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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter17 幻想のウィザード
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†chapter17 幻想のウィザード03

 「この人数相手に1人でやり合う気か? 馬鹿な奴だとは思っていたが、本気で頭のネジが抜けてるらしい」

 鷹志はゆっくりと間合いと取りつつ失笑を浮かべるが、対峙する拓人はそれを余裕の笑みで返した。


 「悪いな。俺は1対多数の戦いが好きなんだ」

 半分は強がりだ。まあ、適当に相手してとっととバックレるとしよう。


 拓人は風を受け揺れるビニール傘を畳むと、素早く地面を蹴った。轟音を鳴らす突風と共に前へ飛び出し、そのままにタックルを仕掛ける。

 勢いよくぶつかったのだが、鷹志はそれに怯まずがっしりと受け止めてみせた。硬い腹筋に阻まれたようだ。だが少なからずダメージはあるだろう。


 鷹志の腰を腕で押さえたまま、その顔を見上げる。落ちてくる細い雨と共に、鷹志の鋭い眼光が上から突き刺さった。

 「悪足掻わるあがきだな」


 足元から微かな風を感じる。膝蹴りがくるのだと感づいた時には、すでに足が動いていた。バックステップで跳び退く。しかし敵は鷹志1人ではない。背後に気配を感じたので、拓人は後退の勢いのまま裏拳を放った。背後の人物の首に拳がめり込むと、苦しげな声を漏らし横転した。それは黒スウェットの男だった。


 川久保弟ではなかったか。では奴はどこにいる? 警戒したまま視界を広げる。すると、いきなり左手の死角から跳び上がる人影が出現した。

 隼斗だ。そう認識すると同時に、視界が一瞬だけ暗くなった。隼斗の長い脚が、拓人の頭上を通り過ぎる。


 「つっ!」

 身を屈め直撃は避けられたが、隼斗の上段蹴りは頭頂部を掠めていった。痛みを堪えつつ、追撃に備える。しかし上段蹴りの遠心力で半回転した隼斗は、こちらに目を向けるとニヤリとほくそ笑んだ。取るに足らない相手だと言わんばかりに。

 「フン。やはり風の能力などたかが知れてる」


 「風じゃねえ。『疾風』の能力だ」

 拓人はつむじ風の中、鷹志と隼斗を交互に睨む。2、3人痛い目にあわせたら退散しようかと思っていたのだが、中々手強いじゃないか。


 前髪から垂れてきた雨粒が頬を滴る。拓人が水滴を切るように前髪をかきあげると、突然駅の改札口の方から若い女性による黄色い歓声が上がった。勿論、髪をかきあげる仕草がセクシーだったから歓声が起きたわけではないとわかっていたが、何事か気になってしまい戦闘の最中ではあったが少しだけ視線を反らした。


 改札口にいた大勢の野次馬の集まりが真ん中から2つに割れると、その間から1人の男が颯爽と登場した。ベージュのカーゴパンツをはいた茶髪の若者。彼は野次馬の中央を通り抜け傘を広げると、こちらに向かって近づいてきた。

 「ハチ公前広場でB-SIDEビーサイドと喧嘩してる馬鹿野郎がいるって言うから来てみたが、お前だったか……」


 そう言われ拓人は改めて、その若者と向き合った。

 「『障壁』使いか……。代々木体育館の事件以来だな」

 「ああ、あの時はろくに挨拶も出来なかったから自己紹介するよ。僕がB-SIDEの親衛隊長、三浦れんだ」三浦はそう言うと、涼しげに口元を緩めた。


 野次馬の中から再び黄色い声援が上がる。三浦は随分と女性に人気があるようだ。確かにぱっちりとした二重の瞳にシャープな顔立ちはアイドルのようにも見えた。若干幼くも感じるが、親衛隊長という肩書きとのギャップが女子には堪らないのだろう。


 「1つ聞きたいんだが、親衛隊長なのにお前には親衛隊がいるのか?」拓人は改札にいる野次馬に目を向ける。

 三浦はしばらく黙っていたが、意味を理解したのかフッと息を漏らした。

 「面白いことを言うんだな」


 しかし、そう言われて面白くないのは拓人の方だ。僻みを言ったつもりだったが、軽くいなされてしまった。さすがイケメンは嫌味への対応もスマートだ。


 「雨に濡れるのは勘弁願いたいが、この場所を荒らされて黙っている訳にはいかない」

 三浦はそう言うと、傘を閉じその場に投げ捨てた。


 ここにきて更に幹部参戦とは、いよいよ逃げた方が良さそうな展開だ。拓人は敵に悟られぬよう、密かに逃げ道を探った。だが、ただでさえ人通りの多いハチ公前広場は、すでにB-SIDEメンバーと野次馬に囲まれ、逃走が困難な状況になっている。


 「僕が買ってやろう」

 三浦は不意に言ってきた。だが意味のわからない拓人は黙って眉をひそめた。


 「この喧嘩、僕が買ってやると言っているんだ」

 どうやら三浦は、この喧嘩をタイマンでやろうと言っているらしい。敵ながら立派なものだ。しかし、全てを鵜呑みにすることはできない。アウェーでの戦闘なら予防線は幾らでも必要だ。


 拓人は拳を握り旋風を起こした。くせ毛のマッシュヘアーがふわりと風で舞い上がる。

 「気遣いは不要。全員一緒で構わねぇよ」

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