛びだした。

 正に目にも止まらぬ速度だった。風と共に突っ込んだ拓人は犬塚のみぞおちに左肘を入れると、素早く右の拳を二発腹にぶちこんだ。


 一瞬で意識が飛んだ犬塚は、自らの敗北も知らぬまま地面に伏した。

 拓人はドヤ顔で振り向くと親指を立てた。「一撃必殺っ!!」

 「いや、最後二発入れてたやろ。全部で三撃必殺や」

 しっかり見ていた上条にそう指摘されると、拓人は顔を赤らめた。


 「何でもかんでも暴露すんじゃねーよ」 

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