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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人16

 「よっこらしょっとっ!」

 床に設けられた点検口の中から、ファンがのそのそと這い出てきた。手には大きな荷物を抱えている。そしてそれに続き、今度は茶髪のツインテールがひょっこり現れた。


 「ちょっとあんた、あたしスカートなんだから絶対に見上げないでよね!」

 「……安心しろ。俺だって小娘のパンツなんざ、見たくもねぇよ」

 女と男の会話が床の下から聞こえてくる。


 茶髪のツインテールが顔を出した。色素の薄い左目にブラウンの右目。それは佐藤みくるだった。

 「おお、みくるちゃん。無事やったんか!?」

 上条がそう言って屈むと、ハッチから顔だけ出したみくるが鋭い視線を向けた。

 「もう、そういうの良いから、早く手ぇ貸してよ!」


 苛立った様子のみくるが上条に細い腕を引かれ床の上に出てくると、短めのラップスカートを押さえ点検口の下に罵声を浴びせた。

 「こんな若くて可愛い女の子の下着に興味ないってどういうこと? 熟女好き? それともホモ? 言っとくけどあたしは、ホモとかオカマみたいな非生産的な生き物がこの世で1番嫌いなんだからねっ!!」

 みくるはそう言いきると清々しく顔を上げた。そしてそこで初めて拓人の存在に気付いた。

 「あれ、疾風使いの……。あんた何してるの?」


 「何してんのは、こっちのセリフだよ。何でお前はこんなことから出てくんだよ!」

 拓人が言うと、みくるは周囲を見回した。そして残念そうに肩を落とす。

 「はぁー。結局、体育館からは出れなかったのね」

 みくるは閉じ込められていた部屋から天井を使い脱出を試みたものの、どういうわけなのかアリーナの下に辿り着いてしまったようだ。


 「それでも、あの何もねぇ部屋に閉じ込められているよりかはましじゃねぇか」

 床の点検口から更にもう1人、褐色の肌の男が顔を出している。先程みくるが罵っていた人物だ。


 「あいつが氏家うじいえって奴か?」拓人は上条に聞く。

 「そうや。あいつが『獄卒ごくそつ』の異名を持つ瑠撞腑唖々ルシュファーの頭、氏家時生ときおや」

 「獄卒……。地獄の鬼か」


 氏家が床の下から出てきた。元プロボクサーということだが、成程確かに服の上からでも引き締まった身体をしているのがわかる。だが何より目立つのはその肌の色だ。始めは褐色かと思ったが、日焼けにしては少し黒過ぎる。もしかするとネグロイドのそれよりも、黒色が濃いのではないのだろうか。


 「小僧、俺の肌の色が珍しいか?」

 氏家がペロリと舌舐めずりする。何と彼は舌の色まで真っ黒だった。

 「あんたのその肌の色は異形なのか?」


 「ああ、そうだ。10万人に1人の確率で生まれる『メラニズム』っていう異形だよ」と氏家。

 メラニズムとは先天的に皮膚や髪の色素を形成するメラニンが過剰に増加する遺伝子疾患で、そのため皮膚は闇のように黒くなり、その人物が持つ人外の能力は凶悪な物になるのだという。


 「何よ偉そうに! 日焼けサロンに行きすぎただけでしょ、ホモマッチョ!」

 何故かみくるは氏家のことを痛烈に非難する。彼女は異形という言葉を嫌っているので、自信満々に自分のことを異形だと語る氏家が好きではないのかもしれない。しかし、当の氏家はそんなことはあまり気にしていない様子で周りに目を配った。


 「で、今はどういう状況なんだ?」

 氏家のその質問に答えたのは、背後からやってきた佐伯だった。

 「噂通り、不破征四郎がデーンシングの軍門に下ってしまったようで、仕方なく皆で彼を倒そうと試みてるんですよ。氏家くん」


 その声に反応すると氏家は微かにはにかんだ。黒い肌の中に歯だけが異常に白く感じる。

 「何だ、佐伯じゃねえか。お前も捕まったのか?」

 「ええ、昼間でしたし油断しました」

 佐伯が氏家の近くに寄って行くと、周りの亜種たちの表情が凍りついた。空気を察した拓人は2人に目を向けたが、彼らは至って和やかな様子だ。


 「なあ自分ら。こんな時やし喧嘩は無しやで」

 周りに緊張感が走る中、上条がそう言った。

 そこで拓人は思い出した。氏家の所属する瑠撞腑唖々ルシュファーと佐伯の所属するボーテックスは、渋谷駅西側エリアの覇権を巡りTrueトゥルーというもう1つのチームと共に三つ巴の抗争を続けているのだ。

 現在の渋谷は鳴瀬光国みつくに率いるB-SIDEビーサイドと、不破征四郎率いるスコーピオン。そしてここにいる黄英哲ファンヨンチョルが代表を務めるファンタジスタが通称三大勢力と呼ばれ恐れられているが、その西口での抗争を制したチームが第4の勢力として名乗りを上げるのではないかとまことしやかに囁かれている。


 「当たり前だ。喧嘩などするか。それよりも渦中の不破はどこにいる?」

 そう今はチーム同士の争いより、倒さなくてはいけない共通の敵がいるのだ。拓人は天井の中央を指差した。

 「あそこだよ」


 天井の黒煙は、一面を覆い尽くす勢いでその大きさを増している。そして亜種たちが見上げていると、黒煙の中からタイミング良く不破が顔を出した。『鬼人きじん』と『人狼』の他に更に何か亜人系の能力を重ねたようで、その顔はもはや異世界の魔物にしか見えなかった。

 「ありゃあ、俺の鬼人の能力じゃねえか。……くそっ、不破の野郎やってくれたな」

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