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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人20

 「雫っ!!!」

 血を流し倒れる雫の傍らに、巡査が誰よりも早く駆けつける。


 「ごめんていさん。少しやられちゃったみたい……」

 普段は滅多に表情を変えない雫だが、今は若干表情を歪めている。それもそうだろう。痛々しい傷口からは、赤々とした肉がしっとりと顔を覗かせている。


 雫は自分の力で立ち上がろうとしたが、巡査がすぐにそれを止めた。

 「駄目だ。動くんじゃない」

 巡査はそう言うと、傷口に触れないようにそっと雫を抱き上げた。そして負担が掛からぬよう早歩きでアリーナの端に避難していく。


 だが不破の近くには、まだ拓人が茫然自失の状態でへたり込んでいた。

 「何してんねん拓人! やられるでっ!!」

 上条は身を低くして駆けてくると、ファンが回収してきてくれた六尺棒で不破の顔面を突いた。しかしその攻撃は直前で『障壁』に阻まれ跳ね返されてしまった。


 するとそれに合わせ、今度はボーテックスの佐伯さえきが不破に向かって獣の如く飛び掛かった。遠心力を利用した左フックが不破のみぞおちの脇に突き刺さる。急所である肝臓を狙ったパンチだ。痛覚の無い不破の口からも、苦しげな声が漏れる。


 この隙に助けようと上条が拓人に近づき手を伸ばすが、不破はすぐに反撃を仕掛けてきた。

 「グオオオオオォォォッ!!」

 咆哮ほうこうと共に不破の周りに衝撃波が走る。近くにいた拓人と上条と佐伯の3人は、その攻撃を受けるとおもむろに弾き飛ばされた。


 上条は床に手をつき、身体を立て直す。

 「くそっ! これが相楽さがらの『インパルス』の能力か。思った以上に……!?」

 そこまで言って上条は気付いた。目を血走らせた不破が、うずくまる拓人へ止めを刺そうとしていることに。


 「いや、させへんぞっ!!」

 六尺棒を握り、床を蹴る上条。しかし不破の動きの方が僅かに早い。5本の爪が拓人の首に襲いかかる。


 飛び込んだ不破は掲げた右腕を袈裟けさに振りきった。拓人は首の左から右胸にかけて引き裂かれ、身に着けていた蛇のネックレスが一緒に弾け飛んだ。カタコンベ東京で楊から譲り受けた、あの首飾りだ。

 絡み合う蛇を模したチェーンがバラバラになり、赤い血と混じり宙を舞い散る。拓人のシャツはズタズタに引き裂かれ、白い布地は血で真っ赤に染まった。


 拓人は嗚咽おえつと共に血反吐を吐き出す。

 やられた。俺はもう死ぬのか? こんなところで、誰1人守れずに死んでいくのか? 鼓動に合わせて血が吹きだす。胸の傷は痛くないが、目の奥に不思議な違和感がある。迫りくる死の前兆だろうか? 拓人の瞳から自然と涙が溢れた。


 「何してくれてんねんっ!!」

 僅かに遅れて上条の六尺棒が不破の脇腹を打った。だが不破は眉一つ動かさない。右手を向け衝撃波を放つと、上条はそこから簡単に弾き飛ばされてしまった。


 後ろに何度か回転した上条は、腹を押さえ前を睨みつけた。

 「拓人ぉっ!!」

 だがそう叫んだ瞬間、上条の表情が急に強張った。胸を裂かれ伏していたはずの拓人がいつの間にか立ち上がり、威嚇いかくする不破と視線をぶつけ合っていたからだ。


 「俺は、わかったんだ……」

 拓人は言う。不破は何かを感じたのか、たじろぐように後ずさった。これは今までにない反応だ。


 「な、何がわかったんや?」

 「やんさんがくれたネックレスの意味が」

 そう言いながら拓人は前に進む。不破もそれに合わせてじりじりと後退した。


 「ネックレスって、あの蛇の奴か?」

 上条の言葉に拓人は頷く。「そう」

 「あれって、確か亜種の何かを覚醒させる術具やって言うてたよな?」

 そこまで言ったところで、上条はハッと拓人の顔に注目した。


 「拓人。お前、目の色がおかしなってるで……?」

 指を差した上条が言う。だが当の拓人は、鏡もないところなのでそのことに気付くはずもなかった。

 「目?」

 だが何らかの異変が起きていることは薄々感づいていた。見える景色が、今までと少し違ってきてるからだ。


 「何だか良くわからないけど、俺今尋常じんじょうじゃないくらい落ち着いてる。雫を傷つけられて一瞬すげえ感情的になったんだけど、それを通り越したら余計な感情とかどこかに飛んでいってしまって、それで集中力だけが脳に残ったみたいだ」

 拓人はその間も不破を睨み続けている。そしてその瞳は、どういう訳なのか黄色く変化し光り輝いていた。


 「オオオオオオオオオッ!!」

 顔の中央に皺を寄せ不破が吠える。追い詰められた獣は何をするかわからない。拓人はそれに合わせ身を構えると、背後から突風を吹かせた。濁流だくりゅうの様な風が一直線に不破を襲う。


 攻撃を仕掛けようとしていた不破に、それを防ぐことは出来なかった。突風に呑まれその巨体が宙に浮く。そしてアリーナの端まで吹き飛ばされ壁に激突し鈍い音が響き渡ると、体育館の中はシンと静まり返った。


 「い、今の風、拓人が出したんか?」

 上条の問いに頷いた拓人は倒れた不破にゆっくりと近づいて行く。

 「『疾風』の能力は俺のものだ。これ以上、お前の思い通りにはさせない」

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