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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人18

 天井付近を浮遊している不破と、我々の居る場所は距離にしておよそ15メートル。『障壁』の能力で防がれてしまうため、もう少し近づかなければ銃弾を浴びせることは出来ないようだ。


 巡査は銃を持つ手を下ろした。「怪物グゥアイウー、こっちに来いっ!!」

 しかし不破はその言葉を無視するかのように後ろに下がると、黒煙の中に消えていった。巡査は尚も叫ぶ。

 すると数秒の後、異変が起きた。黒煙の中から「バキッ!!」という破壊音が鳴ったかと思うと、天井から巨大なスピーカーが勢いよく落下してきたのだ。


 落下物が床に衝突し、激しい音がアリーナに響く。幸い真下には誰もいなかったが、落ちてきたスピーカーの破片が飛び散ったのを皮切りに、今度は黒煙の中から無数の黒いつぶてが一斉に下降してきた。あれはバッタだ。


 「痛っ! 痛っ! いってっ!!」

 防ごうにも防ぎきれない大量のバッタが亜種たち目掛けて容赦なくぶつかってくる。目も開けてはいられない。


 「やばい! 不破も来るぞっ!!」

 この状況で誰かが気付いた。バッタを避けるように腕をかざし薄目を開けると、白い体毛を揺らし突っ込んでくる不破の姿が映った。


 不破は落下の勢いを保ったままALICEアリス逆月さかつきに襲いかかる。まずい!

 瞬時に反応した雫が逆月に向かって床を蹴った。そして「メキッ!!」っと鈍い音が鳴る。見れば不破の拳が、頑丈そうなフローリングの板材を真っ二つに叩き砕いていた。逆月は雫によって横に飛ばされ、事なきを得たようだ。


 不破は砕けた床の中から拳を引きぬくと、獰猛どうもうな獣のようにうな威嚇いかくしてきた。よくよく見ると、不破の身体が2回り程大きくなっている。もはやどんな変化があろうとも驚きはしない。


 「これが亜種のなれの果てか……」

 氏家は猛獣のような不破と平然と向き合っている。体格差は大人と子供ほどあるのだが、氏家は指先を揺らしこっちに来てみろと挑発している。奴もまた正気ではない。


 牙を剥いた不破が襲いかかってきた。巨体からは想像もつかないような速さだが、氏家はそれをサイドステップで難なく避けた。雪のように純白の体毛を持つ不破と、闇のように漆黒の肌を持つ氏家が電光石火の間に交差する。


 「そんなテレフォンパンチが当たるかよっ!!」

 その殴りかかる腕を両手で掴んだ氏家は、そのまま関節を取り仰向けに押し倒した。そしてその太い腕を両手と首で押さえつけ、足で不破の首と身体を固定した。これは柔術でいう、腕挫うでひしぎ十字固めだ。


 しかし関節を取られても痛覚の無い不破は顔色を変えない。ただうっとおしそうに右手を振り払うと、氏家は掴んだ腕ごと宙に浮きあがり、身体2つ分吹き飛ばされてしまった。


 「おいっ、大丈夫かっ!」

 拓人がその場に駆け付ける。だが氏家はすぐにネックスプリングで起き上がった。

 「ハハッ、強いな。全く敵わなそうだ」

 氏家は口ではそう言った。しかし動じている様子はなく、息を整えると再び戦闘態勢に入った。


 「敵わないと言う割には、随分余裕を見せてるじゃないか?」

 拓人の質問に氏家は苦笑する。

 「わざわざ相手にこっちがやばいこと知らせてどうする? 男ってのはピンチの時こそ、笑って見せるもんだろ」


 どうやら氏家は虚勢を張っているだけのようだ。もはや意思があるのかどうかも怪しい不破相手に、そのような心理戦が意味をなすのかどうかはわからない。いや、相手が本能で戦う猛獣だからこそ、気持ちだけでも優位に立つ必要があるのかもしれない。


 ゆっくりと起き上がる不破の背後から、今度は巡査がブローニング・ハイパワーの銃口を向けた。延長線上にいた拓人と氏家は慌ててそこから離れる。

 巡査は3回、引き金を引いた。銃声と同時に不破は目の前に障壁を張る。頭と胸部を狙った銃弾は弾かれてしまったが、足に狙った1発だけは障壁をすり抜け見事太腿に被弾した。生々しい赤い血が床に飛び散ると、巡査の目が大きく見開きそして更に追撃をする。


 乾いた発砲音が幾度となく続く。不破は下腹部から足にかけて何発か被弾したが、胸より上は障壁により完全に守られていた。そして銃弾が無くなると、巡査はレバーを外し空になった弾倉を床に落とした。


 「巡査! 俺らが後ろにいんのに発砲すんなよ!」拓人は抗議する。

 「貴様らに当てるようなへまはしない。ウォの腕を信じろ」

 巡査はそう言ってブローニング・ハイパワーに新しい弾倉をリロードした。腹部と足から血を流す不破は、下半身を小刻みに震わせている。


 「へへへ。あれだけの銃撃だ。いくら化物とは言え、さすがに立ってるのもやっとのようだな。一気に畳みかけるか?」

 氏家の言葉に、巡査は首を横に振る。

 「いや、駄目だ。あれを見ろ」


 不破の下半身に出来た銃痕から、次々と銃弾が排出される。そして流血が止まると、下半身の震えも収まってきた。尋常ならざる新陳代謝である。

 「ああ、巡査の『異常代謝』か。だから不破の奴は頭と胸だけ守ってたのか。全く厄介な能力だな。どう倒したらいい?」

 すぐに回復してしまう今の不破に物理攻撃はほぼ無意味。ただ頭や心臓のような生命に関わる急所を銃で撃ち抜けば、あるいは倒せるのかもしれない。


 「あの怪物グゥアイウーに半端な攻撃など意味がない。だが関節を外すような技なら少しは有効かもしれないな。外れた関節は異常代謝では治らないし、今の奴の知能では自分の力で関節を戻すことなど出来ないだろう」

 巡査は言う。皆が不破の巨体に目を向けた。


 「関節かぁ……」

 しかしそれは、あの化物の懐に飛びこみ戦わなくてはいけないということでもあった。

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