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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter4 雨の殺戮者
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†chapter4 雨の殺戮者04

 雫は未だにえずく拓人の背中をゆっくりさすりながら、巡査の方に目を向けた。

 「ていさんは、犯人の目処めどはついてるの?」

 しかし巡査は「いや」と首を振った。

 「残忍な殺しの手口はチャイニーズマフィアの専売特許だが、もしかすると泰国タイのギャング同士の抗争かもしれない」

 巡査は不愉快そうに顔をしかめると「そろそろ本庁の刑事が出てくるだろう」と呟いた。


 「なんや、これで4件目の殺人なのに、まだ犯人像も掴めてないんか? 先が思いやられるでぇ」

 難癖をつける上条に対し、巡査は持っていたベルギー製のオート拳銃、ブローニング・ハイパワーの銃口をこめかみに突き付けた。

 極度の緊張から呼吸が止まってしまったかのような感覚に陥った上条は、ゆっくりと息を整えつつ静かに両手を上げた。

 「す、すみませんでした……」


 巡査は銃口を突きつけたまま、瓶の中に残った少量の紹興酒を全て口の中に注ぎ込んだ。

 「今は面倒な事件も起きていることだし、貴様の起こしたちんけな犯罪は見逃してやろう。だが次に同じようなことを起こしたら……」

 そこまで言って、巡査は紹興酒の瓶を空中に勢いよく放り投げた。ボトルが回転しながら10メートル程の高さに飛び上がると、巡査は天に向かって拳銃の引き金を引いた。


 銃口から飛びだした9mmパラベラム弾が、宙に浮かんだボトルの真ん中を撃ち抜いた。頭上で甲高い炸裂音が鳴り響き、耳の奥を不快に揺らす。


 「うわっ!!」

 天から大粒の雨と共に、割れたガラス片が地面に降り注いだ。だが巡査はその場に立ち尽くし、そのガラス片の雨を全身に受けた。はだけた上半身から赤い血が滴る。

 「次はこうなるから覚悟しておけ」


 アルバイト先のカフェバー『スモーキー』から逃げた際は、巡査の撃った銃弾はただの1度も当たることはなかったのだが、たった今撃った銃弾は空中に投げた紹興酒のボトルを1撃で射抜いてみせた。今回たまたまうまくいっただけなのか、それとも追いかけていたときはわざと当てなかっただけなのか? 上条には、どうも後者のような気がしてならなかった。


 「まあ、貴様たちはウォが捕らえなくても『帝王』鳴瀬光国か、『異形のカリスマ』琉王るおうにいずれ殺されるだろう」

 巡査の聞き捨てならない言葉に、上条の瞳孔が大きく開いた。異形のカリスマ琉王とは、道玄坂にあるカジノ『ヘヴン』のオーナーで政治家や裏社会とも繋がりがあると言われている渋谷の住人なら知らない者はいない超大物の名前だ。


 「琉王やと!? B-SIDEビーサイドのエリアで好き放題やったんやから鳴瀬に狙われるっちゅうのはしゃあないけど、何で俺らが琉王に殺されにゃアカンねん!」


 「嘻嘻嘻嘻嘻シシシシシ! 知らないのなら特別に教えてやる。貴様たちが上げた花火のせいで『帝王』鳴瀬と『異形のカリスマ』琉王、渋谷に君臨する2人の王が一触即発状態なんだ」

 「ど、どういうことやっ!?」


 巡査はまた奇怪な笑い声をあげると、その詳細を語りだした。

 話をまとめるとこうだ。


 宇田川町、道玄坂の一帯のネオンはB-SIDEビーサイドのチームカラーである青で通常統一しなくてはいけないという暗黙の決まり事があるのだが、唯一青以外のネオンを使用している所がありそれが店のイメージカラーであるゴールドのネオンを使用している道玄坂ヘヴンなのだ。

 渋谷最大の遊技施設であり、B-SIDEビーサイドのメンバーも頻繁に利用していることからリーダーの鳴瀬もここだけは特別措置をとっているらしい。


 しかし先日上条たちが上げた黄色の花火がどうも見ていた他の人間には金色に見えていたらしく、B-SIDEビーサイドは花火を上げた犯人をヘヴンの従業員の仕業だと考えて色々と因縁をつけているのだ。だが当然そんな事実はなくヘヴンにしてみれば寝耳に水で、そこでいざこざが起きているのだという。


 「なんでやねん! だからあれは、俺らスターダストのチームカラーの黄色やって言うてるのにっ!」上条は大声でつっこみを入れた。


 巡査は愉快そうに肩を揺らすと、薄暗い空を見上げた。時刻は丁度午後6時。先程まで強く降り続いていた雨が、ようやく振り方を弱めてくると共に、電子音のチャイムが街中に鳴り響いた。


 この鐘の音が、渋谷の夜を知らせてくれる。スピーカーからチャイムが鳴り終えると、今度はかき乱すような大音量のBGMが鳴り始めた。渋谷駅前はこの時間から午前4時まで、条例によるネオンと音楽の規制がなくなるのだ。


 「例え勘違いとはいえ、お前たちが落とし前をつけるのが筋だろう。琉王は執念深い男だ。奴の持つ『百聞ひゃくぶん』の能力を使って、必ず犯人を突き止めるはず」

 巡査にそう言われると、琉王の百聞の能力がどんなものなのか知っている上条は、何か覚悟を決めたように真っすぐ前を見据えた。

 「そうやな……」


 静かだった街に活気が出てきた。今はまだ人通りは少ないが、後1時間もすれば雨が降ろうと殺人事件が起きようと、この渋谷の街は今日も沢山の若者で賑わうだろう。


  ―――†chapter5に続く。

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