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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter5 異形のカリスマ
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†chapter5 異形のカリスマ05

 もう一枚の写真を見た瞬間、拓人は革張りのソファーから勢いよく立ち上がった。「あっ!!」

 その男が誰なのか気付いたのだ。

 同じことに気付いた上条も慌ててその写真を手に取った。

 「おい、このアフロもしかして……」


 胃液が逆流しそうになった拓人は、そこからふらふらとローテーブルの脇に出た。

 「ううう……」

 声を震わせながら必死に口を押さえると、部屋に突然黒服の従業員が乱暴に入ってきた。

 「オーナー、お話のところすみませんっ!」

 琉王るおうはその黒服の従業員に目を向けた。「何です? 急ぎの様ですか?」

 黒服の従業員は一瞬上条達に目を向け言い淀んだが、緊急の用事なのか「実は……」と話しだした。

 「南條さんが殺されました……」


 その言葉に、部屋の中の空気が凍りついた。

 「殺された?」

 琉王は動揺を隠すように言ったが、そもそも瞳の奥は静かに宙空だけを見つめている。慌てているのは黒服の従業員の方だ。

 「た、たった今、本庁の刑事を名乗る男が来て南條さんがクラウディと思われる者に殺害されたと……」

 「えっ!? クラウディ?」そこで初めて琉王の瞳孔が開いた。しかし冷静さは崩さない。


 「そうですか」そう言うと琉王は一呼吸置いた。「その本庁の刑事っていうのは、もしかして『貞清さだきよ』さんでしたか?」

 黒服は横に首を振る。「いえ、確か『ワタヌキ』と名乗っていました」

 (綿貫?)琉王は自分の記憶を辿った。聞き覚えがある名のような気もするが、今一つ思い出せない。

 頭を悩ませていると、横で震える拓人が何度もえずき始めた。


 「これはあかんやつや。琉王さんビニール袋かなんかない?」

 そう聞いた直後、拓人は置いてあったごみ箱の中に胃液を吐き出した。

 丁度ゴミ箱の横にいた琉王は、困ったように眉を寄せた。「彼は一体どうしたのいうんです?」


 「すんません琉王さん。本当に偶然なんやけど、俺たちさっきまで巡査と一緒にクラウディの犯行現場にいたんや」

 「ほう」琉王はそう言うと、上条の顔をじっと見つめた。

 無骨で四角い上条の顔に、端正な琉王の顔が近づく。上条の顔は非常に男性的で、それを好む女性にしてみればいわゆる男前の部類に属しても良さそうな感じなのだが、こうして気品ある琉王の顔と並べてみると残念なほどにルックスに落差を感じてしまう。

 「それは凄い偶然だ」

 今から捜して貰おうとしていた人物の殺害現場に、先程までいたというのだから偶然とは恐ろしい。

 琉王は今一度、ローテーブルの上の写真を指差した。

 「その死体は、間違いなくこの男でしたか?」

 

 「死体の顔をはっきり見たのは拓人だからなぁ」

 アフロヘアーだけでは断定出来ないので上条は、ゴミ箱の前でうな垂れる拓人に話を振った。

 「拓人、さっきの死体はこの男で間違いないか?」

 顔を上げた拓人が、ゆっくりと写真の首元を指差した。

 「同じクロスのネックレスをつけていた。間違いない……」


 その小さな十字架のついたシルバーネックレスは、ヘヴンで販売されている品物だった。

 「そうですか。南條君、消されてしまったんですね……」

 琉王は百聞の能力によって、この事件の背後に別の組織が関与していることは把握していたのだが、まさかこんなに簡単に南條が殺されてしまうとは思っていなかった。


 「クラウディに殺しを依頼したのが、その借金取りってことか?」

 「恐らくそういうことですね」琉王は頷く。

 その金融業者は返済が出来ない南條に人間の瞳を盗ませ、そして口封じに殺された。そういうことのようだ。

 すると、それまで黙っていた雫が急に重い口を開いた。

 「もしくはクラウディ自身がその黒幕……?」


 しかし琉王はゆっくりと首を振った。

 「この事件の黒幕はもっと別の人物です。そしてクラウディを動かしたのは恐らく『スコーピオン』だと思われます」

 スコーピオンとは渋谷のストリートギャングで、その規模は渋谷最大と言われるB-SIDEに次いで大きいチームだ。


 「スコーピオンか、あいつら無茶苦茶やりよるからなぁ。確かケツ持ちにヤクザがいるんやろ?」

 うっとおしそうに言った上条の言葉に、琉王は静かに頷いた。

 「そうですね。南條君がお金を借りていた金融業者も、スコーピオンと繋がりのあるヤクザが運営している企業のようです」

 「それでスコーピオンが絡んでくるんかぁ」


 上条が嘆息をつくと部屋の中に沈黙が落ちた。防音がしっかりと施された部屋だったが、下のフロアからダンスミュージックが漏れている。最初は宝石を取り戻すというだけの話だったはずが、随分とややこしい事態になってきてしまったようだ。


 「しかし本当に面倒なのはスコーピオンの七代目総長『不破征四郎ふわせいしろう』の持つ能力の方です」

 琉王はそう言うと、口元だけ笑ってみせた。「何やら、色々面倒なことになってきましたねぇ」


 しかし、それはまるでトラブルを楽しんでいるような口調にも感じられた。


  ―――†chapter6に続く。

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