表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
228/294

†chapter20 人の消えた渋谷09

 西蓮寺さいれんじの荒い息遣いだけが静かに聞こえる。

 しばらくして落ち着きを取り戻すと、彼女は上条と雫に黙って頭を下げた。


 「ミーナさんは自責の念に苦しんどるんやな」

 上条の言葉を受けると、西蓮寺は目を閉じ首を横に振った。

 「ほんまに苦しいのはあたしやない。被害者とその家族や。命が奪われた上に、その犯人を法で裁けへんなんて、そんな惨いことないもんなぁ……」

 西蓮寺は嗚咽を堪えるように、小さく唸る。能力によって起きてしまったことではあるが、彼女はこれから先も重い十字架を背負って生きていかなくてはいけないのだ。しかしそれが彼女に与えられた贖罪しょくざいなのかもしれない。


 「生きていくのが辛いやろうけど、受け入れなあかん。それが罪を償うということやねん」

 上条はいつになく真剣な表情でそう言うと、何故か西蓮寺は失笑を漏らした。

 「ふふふ、やっぱり関西弁はあかんな。かっこええこと言うても、ちっとも様にならん」


 「せやろか?」

 「せやな。あたしも、シリアスなんは苦手やねん。とりあえず財前ヒカリ子とっ捕まえて、FCを救出しようや」

 西蓮寺の顔から笑顔が零れる。いつもの調子が戻ったようだ。


 「まあ、ほんまは面倒やから夢魔サッキュバスとは戦いたくなかったんやけど、こうなったらしゃあない。ALICEアリスと一緒に淫魔退治といきますか」

 決意を固め強く拳を握る上条。しかし問題は吉祥天女、財前ヒカリ子だ。あの女をどう攻略したものか?


 「ミーナさんは財前と戦ったことがあるんか?」

 上条が尋ねる。すると西蓮寺は何かを思い出すかのように、懐かしそうに目を細めた。

 「いや。あたしら2人は東の吉祥天女、西の羅刹天と言われるくらい有名やったから、互いにその存在は知っとったけど、テリトリーが離れとったから、うたんは今日が初めてなんや」


 「ふーん。けど財前のことよう知っとるみたいやけど、雫ちゃんでは勝たれへんいうのは何か理由があるんか?」

 「あの女の能力は有名やったからな。あんたも財前の能力見たやろ。あれ、何の能力かわかるか?」


 「『刹那』。時間を止める能力やろ」上条が答える。

 「そうや。時空を操れる恐ろしい能力。その上、財前は日本刀まで持っとる。チンピラの喧嘩とは次元の違う話やで」


 「けど、雫ちゃんには『同調』の能力がある。相手の能力が何かわかっとる状態なら、その能力をコピーして逆に利用することができるんや」

 上条は思わず大きな声で力説するが、西蓮寺は納得がいかないようで渋い顔を作る。

 「問題はそこや。同調いうんはコピー能力やろ? それを使えば財前と互角に渡りあえそうな気がするけど、実際難しいと思うで」


 「何で? 扱い方が難儀なんか?」

 「扱い方はわからんけど、あれや、グッチおるやろ? あの子の『瞬間移動』の能力も言わば時空を操る能力の1つやけど、あれ使こうた後へろへろになってまうやん? ここからはあたしの予想やけど、財前の『刹那』も恐らく精神力の消耗が相当激しいんやないかと思うねん」


 西蓮寺の意見に、上条は「成程」と相槌を打つ。確かにその通りだし、しかもあの刹那を使用しての戦闘は西蓮寺の方が圧倒的に使い慣れてるだろう。こちらに有利なファクターは、今のところ何1つない。


 「それに加えて向こうにおるFCの能力が、こっちにとって厄介やねん」

 西蓮寺はそう言ってうなじに手を触れる。そうだ。FCこと嶋村唯は、その能力を持っていたために松岡千尋に拉致されてしまったのだ。一体彼女はどんな能力を持っているというのだろう?


 「そのFCは、どんな能力使うねん?」

 「あの子の持っとる能力は『インクリーズ』。FCの半径25メートル圏内におる全ての亜種は、己の能力の性能を増幅して使うことができるんや」


 「能力の性能アップ? 松岡はその能力で何をするつもりなんや?」

 「そら、仲間を増やすためや。松岡の『魅了』だけでは限界があるから、FCのインクリーズと合わせてマインドコントロールを完璧なものにしとるみたいやな」



 「夢魔サッキュバスは戦争なんて興味ないのかと思うてたけど、今更人材集めしとるんかいな? あいつらも必死やな」

 「そら渋谷から人がおらんようになって、松岡んとこも商売が上がったりみたいやからな。それやったら戦争に乗っかって、一気に渋谷の覇権を握ってまおうっちゅう考えみたいやで」

 西蓮寺がそう言うと、上条と2人でタイミングよく溜息をついた。

 「成程、奴らの考えそうなことやな」


 当然FCの持つ『インクリーズ』の能力は松岡のためだけにあるわけではない。夢魔サッキュバスの他の幹部、クラウンやクレストガールもそのほとんどが亜種。彼女たちもインクリーズの影響を受けることだろう。勿論、あの財前ヒカリ子だって例外ではない。


 「刹那の能力も増幅されるんか……。だから雫ちゃんでは、勝てへんいうわけか」

 旗色の悪い戦況に、上条はこめかみを押さえ深くうな垂れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ