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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter17 幻想のウィザード
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†chapter17 幻想のウィザード14

 魔術師の指先に黒き炎が灯る。

 「誰から相手してあげようかな?」

 徐々ににじり寄る魔術師。プレッシャーに耐えきれなくなったマッドクルーのメンバー2人が魔術師に向かって襲いかかった。

 「上等だコラ!」


 しかしマッドクルーの2人が魔術師に近づいたその瞬間、どこからともなくどす黒い火柱が沸き上がった。だぼだぼの衣服に炎が燃え移ってしまったマッドクルーの2人は、後退しながら慌てて火を叩き消した。


 「これで早くも2人脱落?」

 魔術師は無感情に言う。マッドクルーの2人はダメージこそ受けていないようだが、今の炎ですっかり腰が引けてしまっている。魔術師の言う通り、この場ではもう手が出せなくなっているようだ。


 しかしそんな二の足を踏んでいる2人の陰から、物凄いスピードで駆けてくる人物がいた。疾風の能力をコピーした雫だ。それに気付いた魔術師は、前傾姿勢になり両腕を広げる。

 「出でよ、魔法樹の杖!」


 魔術師の胸の前に、長さ1メートル程の木の杖が出現した。雫は杖を避けるように特殊警棒で殴りかかったが、宙に浮いた杖はぐるりと横に回転しその攻撃は弾いた。

 「くっ!」


 雫は尚も攻撃を続けるも、宙に浮いた杖はその全てをことごとく防いでいた。

 焦りからか雫の顔に珍しく汗が流れる。どうもいつもより精彩に欠けているようだ。雫でも分が悪いか? 援護するべく、今度は拓人が魔術師に立ち向かった。


 道路に落ちた枯れ葉を巻き上げながら、疾風の能力で拓人が飛びだした。一瞬の内に距離を詰めたのだが、魔術師の杖が前を塞ぎ、その動きを止められてしまった。拓人は地面を踏みしめ何とかそれを押し退こうとするが、宙に浮かぶ杖はどれだけ力を加えようと微動だにしなかった。


 「大した能力だな、魔術師」

 拓人はそう吐き捨て、一旦身を退いた。

 「何それ、褒め言葉?」

 魔術師は笑みを浮かべたまま右手を振り、己の周りに黒い炎を放った。魔術師の周りに炎の結界ができる。


 「亜種の喧嘩はめちゃくちゃ過ぎなんだよ……」マッドクルーのキャップの男が愚痴るように呟く。

 魔術師みたいなチート能力と他の亜種を一緒くたにしないでほしい。そもそも刃物持って喧嘩するお前らにそんなこと言う資格あるのか? 拓人はズボンの腰の位置を直しながらそう思った。


 拓人、雫、魔術師、そしてマッドクルーのメンバーが静かに睨み合う。辺りの風が強まると共に、空からぽつぽつと雨粒が零れだした。

 「なあ、雫。あの魔術師の能力はコピーできないのか?」横目で窺いつつ拓人が声を掛ける。

 雫は少し困った表情を浮かべると、小さく首を横に振った。

 「さっきから試してはいるんだけど、あの能力は何だか変。どうしても同調することができないの……」


 「……コピーできない?」

 思わず拓人が大きな声でそう言うと、魔術師は何か気付いたように手のひらを叩いた。

 「成程。似たような能力を使うと思ったら、女の方はコピー能力だったのか。けど僕の能力はコピーできないよ。この能力が使えるのは選ばれた人間だけだ!」


 魔術師の言葉を受け、雫はハッと顔を上げた。

 「あなたはもしかして『異形』なの?」

 異形とはアルビノやオッドアイなどの身体的特徴がある亜種の総称で、多くは通常よりも強力な人外の能力を持っているという特性がある。


 「異形? そんな気持ち悪い人たちと一緒にしないで欲しいな。選ばれた者ではあるけど、僕は至って健全な亜種なんだから」

 魔術師にそう言われ、拓人は苦虫を噛みしめる。異形といえば、当の拓人も『スターイエロー』という特殊な身体的特徴を持っているのだ。だがそのスターイエローはとある条件が揃った時にだけ限定的に現れる異形の症状で、普段は魔術師の言うところの健全な亜種と何ら変わりはなかった。


 「何が何でもお前のことを倒したくなってきたよ」

 拓人は前を睨み自然体で構えた。強さを増した雨が地面に叩きつけている。


 「期待してるよ、風使いのお兄さん」

 魔術師の周りを囲う黒い炎は、雨を受けても消えることなく燃え続けている。これは先日ハチ公前広場で確認していたが、この黒い炎の特徴らしい。燃料のない場所でも燃え続け、かつ雨を受けても消えることのない炎。


 拓人は難しい表情を浮かべ、雨に濡れた髪を前に掻き上げた。

 スターイエローの能力を発揮すれば魔術師にも対抗できるのかもしれないが、残念ながらこの症状は自分でなろうと思ってなられるようなものではなかった。


 では、どうすればいいのか……?

 対抗策が思い浮かばぬまま魔術師と対峙する拓人。


 するとその時、タワーレコード渋谷店の前を通るファイヤー通りに強い風が吹いた。拓人が吹かせたものではなく、自然に吹いた北風だ。だが魔術師の放った黒い炎は、その風に煽られることなくその場でじっと燃え続けている。

 拓人は瞬きを繰り返した。「これってもしかして……?」


 デパートの屋上で魔術師と戦った時、彼の放つ黒い炎は疾風の影響を全く受けることがなかった。そのため拓人は、この黒い炎は人外の能力の影響を受けないものだとばかり考えていたのだが、それは少し違うのかもしれない。

 拓人は雨を受けても消えない黒い炎をじっと見つめる。


 もしかするとこいつの能力は、人外の能力が通じないのではなく、この世の全ての法則が通用しないのではないだろうか?

 その時、拓人の頭の中にはそんな仮説が思い浮かんでいた。

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