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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter18 ワンヒットの法則
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†chapter18 ワンヒットの法則11

 人のいなくなったハチ公前広場。目の前の巨大スクリーンから流れる最新の音楽ヒットチャートは、聞く人もいないというのにやけに大きな音で主張を繰り返している。


 「梨々香ちゃんがいなくなったやと……。それ何時の話や?」

 上条の顔は完全に血の気が引いてしまっている。何故なら四月一日わたぬきが先程言っていたある言葉を思い出してしまっていたからだ。


 「今朝、施設を出ていったっきり、学校には行ってないみたいなんだ。お前、何か事情を知ってるんだろ? 昨日、梨々ねえに何があったんだよ?」

 裕太はそう聞いてくるが、言葉を返すことができない上条。


 「あのインチキ警察官、さっき失踪事件がどうとか言ってたけど……」

 代わりにみくるが口を開いたところで、上条はようやく我に返った。

 「これは、洒落にならんやつかもしれん。みくるちゃん!」


 みくるは頷くと同時に静かに瞳を閉じる。彼女の持つ『千里眼』というその場にいながら遠くを見通すことができる能力で、藤崎の居場所を捜しだそうとしているのだ。


 閑散としたハチ公前広場に、暫しの沈黙が流れる。1秒の長さがこんなにも煩わしいなんて……。時は一刻を争う。


 「……駄目。見つからないわ」

 みくるは虚ろ気味に目を開ける。彼女の能力の有効範囲は半径5km。その範囲内にいれば居場所を捜し当てることができるのだが、そこから外に行ってしまっては通常特定はできなくなってしまう。


 「くそっ、みくるちゃんの千里眼でもアカンかぁ。けどそれやったら、いじめの首謀者の伊丹とかいう女の居場所は調べられへんか?」

 その名前を聞くと、みくるは顔をムッとしかめた。

 「そんな、顔も見たこともないような女の居場所までわかるわけないでしょ!」


 「まあ、そうやろなぁ……」

 肩を落とす上条を見て、裕太の顔も一気に曇った。

 「何だよ、やっぱり自分で何とかするしかないのか。さっき来た刑事も、すげー頼りなさそうだったし……」

 裕太の言うその刑事は四月一日わたぬきのことだろうか? 上条はその時、四月一日わたぬきが最初に言っていた言葉を思い出した。


 「そう言えばわたぬーの奴、ヒナ先輩がどうのこうの言うとったな」

 上条の脳裏に彫りの深い朝比奈の顔が思い浮かんだ。藤崎の失踪は夢魔サッキュバスの犯行だと考えてほぼ間違いないのだろうが、彼もまた事件に一枚噛んでいるのだろうか? みくるも当然そのことを疑問視する。

 「確かにあの人、朝比奈雄二郎って言ってたわね。『FAKE LOTUSフェイクロータス』のプロデューサーが、今回の事件と何の関係があるっていうのかしら?」


 「いや、実はあの人も梨々香ちゃんが歌ってたあの場所で弾き語りを披露しとったんや。もしかしたらヒナ先輩、今回の事件のこと何か知っとるのかもしれへん」

 上条が言うと、みくるの色違いの瞳に再び力が宿る。


 「わかった。なら彼の居場所を見つければ、何かわかるかもしれないのね」

 朝比奈雄二郎ならみくるも顔を知っているので、すぐに捜索することができる。息を整え再び瞑想に入るみくる。何故、朝比奈が関わっているのかはわからないが、今は手掛かりが他にないのでこれに掛けるしかない。さすがに巨大組織である夢魔サッキュバスの拠点をしらみ潰しに捜すよりかは幾らか効率が良いだろう。


 そして丁度2分が経過したところで、みくるの肩がびくりと揺れた。

 「わかった!」

 「ホンマに? ヒナ先輩どこにおった?」

 「円山町まるやまちょうにある、Clubクラブ Sanctuaryサンクチュアリの3階のVIPルーム。朝比奈雄二郎はそこにいるわ」

 みくるはそう言って道玄坂を見上げた。円山町はこの坂の上だ。


 「Sanctuaryサンクチュアリ言うたら、もろに夢魔サッキュバスの息の掛かったクラブやんけ。そこにヒナ先輩がおるいうことは……、つまりどういうことや?」

 「さあ、はっきりしたことはわからないわ。あたしが見えたのはSanctuaryサンクチュアリのVIPルームに朝比奈雄二郎が1人でいるということだけ」


 「うーん。何なんやろな……?」

 やはり朝比奈も事件に関わっているのだろうか? それとも単に巻き込まれてしまっただけなのか? 上条は己の顎に手を当て考え込んでいると、背伸びをした裕太が訴えかけてきた。

 「そのサンクチュアリとかいうとこに行けば、梨々姉のことがわかるんだな!」


 隣で見上げる裕太の目から、決意のようなものが伝わってくる。藤崎を助けるためなら、どんなことだってするつもりかもしれない。だが彼はまだ子供。夢魔サッキュバスの恐ろしさを知らないのだ。上条は裕太の頭に手を置き、伸びた背を元に戻した。

 「梨々香ちゃんは俺らが必ず助けたる。だからお前はかすみ園で大人しく待っとるんや」


 「何でだよ、僕だって戦える! 僕はこの渋谷で、名を轟かせた『魔術師』だぞっ!」

 裕太が大声を上げると共に、その身体から黒い炎が舞い上がった。しかしそれは偽りの炎。上条が手で触れると一瞬にしてその場から消え去ってしまった。

 「確かに裕太の能力は凄いかもしれん。せやけど、それを簡単に見破ることができる亜種だっておるんやで」


 裕太の目から薄く涙が滲んでいる。少し可哀そうな気もするが、相手は渋谷最大のガールズモッブである夢魔サッキュバス。こうすることが最善だろう。


 「みくるちゃん、行くで」

 上条がそう言って道玄坂方面に歩いて行くと、みくるも黙って後を追って行った。裕太は人のいなくなったハチ公前広場で、肩を震わせながら2人の背中を静かに見送った。

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