†chapter5 異形のカリスマ01
一度アルバイト先のカフェバーに戻った上条圭介だったが、仕事には戻らず異形のカリスマ琉王に謝罪するため今日の所はそこを早退させて貰うことにした。
琉王がオーナーを務めるヘヴンは道玄坂上にあり、そこに続く並木道を歩く上条の横には無理やり同行させた山田拓人と何故か一緒についてきた天野雫の二人の姿があった。
「『同調』? なるほどそういうことか、おもろい能力やん」
前から歩いて来る短いスカートを履いた若い女のグループを避けつつ、上条が興奮した様子で語った。
しかし上条の暴露の能力によって、自分の能力が暴かれてしまった雫は不機嫌そうに口をつぐんでいた。
先程まで降っていた雨はすでに止んでおり、並木道には沢山の人たちが歩いていた。
「同調って何? どんな能力?」雫の能力に興味のある拓人もすぐにその話に加わった。
「これは凄いでぇ。半径50メートルの範囲にいる亜種の能力をコピーして、自分の能力として使うことが出来んねん」
まるで自分の能力の様に得意気に語る上条のことを、雫は恨めしく睨んだ。
「まあ、そんな顔せんでもええやんか。どうせ鳴瀬たちには、どんな能力かバレてるんやろ?」
勿論、B-SIDEの鳴瀬たちとは何度も戦闘を繰り返しているので、ある程度どのような能力かは把握しているはずだが、こう明確に自分の能力を言い当てられるのはあまり気分の良いものではなかった。
「拓人も、雫ちゃんの能力は知らんかったんやな」
「ああ。けど俺も雫に疾風の能力を使われたり、それと鳴瀬のサイコキネシスだっけ? それを使いこなしているの見たからだいたいそういう能力なのかなとは思ってたよ」
上条は眉毛を上げて何度か頷くと、中々の推理力だと拓人を褒めた。
「だけど、俺ほど詳細に人外の能力を知り得る人間は他におれへんやろな」
自信満々にそう言いきった上条は更に、この俺に暴けないもんなんてこの世にはあれへんと断言し笑い声を上げた。
夏の暑さより鬱陶しいそのセリフを聞いて、拓人は不快に目を細めた。
「亜種の能力を暴けたところで、それに対抗する術がなければ意味がないだろ。悪いけど暴露の能力なんてそんな大層な能力とは思えない」
拓人の横にいた雫が、その意見に賛同するように何度も頷いてみせた。
「お前らアホか!? ほんならこの能力の凄さを見せたるわっ!」
上条は膝を落とし両手をクロスさせ怪しげなポーズを取ると、おもむろに雫に向かって指差した。
「な、何を暴く気だ!?」
その勢いに怯んだ拓人は一歩後退すると、上条が雫のプリーツスカートに向かって両手をかざした。
「今宵、雫ちゃんのパンティの色を暴いたるっ! ハッ!!」
その瞬間、正面から放った雫のヤクザキックが上条の顔面にめりこんだ。
「し、縞パン……」
「正解」
雫が無感情に言うと、上条は鼻から血を垂らしながら前のめりに倒れた。
暴くまでもなく、今の蹴りで物理的に見えていただろう。と思った拓人だが、そんなつっこみはきっと野暮なのだろうと心の中にしまって、倒れる上条にポケットティッシュを差し出した。
「そんなことより、巡査が言ってた琉王の百聞の能力って一体どんな力なの?」
拓人にそう言われると、上条は鼻血が垂れぬよう上を向いたまま答えた。
「聞くところによると、街で流れている噂話や内緒話が何処に居ても聞こえてくる能力らしいで」
「ふーん。じゃあ、この会話も聞かれてるかもしれないんだな」
巡査が百聞の能力を使って犯人を暴くだろうと言っていたのはつまりそういうことのようだ。
一枚取りだしたティッシュを慣れた手つきでくるくると巻いた上条は、それを両方の鼻の中に詰めこんだ。
「俺も直接会うたわけじゃないから、実際のところはわからへんけどな」
上条が相手の能力を暴けるのは半径5メートル範囲にいる人物に限るので、会ったことがない人物の能力までは勿論理解できない。
すると雫が、小さく手を挙げた。
「私、子供の頃だけど彼に会ったことがある」
「ほう、雫ちゃん琉王に会うたことあるんや? 確か『アルビノ』なんやっけ?」
雫は静かに頷いた。
アルビノとは先天的に皮膚や毛髪の色素を形成するメラニンが欠乏する遺伝子疾患で、そのため皮膚と毛髪は白く瞳孔は青色もしくは血液の色が透け淡紅色になる。その姿は儚げでとても美しいのだが、何故なのか亜種である確率が非常に高く、その上通常の亜種よりも強力な人外の能力を持っていることが多いのだという。
琉王も白に近い金髪に、乳白色の肌を持っている白色人種のような男だと雫が言った。
「白人か、イケメンなんかな?」
上条は低俗な質問をしたが、雫にはいまいちイケメンの定義がわからないため、曖昧に返事を濁した。
「けど、カジノのオーナーなんてやってるからには絶対カタギの人間じゃないだろ? 白人って言っても、イタリアンマフィアみたいな面構えしてるかもしれないぞ」
拓人がそう言うと、雫はそれに対してははっきりとした口調で反論した。
「いえ、凄く優しい目をした人だった」
その時、雫の頭の片隅に過ぎった若き日の琉王の顔は、とても穏やかな表情で笑いかけていた。




