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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter17 幻想のウィザード
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†chapter17 幻想のウィザード20

 「結局、都知事は物部もののべ雲海うんかいに決まったんやな」

 上条は昨日行われた都知事選挙のポスター看板を見ながら、対して興味もなさそうに呟いた。


 「あの悪人面のハゲちゃびんが当選するとか民主主義の崩壊だな」

 後ろを歩く拓人は、空を眺めながらため息でも吐くような調子でそうぼやく。公園通りの坂を上りきると両脇に並ぶ建物がなくなり、上空に見えていた高い青空が目の前に広がった。今日は気持ちの良い秋晴れだ。 


 「まあ、他にろくな候補者がいなかったんでしょ。毎度の事だけど選挙っていうのは民主主義というより、消去法で決まるものなのよ」

 上条の横にいるみくるがそう言って振り返った。まだ未成年のくせに達観したような顔をしている。だがギャルが政治のことを語っても、あまり説得力がないな。拓人はそんな思いで曖昧な相槌を打つ。


 「せやけど、今回の都知事選の投票率は過去最高やったらしいで」と上条。

 そのことに関しては昨日報道で散々流れていたので拓人も知っていた。前回の都知事選では50%を切ってしまっていた投票率が、今回急に80%を超えたのだそうだ。勿論これには理由がある。


 「物部は色の効果を最大限に利用して人の心を操る術を持ってるっていうから、それで投票率が上がったんだろ」

 それは先日、貞清が言っていたことだ。弟の連山れんざん同様、兄も雲海も亜種だというのだ。


 「ん? 物部雲海も亜種なんか? ホンマ日本は、いつんなったら亜種の政治家を排除できるんやろなぁ」

 上条はいつになく憤った様子でそう語る。これも貞清の受け売りなのだが、亜種は本来被選挙権を持たないはずなのだが、何故なのか亜種と思われる政治家は山のように存在しているのだという。


 「世界的には亜種の政治家はいないのか?」

 何気なく拓人が言うと、上条が声を荒げた。

 「少なくても先進国でここまで亜種の政治家がのさばっとるんは日本ぐらいやでっ!」


 そして上条は、日本の政治がいかに腐敗してしまっているということを切々と語りだした。面倒くさそうなので拓人はそれを話半分で付き合う。

 難しいことは良くわからないが要約すると、上条は子供の頃に住んでいた自治体の市長が亜種であることを暴露の能力で暴きそれを大人たちに訴えたのだが、結局黙殺されてしまい、挙句何らかの圧力が掛かった父親が地元での職を失うことになってしまったのだそうだ。本当だとしたらまあ酷い話だ。


 「けど結局アメリカもロシアも、亜種の組織が裏で糸を引いて政治を動かしてるから結局のところ日本とそう変わらないわよ」

 みくるがそう言って上条のことを諌めた後、3人は細い路地へと入って行った。


 「ところで今日はどこに行くつもりだ?」

 拓人は聞く。そこは来たこともないような裏路地。お洒落過ぎて看板だけでは何屋さんなのかよくわからない店舗が軒を連ねている。


 「かすみ園やで。そういえば拓人は行ったことなかったか」

 「かすみ園? えっ、何しに行くの?」

 その言葉を聞き、拓人はうろたえた。かすみ園と言えば、あの恐ろしいキム子が職員を務める児童養護施設である。


 「何ってことはないやろ。みくるちゃんの実家なんだから里帰りみたいなもんや」

 上条が言うと、みくるがすぐにそれを否定した。「いや、実家ではないから」


 そんなどうでもよいやりとりをしながら、上条とみくるは更に狭い小道に入る。しかしまあ、歩いて行けるのだから実にお手軽な里帰りだ。


 車が1台ようやく通れるかというような小道を進んで行くと、小さな庭のある青い屋根の建物が見えてきた。庭の中央には白髪頭の老婦人が立っている。彼女はこちらに気付くと淡く微笑んで手を振ってきた。


 「園長先生、こんにちは!」

 みくるは普段見たこともないような礼儀正しい態度で老婦人に挨拶をする。


 「みくるさんのこと心配していたんですよ。けどお元気そうでなによりです」

 園長先生と呼ばれた老婦人は、しみじみとそう語りながら庭に続く入口の鉄門を開けてくれた。始めは何を心配しているのだろうと思っていたが、話す2人の雰囲気から逮捕された琉王るおうのことを言っているのだと気付いた。みくるがこの施設の出身なら、兄である琉王も当然この施設を出ているのだろう。


 「今、あの子を呼んできますよ」

 園長はそう言って建物の中に入って行く。上条とみくるは大人しく「はい」と答えその場に留まった。


 老婦人園長の言う、あの子とは一体誰のことであろう? 以前施設にいた竹村琴音は、母親である竹村亜樹の元に戻ったのでここにはもういなかったはずだが……。

 訝しげな顔をしていると、いつもは鈍い上条が何かを察したのか「ああ、あの子いうんは……」と答えだした。


 拓人が顔を向けると、その瞬間話している途中の上条が「うっ!」と苦しげな声を上げた。それもそのはず、見ると上条は大柄の不審者に後ろから首を押さえられ宙に浮いていた。


 「キ、キム子っ!!」

 その大柄の不審者は、かすみ園職員のキム子だった。拓人とみくるが声を揃えて叫ぶと、キム子は不気味に振り返り「おかえりー」と答えた。

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