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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter19 冬告げのエトランゼ
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†chapter19 冬告げのエトランゼ07

 「今の人は友達ですかぁ?」

 ファンが言ってくる。今の人というのは、蛭川ひるかわのことを指して言っている言葉だ。


 「友達じゃないよ。悪縁があるだけだ」

 拓人は不機嫌そうにそう答え背後の扉に目を向けた。蛭川がそこから出て行ったのは、数分前の出来事だ。


 「彼はパクくんに会いに行ったんですかねぇー?」

 「どうだろ? けど、ずっとそいつを捜してたみたいだから、そうなのかな」

 今言ったパクという人物が、蛭川たちが捜している『パコ』なる人物なのだろうか? 停戦協定が解消された現時点で、スコーピオンの人間がB-SIDEビーサイドの人間に会いに行くということは、かなり危険な行為のように思える。


 「けどまあ、俺には関係ないことだ。B-SIDEビーサイドとスコーピオンは勝手に潰し合ってくれればいい」

 そう言って立ち上がると、正面に座るファンも席を立った。

 「そうですねぇ。もはや戦争は不可避な状況ですから、スターダストの皆さんもこれから気を付けてくださいねぇ」


 「うん、ありがとう。変な奴連れてきちゃって悪かったね」

 そう言って頭を下げ、拓人は公園管理室を辞した。


 冬の乾いた冷気が頬を撫でる。先程まで表でたむろしていたB-SIDEビーサイドの連中はどこかに行ってしまったようだ。これは好都合。そのまま奴らに見つからないように、ここから去るとしよう。


 そそくさと歩道に下るための階段へ向かう。そこまでは誰もいないと思っていたのだが、階段を下りようとしたとその瞬間、丁度上って来ようとする2人組と鉢合わせになってしまった。スキンヘッドの男と衛生マスクをつけた男。一瞬、B-SIDEビーサイドのメンバーかと思い身構えてしまったが、すぐにそうではないことがわかった。彼らはブルーのカラーバンドを着けていないし、何より拓人はこの2人のことを認識していたのだ。


 眼下にいるスキンヘッドの男は拓人の顔を見るなり肩を強張らせた。そしてその背中から生えてくる、昆虫のようなはね。これは亜人系の能力。可愛い女の子の生えていれば妖精のように見えなくもないその翅も、スキンヘッドの男の背中に生えていてはただひたすらにキモいだけだった。そう、この男は天野雫が追いかけている変質者のキモい奴だ。


 「ギギギギギッギッ!!」

 階段の下から翅を羽ばたかせ男が飛び上がる。しかしこちらも身構えていた分、素早くそれに備えることができた。


 ジャケットの袖から出た、枯れ枝のようにささくれ立った昆虫の手が襲い掛かってくる。拓人は素早く反転しそれをかわすと、その回転もそのまま上段後ろ回し蹴りを放った。スキンヘッドの男の後頭部に見事命中。宙を舞う男は、受け身も取れずに公園の地面に撃沈した。


 「硬い頭してやがんな!」

 地に両足を滑らせ回転を止めた拓人は、続いて階段の下にいるマスクを着けた小柄な男に目を向けた。こいつにも見覚えがある。代々木体育館の事件の時にいた虫を操る能力の奴だ。

 「お前ら、仲間だったのか!?」


 「ふん、どこかで見た顔だな。だが俺のダチが有無を言わさず襲いかかるということは、俺の敵でもあるわけだ」

 マスクの男の頭上に羽虫の大群が渦を巻く。虫の亜人に虫を操る亜種という虫々コンビ。ここは都心の一等地に突如現れた昆虫パラダイスだ。冬なのに。


 「お前とは代々木体育館で会ってるよ」

 そう告げると、マスクの男は思い出したのか「あー」と声を出した。

 「あの時、居た奴らの1人か。妙な巡り合わせだ」


 男はゆっくりと階段を上り、そして足を止めた。マスク越しに不敵な笑みを浮かべているのがわかる。

 「行け! むし共っ!!」

 その声と共に、拓人の四方からバッタ類の群れが飛来してくる。しかしこんなものに恐れをなす俺ではない。拓人は体の周りに強風を巻き起こした。飛んできた虫たちは次々と風に弾かれ、ころころと地面に転がった。


 「何がしたいんだよ、お前は?」

 拓人は上から見下す。マスクの男は顔を歪め、顎の下までマスクを下ろした。

 「クソッ! 能力の相性が悪いみてぇだな。ここは一時撤退して『パコ』に連絡だ」

 そして口笛を鳴らすと、それに反応して倒れていたスキンヘッドの男がむくりと起き上がった。


 「……今、お前、『パコ』って言ったか?」

 拓人の耳には間違いなくそう聞こえた。それは蛭川たちが捜している人物の名。


 立ち上がったスキンヘッドの男は翅を使い大きく飛び上がると、未だふらつく足でマスクの男の傍らに着地した。

 「お前は確か、スターダストとかいうチームだったな」


 「そうだよ。お前らは一体何者……、うわっ!!」

 拓人は喋っている途中でユスリカの蚊柱に襲われた。視界を覆われる程の群れだったが、再び風を旋回させるとすぐにその群れはどこかに消え去った。


 「お前らも標的に加えてやる。楽しみに待ってろ!」

 視界を奪われている隙にいつの間にか空を飛び上がっていたスキンヘッドの男は、マスクの男を抱えた状態で高い位置からそう叫んだ。


 「ちょっと待て! だからお前らは何者なんだよ! おい、答えろっ!!」

 拓人は空に向かって叫んだ。しかし彼らは何も答えることなく、空の彼方に消えて行ってしまった。 

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