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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter6 人間の瞳
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†chapter6 人間の瞳02

 震える手で人間の瞳の写真を持つみくるを見て、拓人は首を傾げた。

 「あんた、この宝石のこと知ってんのか?」

 みくるは、持っていた写真をテーブルの上に置くと唇を尖らせた。

 「……だって有名な石でしょ。確か世界最大のルビーだったはずだけど」


 宝石に喰いついたみくるを見て、上条はここしかないとテーブルの上から体を起こした。

 「琉王るおうの依頼は、盗まれた人間の瞳を奪還して欲しいっちゅうことやねん」

 「えっ、盗まれた!? どういうこと!?」

 「せやから琉王が人間の瞳をヘヴンの従業員に持ち逃げされたんやけど、その後その従業員がクラウディに殺されてもうて宝石の行方もわからんように……」そこまで言うとみくるが話を遮った。

 「ちょ、ちょっと待って。クラウディとか情報が多すぎて話が全然見えないんだけど、それってつまり人間の瞳を琉王が所有しててそれが盗まれたってこと?」

 やはりこの宝石に喰いついてくる。手ごたえを感じた上条は更に畳み掛けた。


 「そうや。千里眼で人間の瞳の在り処さえ調べてくれれば、後は俺と拓人の二人だけで見つけるから頼む。このとおりや!」

 上条は両手を合わせて懇願したが、みくるは余り話を聞いていないようだった。

 「何で琉王が人間の瞳を持ってるの……?」

 その質問には拓人が答えた。

 「確か、闇オークションで手に入れたって言ってたかな?」

 「闇オークション? へぇ……」

 みくるは嬉しいような困惑しているような、何とも言えない表情をしている。


 「じゃ今、人間の瞳を持っているのはクラウディってこと?」

 「いや、それはわからん。人間の瞳を盗んだ従業員にはバックにやばい連中がいるらしく、そいつらがクラウディに殺しを依頼したみたいやから、人間の瞳もその連中が持ってるんちゃうやろか?」

 「ふーん、そうなんだ……」気もそぞろにそう口にしたみくるは、急に気が変わったのか更に「あたし、人間の瞳の在り処を探してみる」と言って写真に写った人間の瞳を凝視した。

 「えっ!? ホンマに?」驚いて目を丸くした上条は、すぐにほっとして肩を撫でおろした。


 みくるは集中力を高めるために両目を閉じた。そして頭の中で人間の瞳を強くイメージした。みくるは脳の意識が点となり、やがて遠くの景色を映し出す。これからその場所について調べるのだ。新しく出来た高層ビルの最上階から日本で最初に出来たと言われる地下の商店街まで、みくるの視点は渋谷の街を縦横無尽に走った。

 しかし何処を探してもお目当ての人間の瞳を見つけることは出来ない。みくるはそっと目を開くと小さく溜息をついた。


 「駄目、わかんない。もう渋谷にはないんじゃない?」みくる自身も残念そうにそう呟いた。

 みくるの能力は千里眼と言うが、実際に見える範囲は千里(3927.27km)などという広範囲ではなく精々半径5km。つまり渋谷の街を探すのが限界だった。そしてその範囲に人間の瞳は見つからない。


 「半径5km圏内の何処にも見当たらへん?」

 「しつこいなぁ、無いって言ってるでしょ!」

 みくるが強い口調で言うと、上条は「うーん」と唸った。

 「なぁ、メビウスって知っとる?」

 「メビウス? 人外の能力が使えなくなる高周波のこと?」

 「そうそう。今度は半径5kmの範囲の中にある人外の能力が及ばない地帯を調べて欲しいんや」 

 「何でよ、人間の瞳の在り処だけ調べれば良いって言ったのは圭介でしょ?」

 「まあそうなんやけど、もしもメビウスの範囲内に人間の瞳があったらみくるちゃんでも見つけられへんやろ? これだけ最後に調べて欲しいねん。頼むわぁ」

 この辺りでメビウスを発生させているのは道玄坂ヘヴンくらいのものだが、果たして他にそんな場所があるのだろうか? メビウスの発生装置は一台で都内のマンションが買える程高額なものだ。一般人がおいそれと買えるようなものではない。


 「人外の能力が及ばない場所を調べるなんてやったことないから、うまくいくかわかんないよっ」

 素っ気なくそう言うと、みくるは再び瞳を閉じた。

 ヘヴンのある道玄坂上の近辺は、メビウスの影響を受けているので当然千里眼の能力が及ばない。これと同じような地帯を探せば良いわけだが、これがなかなかどうして難しい。

 みくるの視点が街中を駆け巡った。

 そして再び目を開けた時、みくるの体力は極端に消耗していた。


 「ど、どうやった?」

 「はぁ、はぁ、一か所だけそれっぽいところがあった……」

 「ホンマに!?」

 みくるが言うにはNHK放送センターの裏手、神山町の交差点付近の坂道に建つが一軒の建物が全く能力が及ばないらしい。


 「やっぱり代々木公園の周辺なんやな……」

 「やっぱり? やっぱりって何よ!?」疲れ切ったみくるはテーブルに両肘をついたまま、顔だけ上げた。

 実の所、琉王が人間の瞳盗難の背後にスコーピオンがいるということに気付いていたので、宝石の在り処もある程度の予想は出来ていたのだ。

 「渋谷の外に持ち出されてへんのなら、そこにあるとしか考えられへん」

 「可能性は低いけど、賭けるしかないな」

 そう言って拓人が席を立つと、合わせて上条も席を立った。

 「ほな、行くでっ」


 「何なのよっ! あたしの質問に答えなさいよっ!!」

 みくるは憤慨したが、上条は気にもしない様子で店を出て行った。

 「もう、イライラする! バカッ!!」

 しかし上条と拓人の二人は出て行ってしまったので、その言葉は届かない。あるいは百聞の能力を持つ琉王に対して、吐いたセリフだったのかもしれない。

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